第2話:瑠菜と恋

後日、瑠菜はきぃちゃんのやっているカフェに訪れていた。瑠菜もよく手伝いをする店なので、見慣れた風景が目の前に広がっている。


 「今日も休みなんだ。」

 「当り前よ。よかったわぁ、瑠菜ちゃんが来てくれて。」


 二人しか店の中にはいない。

今日は定休日らしい。

いや、やってる日のほうが少ないのだ。

ここは、一週間に一度やっていることすら珍しい。


 「そりゃぁ来るよ。おいしいもの、って言われたら気になるし。」

 「はい、新作のパフェ。」


 瑠菜は目を輝かせた。

 それをみてきぃちゃんはそりゃあなくしたくないわな、と楓李やあき、雪紀の気持ちがわかった気がした。


 「ねぇ、瑠菜ちゃんはだれが好きなの?」

 瑠菜はあまりにも率直に聞かれて驚いてしまった。

 「誰も。」


 そっけなく答えるように努力して答えたが、きぃちゃんはにこぉと笑って瑠菜を見た。


 「えー?嘘だぁ。だってあんなにもてる男どもだよ?私が教えたんだから、女の子への配慮とかはばっちりでしょう?」

 「だからです。」


 パクパクとパフェをほおばりながら淡々と瑠菜は答えた。

 瑠菜はこの手の話はあまり好きではない。


 「じゃぁ、話は変わるけどケイって今好きな人とかいるのかしら?」


 変わっていないじゃないかと思いながらも瑠菜は首をかしげた。


 「さぁ。まだ追いかけてるの?ケイにぃのこと。さっさと付き合っちゃえばいいじゃない。」


 そう微笑む瑠菜にきぃちゃんはアハハと笑う。


 「そういうわけにもいかないわよ。私はケイのファンでいないといけないんだから。ねぇ、夏休みにちょっと遠出しましょうよ。別荘に泊まるのとかどう?」

 「いいですね。」


 瑠菜はもうすでに興味を失っていた。

興味がない話になると敬語になるのは悪い癖だなぁと思いながらなかなか治せないでいる。

 しかし、瑠菜としてはきぃちゃんから聞かれた「誰が好き?」という問いに引っかかっていた。

そっちに意識が取られてしまい、他に興味を持てないのだ。

 瑠菜はきぃちゃんに問いかけた。


 「私さ、許嫁いるんでしょう?楓李、あき、こはくの三人が相手。」


 きぃちゃんは目を見開いてあからさまに驚いた後にニコリといつもの笑顔に戻った。


 「よくわかったわね。やっぱりあいつらが選んだだけはある。いつ知ったの?」

 「何となくそうかなって。」

 「そっかぁ。でも惜しい。相手はもともと二人。楓李とあきだけよ。」


 きぃちゃんは親指と人差し指を立てて言った。


 「こはくは相手に含まれていなかったわ。でも、あなたがこはくのことを結構気に入っちゃったから。こはくが死んでしまうのもわかっていたことだったしね。」


 瑠菜はきぃちゃんから目を逸らした。

 瑠菜が高校に入って三か月間だけ付き合った男の子。

 病院でしか会えなかった。

 明日、この時間に絶対来てと帰り際に言われた。

 三十分、遅れてしまい病室に駆け込んだ時ベッドから真っ白い手が垂れていたのを今でも覚えている。

 自分がつく五分前。

たった五分間に合わなかった。

 それがこはくだ。


 「まぁ、初恋の相手が病気で死んじゃったら、狂っちゃうわよね。」


 そう、瑠菜はこはくがいなくなって狂ってしまった。

そのことを知った人、瑠菜にかかわる人、きぃちゃんを中心にみんなが誰だってそうなるよと、瑠菜を励ました。

しかし、瑠菜にはどんな励ます言葉も響かなかった。


 (居心地が悪い。)

