7.


薄く瞼を開ける。

あれ、私はいつの間に寝ていたのだろう。臨月であるから、夜寝れなくてうたた寝でもしてしまったのか。

数度瞬きをして、ぼんやりとしている視界が少しずつ晴れていく中、白い服を着た人が不意に現れ、こちらを覗き込んでいた。


「あぁ、良かったです。急に倒れてしまうものですから、どうしたものかと」


そこで視界が晴れ、私的な感情を交えた看護師が小さな声で言っていた。

看護師の言葉で、出て行こうとした最中、あの声が脳裏によぎり、失神してしまったことを思い出す。


「⋯⋯すみません。大変ご迷惑をおかけしました」

「いえ、仕事をしたまでですよ。⋯⋯ですが、こう言うのもなんですが、あまり負担になっているようでしたら、お仕事を検討なさった方がよろしいかと思います」


お相手のご夫婦も心配なさってました、という声は姫宮の耳には入らなかった。

この看護師は最低でもオメガではない。だから、そのようなことを特に他人であるから言えるのだ。

あなたに何が分かる、と叫びそうになるのを拳を握りしめることで堪え、代わりに、「お気遣い、ありがとうございます」と返事した。

「では私はこれで。何かありましたらナースコールを押してください」と言い残し、姫宮の前から立ち去った。

自分の声が消えると、周りの自分と同じようで同じではない母となる人達の、にぎやかで慌ただしい声が聞こえてくる。

皆は、これから自分の子を一生懸命に育てていくのだろう。


自分にはそんな資格はない。


存在をかき消されたかのように、はたまた、オメガは恥であるから、隔離されたかのような閉めきられたカーテンの中、身を丸めて、現実世界から遮断した。

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