第6話:総会議本番!
「サクラ、どう?」
「る、瑠菜さん。私、こんな短いスカートでいいのでしょうか?それに、こんな……。」
今日は総会議だ。
朝からその準備に取り掛かり、今は着替え終わった直後。
サクラは、薄いピンク色のミニスカートっぽいドレスを着ている。細かい刺繡がしており、着心地の良い布の使われたもの。値段は、初めて着る代物ではないとサクラは判断した。もちろん、サクラの判断は間違ってはいない。
「瑠菜さん。これってすごく高いんじゃ……。」
「ん?汚すようなはしたないことしなければ大丈夫。」
サクラの心配もさらっと流す瑠菜の服装はサクラよりも上品な薄紫のドレスだ。スカートは長く、地面についてしまうのではないかと思うくらいだ。
「瑠菜さん。この刺繍って何ですか?」
「それは、えーと。うん……あの。チューリップだね。」
「やっぱりですか?何でチューリップ?」
「バラのほうがよかった?サクラはこっちのほうがいいかなぁって思ったのだけど。」
「いや、こっちでいいです。」
瑠菜の選んだドレスはサクラ的には子供っぽい気もしたが、選んでもらったこと自体はうれしかったのでこのドレスに愛着が湧いてきていた。
サクラは、ドレスを着ること自体初めてだった。着替える前に、いつも会っているあきと楓李、この前会った雪紀とケイ、初めて会ったキィちゃんと合流した。サクラの着替えはきぃちゃんが手伝ってくれたのだ。
そして今は、先に終わった瑠菜と二人っきりでほかのメンバーが着替え終わるのを待っている。
「す、すごくパワフルな方ですね。きぃ姉さんって。」
「えぇ。昔からこういう行事ごとが大好きなのよ。」
「る、るる瑠菜さんは、どこで着替えを済ませたんですか?更衣室にはいらっしゃらなかった気が……。」
着替えるとき、サクラときぃちゃんは更衣室で着替えた。
男子と女子でそれぞれ更衣室があり、そこで着替えるのが一般的だとサクラは言われた。
しかし、サクラが着替えている最中、瑠菜の姿は見えなかった。
もちろん、サクラの死角になる位置で着替えていただけということもあるが、サクラにはもう一つ聞きたいことがあり、それを聞くためにもこの質問は必要だった。
「そういえば、このドレスは昔瑠菜さんが着るはずだったって、きぃ姉さんが言ってました。なんで、……着なかったんですか?」
サクラのこの質問にはさすがに瑠菜も驚いてしまった。
「あっ。きぃちゃん来た。」
「ごめんねー!どう?サクラちゃん。ドレスきつくない?」
「は、はいっ!大丈夫です。で、瑠菜さん。さっきの……」
サクラがもう一度瑠菜にさっきの質問の答えを聞こうとしたときには瑠菜は雪紀の所に行っていた。
その姿を見たサクラは仕方なく、きぃちゃんに元気な満面の笑みを見せる。
少しの時間だったが、サクラはドレスを着るのを手伝ってもらったため、きぃちゃんに相当なついていた。
「瑠菜、やきもちか?」
そんなサクラを少しむっとした顔で見る瑠菜に、雪紀はからかい口調で言う。
「そんなんじゃないわよ。サクラ手を出して。」
瑠菜はそういうとサクラの右手の人差し指に黒色のダイヤモンドのついた指輪を通した。
「えっ?瑠菜さん。これ。」
「あんたは私の弟子なんでしょう?つけておきなさい。」
サクラが瑠菜の右手を見ると自分と全く同じ位置に同じ指輪がついていた。
「あらあら。あんまり束縛したら嫌われちゃうわよ?」
「変な人に渡すくらいなら私がサクラの師匠でいます。」
「瑠菜は意外としっかりしてるからなぁ。」
「ねぇ。あき君もそう思うわよね。」
「ですね。」
雪紀ときぃちゃんにからかわれる瑠菜をにこにこと懐かしそうに見ていたあきを、きぃちゃんは会話に入れようとする。雪紀もあきと同じく少し懐かしそうな表情をした。
「雪紀、ガムいる?」
ケイはそんな雪紀に、自分の持っていたお菓子を渡す。雪紀は、それを受け取って食べた。
楓李は一人で誰とも話さずにいる。いつも通りと言えばその通りで、誰とも話さない、話しかけるなという雰囲気をまとっている。
瑠菜はそんな楓李に声をかけに行こうと思ったが、あきときぃちゃんにからかわれたことでそれどころではなくなり、そうこうしているうちに会場についてしまった。
会場の近くでは、たくさんの人でにぎわっていてそれぞれスーツやドレスを着ている。
香水をつけている人が多いのか甘ったるいにおいがしてくる。
香水になじみの薄いサクラには少しきつい空間だった。
舞踏会のような雰囲気の底は高貴な場所という言葉がとても似あう、サクラからしたら程遠い場所だった。
「きらきらとした場所ですね。」
「そうよぉ。すごくワクワクしてくるでしょ?」
サクラの正直な感想にきぃちゃんが答えた。
雪紀をはじめとし、サクラ以外の全員が腕に着けていたリングを門番に見せて会場内に入るのを見てサクラはどうしたらよいのか教えられていないことに気づいた。
この会場には入り口がいくつもあるらしく、その入り口に各一人ずつ門番のような男がいる。
男はサクラにさっさとリングを見せろという目でにらむ。
サクラは怖くなり目をそらした。
横では止められて追い返されている人がいた。それを見てサクラはもっと怖くなってしまった。
「ん?なんかあるかい?」
サクラよりも何倍もの大きさの門番がサクラを見て言った。
「サクラ。おいで。」
「あぁ。瑠菜様のお弟子様でしたか。」
瑠菜が呼ぶとサクラの前に立っていた門番は道を譲った。
(瑠菜様?)
