トキメキ天然色。

猫野 尻尾

第1話:地方祭。

金木犀の香りが漂う10月の半ば。

この町の住人はこの季節になると気持ちがそわそわトキメク。

それは地方祭があるからだ。


この祭の三日間だけは会社も学校も休みになる。

なにわなくても祭り・・・祭一色。

都会に出てる人も正月に帰ってこなくても祭には帰って来る。

そのくらいこの町の住人にとってはなくてはならない一大イベントなのだ。


高校生の「西野 雅にしの みやび」はその日、友達と祭を見に行く約束を

していたが、親戚が全員集まるから祭は一緖に行けないと友達から連絡があった。


地元出身じゃない雅は特に祭に興味があったわけじゃなかったから祭りを見に

行くのをやめようかと思った。

でもつい最近、ちょっとお高めのデジカメを買ったばかりので、祭の風景や町に

繰り出す山車だしでも撮ってこようかと、午後からひとりでママチャリで

出かけた。


各地区の山車は午後から神社に参拝のため鳥居をくぐるので、雅は神社の手前で

ママチャリを降りて神社の近くに自転車を止めて歩いて神社まで行こうとした。


そしたら神社までの途中にある、たこ焼き屋さん「えっちゃん」でひとりの

男子を見つけた。

たこ焼き屋の前にいたのは同級生の「大野 紀行おおの のりゆき


どっちかって言うと雅にとって紀行は前から少しは気になる存在ではあった。

紀行は生まれた時から地元・・・だから祭りには目がなかった。

地元の人間なら祭りはみんなトキメクのだ。


紀行を見つけた雅は自分の方から彼に声をかけた。


「大野君・・・」


「あ、西野さん」


「大野君もお祭り?・・・神社の山車を見に来たの?」


「ん〜まあね・・・氏神様の宮入見ないと祭り終わんないもん」


「大野君ひとり?」


「ああ・・・俺、友達少ないから・・・って言うかほぼいないし・・・」

「俺さ、ガキみたいに、わちゃわちゃするの嫌いなんだ・・・わずらわしくって」


「西野さんこそ・・・」


「私も同じようなもの・・・」


「そうだ、西野さん・・・たこ焼き食べる?・・・おごるから・・・」


「え?いいの?・・・お言葉に甘えちゃっても?」


「いいよいいよ・・・遠慮しないでさ」


紀行にそう言われて雅はママチャリを止めて、えっちゃんの店の入り口

にいる紀行のそばまで来た。


「おばちゃん・・・タコ星人トッピング、ふたつ・・・」


「あいよ〜・・・」


そう言いながら、おばちゃんは紀行と雅を交互に見た・・・で、言った。


のんちゃん・・・その子、あんたの彼女?」


「え?・・・ああ、そ、そうだけど・・・うん、俺の彼女」


そう言って紀行はなにくわぬ顔をして雅から視線を逸らした。


「え?・・・彼女って・・・」


「いいわね、若いって・・・のんちゃん、あんたしっかりしないと彼女にフラれ

ちゃうわよ」


(紀行・・・私、いつ君の彼女になったのよ・・・ん、まあ、いいけど)


紀行は雅のぶんまでタコ星人トッピングたこ焼きを買った。


ふたりは店の入り口の横のコ◯コーラのロゴが入った斜めにちょっと傾いた

ベンチに座って仲良くタコ星人ウインナーが乗ったたこ焼きをハフハフ言い

ながら食べた。


つづく。


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