第8話 幼馴染は俺に宣言する
玲奈の言葉を聞きながら、俺は胸が苦しくなるのを感じていた。玲奈が勇気を振り絞って、もう一度告白してくれた。彼女はただ待っているだけじゃなく、自分からちゃんと伝えようとしてくれたんだ。
なのに、俺は何も言えないまま、黙っている。
玲奈は、俺が何か言うのを待っているようにじっと見つめていた。彼女の目には、昨日と同じ不安がありながらも、今度はどこか強い決意が感じられる。玲奈はもう、待つだけの姿勢を捨てたんだ。
俺はこの瞬間、何かを決めなければならないと思った。でも、どう答えればいいのか──それがわからない。
玲奈のことは大切だ。ずっと一緒に育ってきた、特別な存在。でも、今まで彼女を一人の女の子として意識したことがあったかと言われると、自信がない。
そんな俺が、彼女に対してどう向き合えばいいのか。答えを出すのが怖い。でも、このまま何もしないのも違う気がする。
そう思った瞬間、言葉が自然と出てきた。
「玲奈、俺……正直、まだ自分の気持ちがよくわかってないんだ」
俺がそう言うと、玲奈は少しだけ表情を曇らせた。でも、すぐにその顔は真剣なものに戻る。
「でも……玲奈のことを、ちゃんと考えてみたいとはめっちゃ思ってる」
俺が続けると、玲奈は一瞬驚いたような顔をした。
俺がそう言うことを予想していなかったのかもしれない。けれど、彼女はすぐに小さく笑って頷いた。
「……うん。それでいいよ」
玲奈の声は少しだけ震えていたけど、その目はまっすぐ俺を見つめていた。
「私、拓がそう言ってくれるなら、それで十分だから。無理に答えを急がなくてもいいから……私のこと、少しでも意識してくれるなら、それでいい」
玲奈のその言葉に、俺は少しだけ肩の力が抜けた。
今すぐに完璧な答えを出さなければならないわけじゃない。
玲奈は、俺が自分の気持ちを整理する時間をくれると言っている。
「ありがとう、玲奈」
俺はそう言って、彼女に感謝の気持ちを伝えた。玲奈は少し照れたように微笑みながら、「別にいいよ」と軽く肩をすくめる。
「でもね、拓」
玲奈は少し真剣な表情になり、俺の方に向き直る。
「考えてくれるのは嬉しいけど……私はもうずっと前から、拓をただの幼なじみとしてじゃなく見てる。だから、私もこれ以上は幼なじみとして振る舞うのはやめるね」
その言葉に、俺は少し戸惑った。
「どういうこと?」
「つまり……私、これからはちゃんと拓にアプローチしていくってこと」
玲奈はいたずらっぽく笑った。その笑顔には、これまで見たことがないような自信があった。
「今までみたいに、ただ一緒に過ごすだけじゃなくて、ちゃんと女の子として見てもらえるように頑張るからね」
玲奈のその宣言に、俺はまたドキッとした。
彼女が本気で俺を恋愛対象として見ていることを、改めて実感させられる。それは正直、少し怖い気もするけど、同時に心のどこかで期待している自分がいることにも気づいた。
「私容赦しないから、覚悟しといてよね」
そう言って玲奈は俺の事を指さした。
「そっか……わかった」
俺は少し照れながらそう答えると、玲奈は満足そうに頷いた。
その瞬間俺たちの間の張り裂けそうになっていた緊張の糸がプツッと切れた。
「じゃあ、今日はこの辺で帰ろっか。いろいろ話せたし、ちょっと疲れちゃった」
玲奈はそう言って立ち上がった。夕暮れの公園は、少し肌寒くなってきていた。俺も立ち上がり、玲奈と並んで歩き出す。
いつもと同じ道を歩いているはずなのに、今日の帰り道はどこか違って見えた。玲奈と話した内容の重みを噛みしめながら、俺は自分の気持ちと向き合うことを決めた。
これまで、玲奈をただの幼なじみとしてしか見ていなかった俺。でも、これからは違うかもしれない。彼女が言ったように、幼なじみという枠を超えて、もっと別の感情を見つけるかもしれない。
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