周りからはさん付けで呼ばれている人はいても様という言葉は聞こえてこない。門番は、サクラ以外のこのメンバー全員にのみ様をつけていた。
(もしかして、ここにいる人ってみんなすごいんじゃ…………)
「ほら、サクラ。胸張って堂々と前を向いて。」
瑠菜はサクラにそう言って笑いかけた。外でもすごかったが中はもっとすごかった。
北には高級そうな椅子が一つとそれを飾るように花が活けており、東にはおいしそうな食べ物や飲み物が並んでいる。
西には、大きなドアがあり、奥には長く暗い廊下が続いている。
床には東西南北と、花のような幾何学的なものが書かれている。
サクラはそれを見て方角をそう解釈した。
しかし、サクラにはわからないことが一つだけあった。
「瑠菜さん。その腕のやつなんですか?」
「あぁ、これは階級よ。」
「かいきゅう?」
「俺らは全員階級が赤だから、このリングは赤色。ついでに言うと、下から黄、白、青、そら、赤。」
あきに言われて、周りを見たときに似たようなものをつけている人はたくさんいた。
「でも、つけていない人は?」
「弟子だね。一応、主人の階級がそのまま受け継がれるから。サクラも渡されてないでしょう?これ。あと俺らは雪紀さんの弟子だけどもう一人前として扱われてるんだ。」
「ふーん。」
「サクラ、あきときぃ姉の近くにいるのよ。ケイ兄でもいいけど。私は挨拶にでも行ってくるわ。」
瑠菜はそう言って、その場を離れた。
人が多いのもあり、十歩も歩けば見えなくなってしまう。
サクラはすぐにでも瑠菜を追いかけたかったが、あきに手首をつかまれてしまい動くことができなかった。
「サクラちゃん。しっかり礼儀作法分かってる?わかってないなら瑠菜がバカにされるだけだよ。」
あきのしゃべり方はいつも朗らかだ。
しかし、今のしゃべり方はどこかとげがあったようにサクラは思えた。
当たり前だが、サクラは礼儀作法をばっちり教え込まれたこともなく、今までにこんな場所に来たことがあるわけでもない。
何も知らないため、あきの言っていることが正しいということしかわからない。
「サークラちゃん。ねぇ、これおいしいわよ。」
「サクラちゃん、こっち来て食べない?」
きぃちゃんとケイに呼ばれて、サクラの悶々とした考えはどこかへ吹き飛んでしまった。
それもそうだろう。
並んでいる食べ物も飲み物もすべてが輝いて見えるほど高級そうなものばかりだ。特にスイーツが。
いつもそこまで高級なものを食べないサクラからしたらここまでのぜいたくは一生のうちで一回か二回くらいしか来ないだろう。
あきも、目を輝かせているサクラの後ろをついていく。
(きぃ姉さんとケイさんがいれば、礼儀の一つや二つ身につくだろうし、まぁ安全かな。)
あきはそう思いながら、自分がこの二人、いやこの人たちに教わったことを思い出した。
(厳しい毎日だったなぁ。)
「あら瑠菜ちゃん。」
瑠菜はそのころ、一番偉い人以外への挨拶を済ませた後だった。
警察、弁護士、医師などなど、知り合いという知り合いに来ましたという挨拶をする。
なぜするかというと、瑠菜は今までずっと来ていなかったのだ。最後に来たのは階級すらまだ持っていない時だった。
なので瑠菜の腕輪を見て驚く人も多かった。
「瑠菜ちゃんってば!」
瑠菜はばっと振り返り、そのまま流れるように横に二歩動いた。
瑠菜に抱き着こうとしていた女はそのまま床に倒れこんだ。
(うわぁ。顔から行った。)
ここは自分がどれだけ美しいかをほかの人に見せる場所でもあるため、他人が騒ごうと、転ぼうと気にする者はいない。
「もう!なんでよけるのよ。」
「危ないですから。どこぞの変質者が抱き着こうとしてきたらよけるのは当たり前でしょう?」
「誰が変質者よ!だれが!」
女はクルクルの髪質の髪を二つに分けて耳の下で結んでいる。
