20.


自室のベランダに出、手すりに手をかけていた。

最上階ではあるが、やはり周りのマンションも建物によっては、姫宮がいるマンションよりも高く、目線の先は玄関側がずらりと並んでいるのが見えた。

階下は道路が通っており、忙しなく車が通っていたり、たまにクラクションが響いていた。

晴天で日向にいるとちょうど良い暖かさであった。

時折吹く風がなければ、夕食時間までずっといても良かったのだが。

運動をしても良いが、必ず誰かと付き添うようにと、そのタイミングはあちら側からすると書いてあったため、姫宮が勝手に一人で外に行くことは出来ない。


趣味という趣味がない姫宮は、暇潰しにさっきと同じように動画を流し、小さく口ずさむ。


「姫宮様! ずっとベランダにいたのですか!」


三曲目を歌っている最中だっただろうか、不意な声に内心驚きながらも、表情は反応しているかのようなしてないような顔を向けた。


「最近、暖かくなってきたとはいえ、お身体に触りますよ!」


さあ、入って入って!と中へ促す安野に気圧され、素直に従った。

後ろ手で閉める安野と向き合うと彼女はこう続けた。


「このような経験が何度かある方に言うのもなんですが、元々お身体を冷やしてしまうのはいけないことなのですよ。もっとお身体を大事になさってください」

「⋯⋯すみません」


小さく謝ると、「それと」と言った。


「先ほどの歌われていたことなのですが、少々言いすぎたことをお詫び申し上げます」


深々と頭を下げる安野に分からない程度の目を開く。

どうして謝るのか。


「気に障ってしまったかと思いまして」

「気に障る、だなんてそんなこと⋯⋯」

「歌いたいからそうされたのでは?」

「⋯⋯どちらかと言うと、御月堂様のお子さんのためになのですが」

「では、なおさらではないですか!」


急に声を上げたものだから、小さく肩を震わせた。

そのことに気づいたのか、「失礼しました」と返される。

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