 「じゃぁその二人から選べばいいの?」


 あんまりにも不自然な風になったのは瑠菜も気づいているが、切り替えなければいけないと思ったのだ。その結果出た言葉だった。


 「えぇ、そうね。ばぁ様たちはそうしたいみたい。瑠菜ちゃんは、楓李にするわよね?」


 この人はよく人の心を読んだような物言いをする。

 自分の顔が真っ赤になっていくのを瑠菜は止めることができなかった。


 「図星かぁ。残念ねぇ。白の王子じゃなくて、赤の王子なんだぁ。」


 あきが白の王子で、楓李が赤の王子。

 名前から赤を連想させるというという理由ではない。

けんかっ早くて、相手が血で染まるくらいの喧嘩をいくつもやってきたことから赤の王子だ。

本人はそのことを知らないらしい。

 瑠菜は知らないほうがいい事実もあると自分に言い聞かせた。

 ついでに言うと、瑠菜は女帝と呼ばれている。

 女帝は、階級の名でもある。


 「で、でも、向こうはいやだと思うよ!わかれたのだって向こうからだったし。」

 「多分それ、引いたんじゃないかな。」

 「でしょ?そうだから。」

 「そうじゃなくて身を引いたのよ。」

 「え?」

 「瑠菜ちゃん。あんた結構長い期間こはく君にべたぼれだったのよ?それに瑠菜ちゃんのほうが私よりも楓李君のこと知ってるはずなんだからわかるでしょ。」


 きぃちゃんは呆れたように瑠菜に言った。頭を抱えて、この子は……とボソボソ話している。

 瑠菜は少し考えてから確かにと正直に思った。

 瑠菜自身、こはくがいなくなって、もう会えないと思って一年間過ごしたことでようやく熱が引いてきたのだ。

楓李のことなど考える余裕すらなくなっていた。


 「でも、あいつ私にはそんなに、……。」

 「どうすればいいかわかんなくなってツンデレが暴走しまくっているだけでしょう?」


 楓李の性格上そうだろうと瑠菜は言いながら気づいた。

きぃちゃんに追い討ちのように言われると少し反発したくもなるが、瑠菜の知っている楓李はもともとツンデレのような性格をしているのだからそれ以外ないだろう。


 「応援するわよ。」

 「そんな、恋人とか無理だから!」


 楓李の性格はこはくを少し外の向かい風に当てたような性格だった。

もともと似ているなぁと思いながら瑠菜は楓李を見ていた。

言葉遣いや瑠菜へのやさしさ、好んで食べるものも似ていた。

瑠菜はこはくに思いを寄せながらも心の片隅では楓李の存在が大きかった。

 それは瑠菜も理解していた。

 瑠菜はニヤニヤとみてくるきぃちゃんを少しにらんだ。


 「違うもん!」


 そう言い切ってコーヒーを口いっぱいに含んだ。

 コーヒーはいつもよりも苦かった。







 