ほかの人とは違って白衣という何とも自由な服装をしている。正確だなと瑠菜は思ったが、それについては触れないことにした。
「こんにちは、ハカセ。ハカセはなぜこちらへいらしたのですか?」
ハカセと呼ばれた女は瑠菜に自分の腕輪を見せてニカっと笑った。
腕輪の色は空色で、瑠菜の一つ下の階級だった。
「ばぁさ……、会長が階級をくださったのだ。いいだろう?」
「そうですか。」
「興味ないだろう?」
「いえいえ。」
「お前らは本当に似ているな。」
会長というのは一番偉い人のことだ。
もう百歳超えていてもおかしくはないが、動きは俊敏で頭の回転もすごく良い。
昔暗記したことをいまだにしっかり覚えている。
この会社の中でも会える人間は限られていて、今会場にいる何千という人たちですら会えていない人が九割だろう。
そんな人から階級をもらえる人数は片手で数えるほどしかいない。
相当自慢なのだろう。
「私はコム様から頂きました。」
「雪紀じゃないんだな。」
「コム様からです。」
「皮肉だな。死ぬことが弟子の位を上げることに役立つなんて。」
「死んでいないと信じてます。」
瑠菜はもともと階級をもらうつもりはなかった。
こうやって会合には出ないといけなくなるし、弟子も取らないといけなくなる。
しかし、大好きな師匠であるコムがいなくなり、もともとあったコムの席を受け継げるのは瑠菜しかいなかった。
「でも帰ってこないし、電話も出ないんだろう?あいつが電話に出ないことなんて今までなかった。そうじゃないのか?」
「ハカセはお変わりありませんね。普通はわかっていてもそういうことは口に出さないでしょう。」
瑠菜はハカセの目の中をじっと見た。
その目は自分でもわかっているからそれ以上言うなと訴えているようにも感じる。
「まぁな。お前は胸がついたな。」
「あと五十センチは欲しいところです。」
「フッハハハハハハ!やっぱり性格はそのままか。」
ハカセは大きく口を開けて大声で笑った。
「足と手の調子はどうだ?」
「とってもいいですよ。今のところ、ぱっと見でばれたことはありません。」
「そうかそうか!」
ハカセは胸を張って瑠菜に言った。
もじゃもじゃクルクルの髪が上下に揺れている。
「瑠菜、じゃあ私は他の場所へ行くからな。」
「はい。」
「もう私を避けるんじゃないぞ!」
「それは……」
瑠菜が笑いながらそう言うと、ハカセはまた大口を開けて笑っていた。
このハカセは二代目のハカセだ。
初めて会ったときは、もっとおとなしい、人見知りの激しい子が師匠で、彼女は弟子としてそこにいた。
瑠菜よりも先輩という立場だが、その人見知りの性格もあり階級を手にしなかった。
いろいろとお世話になっていたのだが、四年くらい前に病気で死んでしまったのだ。
その後、瑠菜は会っていなかったが彼女が引き継いだのだろう。
(今日は、会長は顔を出さないか。)
瑠菜はそう思ってベランダへと出た。
ベランダには恋人同士で行く人が多く、イチャイチャしている人間が多い。
「あ、おねぇさん。」
あとはナンパが集う場所だ。
「今一人?」
「わぁ、階級高いね。お姉さん。」
「どう?今からどこか行かない?」
瑠菜は無視して歩き続けたがナンパも四~五人ついてくる。
「かわいいねぇ。一緒に抜け出そうよ。」
「本当にかわいいよ。君。」
瑠菜は気持ち悪いと本気で思ってしまった。
瑠菜がベランダに出た理由は二つあった。いつもコムが一人でお酒を飲んでいた場所がここだったのだ。
いないとわかっていてもいるのではないかと思ってしまいついここにきてしまった。
もう一つの理由は。
(いつも誰かしらここにいるのになぁ。)
雪紀はタバコを吸いに、こういうわちゃわちゃした場所が苦手な楓李はそれについていくようにして、いつもここにいる。
「瑠菜。」
