19.
「──姫宮様、昼食の時間です」
「失礼します」と入ってきた
結局、その後も昼食の時間になるまで歌い続けていたので、喉の違和感と渇きを同時に覚えた。
ちょうど良かったと、短く返事しながら安野の後をついて行った。
「こちらにお掛けになってください」
椅子の後ろに立っていた今井が引いたのを、それに従い、その席に座った。
規則正しく並んだフォークやスプーンの間に料理が置かれていた。
「······いただきます」と小さく言って、フォークを手に取り、一口食べる。
「お味の方は大丈夫でしょうか」
おずおずと安野が言うのを、「はい。大丈夫です」と返すと、ホッと胸を撫で下ろした。
「それは良かったです。たくさん作りましたので、冷めないうちに遠慮なく食べてください」
「ありがとうございます」
食に対しても興味がなくなってしまい、食が細い姫宮であったが、これから育っていくお腹の子のために少々無理にでも食べなくてはと思いながらも。
姫宮が用がない限り、あちら側は声を掛けないのであろう、それからは一言も話さずにいた。
そうであるから、視界に入らないと自分一人でいるような気分になる。
姫宮にとってはそれが気楽にいられるので、さほど気にするほどではないが。
今回の依頼人である御月堂のリクエストにあった、『食事中はクラシックを聴かせる』というもので、食事中流れていた。
前に聞いたことがあるような曲だが、曲名は知らない。
クラシックの中に、時折、フォークが食器に当たる音が混じる。
黙々と食べていた姫宮はやがて、 フォークを置いた。
「ごちそうさまでした」
「おかわりはよろしいんですか?」
「はい」
ナプキンで口元を拭くと、きょとんとしている安野に軽く頭を下げ、部屋を去っていった。
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