 その後三十分ほどきぃちゃんと瑠菜は話をした。

 楓李やあき、雪紀への悪口や苦情。

 かわいい服や流行りだしたり気に入ったりした歌など日常会話に過ぎないが瑠菜は楽しくてしょうがなかった。

 外に出ると楓李とあきが待っていてくれたらしい。

 目が合った瞬間、三十分前の話を聞かれたのではないかと瑠菜はどきりとした。

 しかし、あきが普通に「待ってたよ。」と言い、楓李がぶっきらぼうかつ心底不満げに立っているのを見る限り聞かれてはいないらしい。


 「遅いなぁ、って思って今来たところだったんだ。よかった。ちょうどだったね。ねぇ、何話したの?」

 「内緒。」

 「えぇ―?教えてよ。瑠菜。」

 「秘密。」


 あきはこういう時しつこく聞いてくるが、一時こうやってあしらっておけばあきて聞いてこなくなるのだ。

楓李は聞きたそうにはするが面と向かって聞いてこない。

 楓李がそわそわとしていると、楓李のおスマホが鳴った。


 「はい。……あー、はい。」


 と楓李は答えてからちらりと瑠菜を見て、スマホを差し出した。

瑠菜はいやな予感がするなぁと思いながらもスマホを手に取る。


 「なぁにをやっているの?瑠菜チュァン!」


 社長だ。

 雪紀の会社の社長で、手伝ったことがばれてからちょくちょく仕事を任せるようになったのだ。

 まぁ、この人自身は瑠菜の同期ともいえる人で、何なら下くらいある。


 「はい。瑠菜です。」

 「瑠菜です。じゃぁないでしょう?まったくもう!」


 社長は男である。

 上代 正重という名前であり、周りからは神様とも呼ばれている。


 「今回の仕事、相方はだれでもいいから。ちゃぁんとやってよねぇ?」

 「え?いつもみたいに決めたり……。」

 「するわけないでしょう?」

 「あ、はい。わかりました。」


 ここの会社は基本的に客の相談にのり、もしできることがあれば手伝いをするという仕事だ。

基本は2人1組で、多くても4人1組。

1人では絶対に仕事はしないというルールのもとで働く。

 こんな仕事だからか、瑠菜は警察官や弁護士など幅広い人脈がある。

 誰でもできるわけではない。

 瑠菜だからできたことであり、ここまでの人脈を作り上げたことすらもすごいことだといえる。


 「なんて?」


 もちろん、あきと楓李には今までの会話は聞かれていない。


 「仕事だって。また頑張らないとね。」


 瑠菜は笑顔でそう言った。






 


 

 瑠菜は困った。

 いつもであれば会社のほうでペア決めはされるのだ。

 それが今回自分で決めろ、と。

 いつものペアは基本楓李だが、昼間のこともあって少し話しかけずらくなってしまった。

 恋というのは厄介なものだ。

 そんなことを考えているときだった。


 「なぁ。」


 いつも声をかけてくることがない人間から急に声をかけられるとどうなるか。

 瑠菜の答えはこうだ。

 少し身構える。


 「何?」


 優しく言ったつもりだったが早口になってしまい強く当たっているように聞こえただろう。


 「ゲームしねぇか?」

 「えっ?」


 まったく考えてもいなかった言葉に瑠菜は目を点にした。


 「げ、ゲーム?」


 楓李が下を向いて動かなくなった。

 瑠菜はそれを見てとりあえずうなずいてしまった。

 顔はいいのだ。

 いつも駄犬のような感じで、けんかっ早いが顔はいいのだ。

 瑠菜はぼーっとしていて頭が回っていなかった。回っていなかったが、楓李の部屋についてからその頭はまた回り始めた。


(あれ?これってやばいんじゃ……?)


 夜に男の部屋に男女二人っきり。

 瑠菜からついて行ったのだ。

 何をされても文句は言えない。


 「やっぱり、今日はやめと……」

 「これに負けたらさ、」


 瑠菜が顔を上げるとそこには楓李がニコッと笑って立っていた。


 「勝ったほうの言うことを何でも聞く。でどう?」


 楓李の手には一万円札があった。


 「やりゅ!」


 噛んだことに気づかないほど瑠菜はそれに夢中だった。


(一万円あれば、欲しいものが全部買える。)