呼ばれて振り返ろうとした瞬間、瑠菜はぎゅっと抱き寄せられた。
「お前らいい加減にしろ。」
「あんまり、女の子の嫌がることしてたら嫌われちゃうぞ。」
楓李と雪紀の声が立て続けに聞こえて瑠菜は安心した。
後ろのほうからは女の子たちの歓声が聞こえてくる。
「楓李、放して。」
ナンパ男たちが逃げたのを確認してから瑠菜は楓李に言った。
「やだ。いいじゃん。このままで。」
このままでは放してもらえないと思っていた瑠菜はやっぱりかと思った。
「よくないわよ。」
雪紀は、ナンパしてきていた男たちを追いかけて門番に知らせている。
「ごめん。もう少し早くに気づけばよかった。」
楓李が瑠菜の耳元でささやくと同時に瑠菜を抱きしめる手に力が入ったのを瑠菜は感じた。
瑠菜のほうも全身が熱くなるような気がして動けなくなった。
「いやぁ、何もされてねぇか?」
すっかりヒーロー気分の雪紀が帰ってきたとき、瑠菜は楓李を突き飛ばしていた。
「う、うう、うん。大丈夫。何もされてない。声かけられてただけ。」
「そうか。で、楓李は大丈夫か?」
「あぁ。」
楓李は頭を打ったのか、後頭部をさすりながら立ち上がった。
「ごめん。はげた?」
瑠菜は肩を震わせて笑うのをこらえながら聞いた。
「こらえきれてねぇよ。」
「んじゃ、きぃ姉貴のとこに帰るか。」
楓李と瑠菜は雪紀について行った。
雪紀の後ろからついていくと周りを歩く人間はたいてい全員よける。
圧がある、顔が怖いというわけではない。雪紀の生まれが会長の孫であるからだ。
雪紀自体にそんなそぶりはないが、血のつながりがある以上目の前で変な行動をすると胴と頭が仲たがいにさせられてしまう可能性もある。
本当はそんなことはないのだろうが、そう思われているためしょうがない。
誤解を解く方法もないのだ。
そう思われているからこそ、歩けば周囲の人間をよけさせ、立ち止まるだけで人をふるいあがらせ、一声上げれば半径三メートルの人間は逃げさせる。
そんな人間になってしまったのだ。
「瑠菜さん、瑠菜さん!お帰りなさい。聞いてくださいよ!」
「こら、サクラちゃん。はしたないわよ。」
「わっ!す、すみません。」
サクラはいつものように瑠菜に声をかけたが、きぃちゃんに静かに怒られてしまった。
瑠菜もその様子を見て、フフッと笑ってからサクラに向き合った。
「話なら、後で帰ってからゆっくり聞くわ。とりあえず、ここではあまりはしゃがないようにね。」
「はい。」
サクラは手を膝の上で重ねて近くにあった椅子に座った。
椅子の近くにはテーブルがあり、お皿がいくつも並んでいた。
「あら、瑠菜ちゃん。それどうしたの?きれいねぇ。瑠菜ちゃんにピッタリね。」
きぃちゃんに言われて、瑠菜は全員の視線を集めたそれを見た。
真っ赤な宝石のついた指輪が左手の薬指につけられていた。
「あっ。」
そういって、楓李のほうをちらりと見ると、楓李はそっぽを向いて何か食べていた。
「瑠菜、だめだ。どこのどいつにプロポーズされた!」
「瑠菜、誰からもらったの?雪紀さんの言うとおりだよ!」
「まぁまぁ、いいじゃない。瑠菜ちゃんもお年頃だし。あきも雪紀もそんなに責めないの。」
「そうよ。ケイの言う通りよ。あんたらは過保護なんだから。」
きぃちゃんはそういって瑠菜を抱き寄せて守るような仕草をした。
楓李は、配られた飲み物を黙って飲んでいる。
瑠菜がいくらにらんでもしらばっくれているつもりらしい。
瑠菜はそれを見てもう一度突き飛ばしたくなった。
瑠菜自身、泣きそうなくらい顔が赤くなっているのをわかっていたため、きぃちゃんの膝に顔をうずめた。
「バカ。」
その場にいたきぃちゃんと瑠菜以外本当に誰から指輪をもらったのか分かっていなかった。
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