第2話:孤独の中の希望

お父さんのお葬式は、重苦しい雰囲気に包まれていた。


私はその場に立ち尽くし、心の中でお父さんの姿を思い浮かべていた。


お母さんは私を産んですぐに亡くなった。


元々体が弱く、医師からは私を産むと身体がもたないかもしれない。


そう言われていたそうだが、


お母さんは自分の命よりも、私の命を選択した。


葬式に来る人は多くなかった。


お父さんの部下はあの事件でみんな…。


私だけが生き残った。


孤独感が胸を締め付けた。


あとから知ったことだけど、お父さんはヤクザだった。


ヤクザの組長をしながら私を育てていた。


お父さんと、どういう関係か分からない人が数人来て、お父さんの死を悼んでいた。


たったの数人だった。


お父さんの口から身内の話を聞いたことはなかった。


私はまだ現実を受け入れられず、ぼんやりとした気持ちでその場に立っていた。


葬式は終わり、私には身を置く親戚なんて人はいなくて養護施設に送られることになった。


学校では可哀想なんて言われてたけど、心の中は空っぽだった。


もう全部どうでもよかった。


私はお父さんの後をたって、死ぬつもりだったから。


お父さんのいない世界で生きる意味なんて、なかった。


橋の上に立って下を見た。


昔から高いところが苦手だった。


だけど不思議とその時は、全く怖く感じなかった。


"お父さん。待っててね"


飛び降りようとしたその時だった。


「君が伊織ちゃんかな?」


見ず知らずの男の人が声をかけてきた。


驚きと警戒心が入り混じり、


「おじさん誰…?」

私は疑問を抱きながら尋ねた。


「君のお父さんには色々お世話になってね」

その言葉に少しだけ安心感を覚えた。


お父さんの知り合いか。


でも、この人は葬式に来ていなかった。


数人しか来ていなかったし、葬式から数日しか経っていなかったから全員の顔をまだ覚えていた。


「お父さんに?でも、それならどうしてお葬式に来なかったの?」

私は疑念を抱き続けた。


「ごめんね、その日は大事な用事があって行けなかったんだ」


大事な用事…?


「お父さんより大事なことだったの?」


別に怒ってはいなかった。


私にとってはたった一人の家族だけど、この人にとっては違うから。


ただ気になって聞いただけだった。


「はは。君は痛いところをつくなぁ」


おじさんは笑っただけで、お父さんより大事なことだった。

とは言わなかった。


「おじさんは私に話があるんだよね」

私は真剣な表情でおじさんを見つめた。


「君のお父さんを殺した犯人を知ってるんだ」



その言葉に心臓が凍りついた。




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2024年9月20日 10:00

復讐の仮面 @hayama_25

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