第9話:忍び寄る影
敵駆逐艦から得た燃料と簡易ブースターで予定より1週間ほど早く地球圏に着く予定のエンタープライズ。自身を示す四角形のアイコンと地球を繋ぐ無数の線が映し出されるスクリーンを眺める艦橋の軍人。
それとは打って変わって、フロア15に位置する食堂で食事を取る3人の姿。ジュン、セリンとデインだ。
「君もロボコンに出ていたのか!」
「ああ、言っても中学の時だが」
「もしかしたら会場で会っていたのかもしれないな」
他愛のない話をしながら銀プレートに置かれたさまざまな食材をつまむ。火星を出てちょうど3日が過ぎた。予定通りならあと2週間と2日で着く。
「ねぇ… その〜… 」
「どうした?腹でも痛いんか?」
「違うわよ!みんなニコニコしてるけど、戦いに行ったんでしょ?人を殺したんでしょ?なんでそんなに明るく振る舞えるの?」
確かにセリンの言うことは理解できる。つい最近まで普通の高校生だったのに、人殺しになった。常人なら絶望し、罪悪感で押し潰されるだろう。けど…
「しょうがないだろ?これは戦争なんだ」
「それでも…」
「仕方がないんだ。私たちには選択の余地なんてなかった。やらなきゃやられるような状況だ、私たちがこうでもしないと君たちの命が危ない」
「それでも!普通でいられるのは異常だよ!」
「… そうだね、君の言う通りだ。でも私が思うに、これは前借りなんだ。罪悪感とかに潰されないように、平常心を前借りしてるんだ。だから退役軍人のほとんどはトラウマを抱えたりすると私は考えてる。罪悪感を感じないんじゃない、忘れてるんだ、今だけは。終戦したらこの罪を背負うさ」
「意味わかんない!そんなの自分勝手じゃん!」
セリンが食堂を飛び出て行った。
「私がなにか触れてはいけないものを触れてしまったのかな?」
「いや、あれが普通の反応だろ。待っててくれ、ちょっと話してくる」
食堂を出てセリンを探した。通路を真っ直ぐ居住区へ向こうとした矢先、物置らしき部屋のドアが開いてるのに気づいた。セリンはここに入ったのか?入ってみると機械から出る緑と赤の光以外光源はなく薄暗いままだった。間違えたか、そう思い部屋を後にしようとした時、奥から物音がした。誰かがいるようだ。恐る恐る進むと、隅っこで何やら独り言を呟く女性がいた。
「—けど補充——がチャ—…」
何言ってるかは分からなかった。プライベートな事情でもあるんだろう、そう思い部屋を静かに退出しようとした時、床のケーブルに足を取られた。
「誰!?」
「あ!ご、ごめんなさい!人を探してて…」
目の前が真っ暗になった。次に目を覚ました時、俺はパイプ椅子に縛られてた。
「あんたは確か志願兵だったわね。どうして分かった?」
「だれ…?」
「あっしの質問に答えな!」
右頬を殴られた。
「た、たまたまだ… あんたは誰だ…?」
「あっしは… いや、話さないぞ」
俺の前に立ってるその女性は右手に持っている装置を口元に近づけて何やら呟いている。それが通話機だと分かったのは、その機械から声が返ってきたからだ。
『良くやった、メイジュ。今そちらに殲滅隊を向かわせる。国につけば一躍英雄であろう』
火星の軌道上に浮遊する五隻の軍艦の旗艦ハルウェアが傍受したこのメッセージ。艦長は百戦錬磨のベッカー・マースレン大尉。彼の号令一つでこの艦隊、ミフィスト・ベッカーはエンタープライズの元へと動き出した。
「これでようやくあっしらは報われる」
「あんたはテスチアンか!?なんでこんなことをする!俺らが何をしたってんだ!」
「うるせぇんだよガキが!」
椅子ごと蹴飛ばされた。
「地球はあっしらの事なんて考えてなんていないのさ!あんたも火星の民なら分かるだろ?あっしらは明らかに冷遇されてる!何食わぬ顔でそれを受け入れるのはゴメンだ!」
地球への反抗心…?同じ火星の民…?地球人なのか?嘘を吹き込まれた伏兵ってことか… 詰まるところ、こいつを含めた何人かが造船所の襲撃犯で間違いはなさそうだな… ん?他の奴らはどこにいる?
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