 瑠菜は物欲がないといわれるがそれは違う。

 買えないとわかっているから我慢という名のなかったことにするのだ。


 「んじゃ、トランプな。」


 楓李は瑠菜の考えを、お見通しだった。

だてに何年もこの自由さに苦労してきたわけではない。

 瑠菜は賭けが好きなのだ。

それにかけるお金が高額であればあるほど瑠菜はやる気を出す。

かける額で相手を見極めているともいえるだろう。

 前に楓李は今のような感じで瑠菜を呼び出したことがある。

その時、一回戦でかけたお金は五百円だった。

もちろん瑠菜が五百円でやる気を出すわけもなく、三十分もゲームはかからず楓李の勝利で終わった。

楓李は勝ったことによって調子に乗った。

この時から瑠菜は頭がよく雪紀にいつもあっさりと勝っていたのだ。

強いといわれていた雪紀にいつも勝っている瑠菜に勝ったということは楓李に余計な自信をつけたといっていいだろう。

もちろん、雪紀とやるときは一回千円という小学生の瑠菜にとって大金ともいえる額でかけていた。

そりゃぁ、瑠菜もやる気になる。

この時、自信のついた楓李は調子に乗って自分の小遣いを全額瑠菜に差し出した。

その結果は、もちろん瑠菜に小遣いを全部持っていかれただけだった。

 さぁ、ここからが問題だ。


 「ルールは、俺は一回でも勝てば俺の勝ち。瑠菜は五回勝てば勝ち。これでいいか?」

 「うん。はーやーく!」


 そういいながらも楓李は迷っていた。

 はたから見れば、勢いよくかっこづけたように見えるだろう。

 なぜ、誘った楓李のほうが甘々な判定なのか。

 それは、さっきも言ったとおり瑠菜が強いからだ。


 「んじゃ、スピードな。」


 楓李が勝つ方法、それは今すぐゲームを変えることだ。

スピード。

それは簡単に言うと、数字を順番に出していくゲームだ。

色で分けて先に持ちてのカードがなくなればよい。

ただそれだけだが、楓李はそこまで得意ではない。

相手の手を叩きそうで怖いのだという。

楓李はこの時オセロを選ぶべきだったのだ。

オセロなら、うまくいけば十分の一の確率で勝てただろう。

 先にネタバレすると、楓李は負ける。

 一回戦。瑠菜の圧勝。

 二回戦、三回戦は何とか引き分け。

 四回戦、五回戦、六回戦はまたまた瑠菜の圧勝。


 「水。取ってくるわね。のど渇いちゃったから。」

 「はいはい、どーぞ。」


 七回戦が始まる前に瑠菜は休憩を持ち掛けた。

 楓李は崖っぷちに追い詰められた。

楓李にはもう負ける将来しか見えていない。

出来ても引き分けでゲームを少しばかり長引かせることくらいだろう。

 楓李はその時思いついた。

 いや、やってはいけないとは分かっていた。

分かっていたのだが、これでも一万円をかけた勝負だ。

負けるわけにはいかない。


「ただいまぁ。」

「おかえり。」


 楓李は相も変わらず、ぶっきらぼうに瑠菜に言った。


「さぁてと。最後の勝負ね。」


 瑠菜はそう言いながらトランプを切った。

 綺麗に混ざったであろうカードを並べると瑠菜は楓李をチラリと見た。

 そして、最後のゲームが始まった。楓李は真剣にかつ、どこか申し訳なさそうに始めた。

 ゲームも中盤くらいになっただろうか。

 瑠菜は、自分のカードを見て吹き出してしまった。


「楓李。ずるしたでしょう?」

「さぁな。」


 瑠菜は、赤色のトランプを使っていた。

 しかし途中から、黒色のカードが出てきたのだ。


「良いね。こっちの方がやる気出る。」


 瑠菜は怒るでもなくただただ大笑いをした。

 楓李はずるをしたのだ。

 瑠菜のカードに自分のカードを入れた。

 だがしかし、瑠菜は楓李が思っている以上に負けず嫌いだった。

 楓李よりもカードの数は多いはずなのにもかかわらずあっさりと勝利を勝ち取った。


 「悪いけど、私に何か仕掛けるならもうちょっと強くならないと。楓李は弱いんだから。」

 「瑠菜が強すぎるだけだ。」 


 瑠菜の命令で、近くのコンビニまで走らされプリンとケーキを買わされた楓李はいらいらとしながら瑠菜に言った。


 「いらいらしちゃ、めーっよ?」


 瑠菜は瑠菜はで、最初の危機感はどこへ行ったのかというほど無防備だ。

楓李のベッドの上に横になり、もらった一万円札をにこにこしながら見ている。


 「もう少し危機感持てよ。」

 「ん?」

 「いや、なんでも。」


 楓李の願いは瑠菜には届かなかった。


 「そういえば、楓李は私に何をさせたかったの?」

 「別に。どうでもいいことだが悪いか?」

 「そんな、どうでもいいことのために一万円も用意する?」

 「悪かったな。」


 楓李はすねたままそっぽを向いてしまった。


 「あ、楓李。」


 瑠菜は、少しばかり他人の思っていることを感じ取ってしまう体質だった。

それを知っている楓李はどきりとしてしまった。


(ばれたか?)

 「今からスプーンとフォーク取ってきて。」

 「は?……え、うん。」


 瑠菜は人の心を読み取るがそれ以上に他人に対して興味もなかった。






 

