『双星のラメント』_フラグメント

浅霞よる

プロローグ

 いつか二人で弾いた旋律が、頭の中に響いている。

 ユウトは深い闇の中にいた。

 とめどなく血を流し続ける身体が痺れ、徐々に冷えていくのを感じる。体が冷たく、吐く息だけが焼けたように熱い。

 ――ユウヤのところに、行かないと。

 一歩、踏み出したはずが、すぐに上下の感覚を失う。気がつくと地面に頬を打っている。それでも起き上がろうとして、身体の重さに汗が滴り落ちる。

 なんとか顔を上げる。目を開けられないせいで、漆黒の闇が視界を閉ざしている。

 そんな暗闇になぜかふと、今よりもずっと幼い頃……双子の弟であるユウヤが、ひとりが怖いと泣いていたことを思い出した。深い闇に閉ざされた夜は特に。闇の中で、ひとりぼっちになるのが、怖いと……。

 ――ユウトはずっと一緒にいてくれる?

 泣きはらした目で尋ねる言葉に、ああ、と頷いて。その頃は、心から信じていた。ずっと一緒にいられると。

 だが今思い返せば、運命は皮肉なものだ……。

 そんなことを頭のどこかで考えながら、血で滑る手を砂だらけにして、ゆっくり時間をかけてユウトはようやく立ち上がる。

 ――行かなければ。

 熱さも冷たさも混じりあって、もううまく感じられない。ただ、鼓動だけが熱い。流れる血だけが、焼けるように。


『……ずっと一緒にいてくれる?』


 もしも今、もう一度そう聞かれたとしたら、何と答えるべきだろう。

 思わず苦笑する。今更、そんな子供じみた質問をすることもないだろうに。


 ……けれど、もし……今の自分が、その問いに答えるなら――。

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