33.


「午後から雨になるんですって」

「だとしたら、午前中に洗濯とか買い物に行かないと。お散歩もしたいところね」

「⋯⋯クッキー食べよ」

「こら、さっき食べたばかりでしょ」

「今日のおやつは何にしようかしら」


朝食後、自分以外の声を聞かせるのはどうかという安野の提案で、特に拒否する理由がない姫宮は、安野達の声を聞かせるためにリビングのソファでゆっくりとしていた。

食後、リビングにいても用がないため、すぐに自室に引きこもっていたものだから、安野達が慌ただしくも賑やかな会話をしていることを初めて知った。

その何気ない会話は、姫宮も耳心地よく感じられ、こないだよりも大きくなった腹部を撫でながら、耳を傾けていた。

そうして、気づけば、教育番組を垂れ流しているテレビを観ているうちに、うとうととしかけていた時、近くに備え付けられていたカメラ付きインターホンが鳴った。


「はいはい」


安野が小走りにそこへと行くと、カメラに映る人物を見たようだ。「はい?」と素っ頓狂な声が上がった。

それがきっかけで、他の人達も安野の所へ集まり、我が先にとカメラを見、そして、それぞれ驚きの声を上げた。


「えっ、なんで⋯⋯?」

「今日、来るって行ってた?」

「言って、ないと思うけど⋯⋯」

「松下さんが事前に言わないわけがないと思うけど、本当に?」


騒がしくなり始めたことに、目が覚めてしまった姫宮は何事かと目線を向けた時、再び鳴った。


「いつまでも待たせるわけには行きません。私が行きますから、その間、心構えをしておくように」

「はい」


凛とした声で安野が言った瞬間、姿勢を正した他の人らが揃って返事をする。

安野が玄関へと赴いた直後、他の人達は、ダイニングへと戻って行ってしまった。

誰が来るのか訊きたかったのだが、いや、松下がどうのこうのと言っていた。とすると、安野達が動揺し、松下にも関係がある人物と言ったら──。

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