 瑠菜がゲームをしているとき、会社の神様こと上代社長のもとに一通の依頼文が来ていた。


 「神様。今朝こんなものが依頼文の中に混ざっているのが発見されました。」


 上代の弟子の一人が封筒を上代の前に置いた。


 「また、どこかのガキのいたずらだろう。放っておけばいいさ。」

 「今回はそういうわけでもなさそうなのです。」


 上代はいつもの口調とは違うぶっきらぼうな感じだった。

この部屋には上代の信頼する女の弟子と、男の弟子しかいない。

女の弟子はよくしゃべる子で、上代よりも物知りだと思うくらいいろいろな情報を持ってくる。

今回もこの弟子が見つけてきたのだろうと上代は思った。

それに比べ、もう一人の弟子は本当にあまりしゃべらない子だ。

必要事項以外しゃべらないぞという意思が伝わってくる。

男であり、がっしりとした体形のわりに人とはあまりしゃべらないし飲み会もとことん断っているため、上代はこの男のことを信頼している。

 なぜなら、内部の情報簡単に話されては上代の立場に大きな影響を与えるからだ。


 「これを……。」

 「どういうことだ?」

 「こちらの依頼には、よくわからない文字が書いてありました。しかし、どこの言葉なのかこちらも見当がつかなかったため、専門家の皆さんにお聞きしたのです。」


 この会社には専門家と言われるそれぞれの言葉を専門とした人々がいる。

英語や、フランス語など誰もが聞いたことのある言葉を専門とする人もいれば、上代が知らない国の中にある地域の言葉を専門とする人もいる。

国ごとに一人ずついるため、上代が知る限りその数なんと三百人にものぼる。


 「その結果は?」

 「どなたからもこれだという結果は出ませんでした。あのミミズのような文字の国なら。」


 上代もその弟子も、ミミズのような文字の正式名所は知らなかった。瑠菜や楓李がその場にいたならば、それがアラビアの文字だとわかったかもしれない。


 「見せてみろ。」


 弟子はそういわれて封筒を上代に手渡した。

 上代は封筒の中身を見て絶句してしまった。


 「これは、……。」

 「神様。こちらを知っておられるのですか?」


 封筒の中身には一枚の紙とブレスレットが入っていた。

そこに書かれていたのは確かに何も知らない人が見ればアラビア語に見えてしまうであろう文字が大きく書かれていた。

しかし、上代はそんな文字を書く人物を知っていた。


 「コムさんか?」

 「こ、む?え?どなたでしょうか?ここにそんな名前の方はいらっしゃいませんが?」


 上代は分厚いファイルを取り出して付箋のついたページを弟子二人に見せた。


 「え?で、でもこの方、死亡と書かれておりますが?どういうことでしょうか?」


 この会社では無欠勤が続くと死亡といわれる。

探したりもするが見つからなかった場合それで解決させたほうが楽なのだ。

 そしてこのコムという人物は、瑠菜と楓李の師匠でもある。

瑠菜の師匠がそう書かれたとき、瑠菜は低い位にもいなかった。

次期社長とも呼ばれたあいつが社長にならなかったのは前の社長への暴言だった。

コムが死亡と書かれたことに対して抗議したのだ。

本当なら出禁を食らってもいいだろうが、瑠菜はあの通りここで働いている。

 本当に恵まれたやつだと上代は思う。

 上代は瑠菜の師匠に恋をしていた。本当なら弟子入りしたかった。

お願いした時、その人は「私才能ある個しか弟子入りさせないの。」とこちらを向きもせずに断った。

才能がない、それは上代からすれば思いもしない言葉だった。

 この男自信だけはあったのだ。

 しかし、彼女が選んだのは見るからに弱そうで、いつも自信のなさそうに背中を丸めている奴だった。

 それから、「瑠菜と一緒にいるんだ。」とよく騒ぐ男だった。

なぜか彼女は彼のことも気に入っていた。

 瑠菜が彼女を慕っていたのは第三者である上代が見てもよくわかった。

 瑠菜はいつも彼女の後ろをついて行っていた。その姿をいやというほど見た上代だからわかった。この紙には「た」と雑な癖のある文字で書かれている。そして下には小さくC、mの文字が書かれていた。


 (この意味の分からない手紙あいつに見せれば一発だろうな。)


 まだ成人も超えていないあいつがこのことを知ってまともでいられることは百%ないといえる。

 上代は引き出しにその手紙を入れて鍵を閉めた。

 ブレスレットは一応瑠菜に、見せることにした。


 (もしかしたら、まともになっているかもしれない。)


 この手紙について上代は解ける気がしなかった。


 (瑠菜がまともでいられるなら瑠菜に解かせたほうがいい。)

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