第52話 ツラギ空襲

「全機、攻撃開始!」


中隊長のパグ・サザーランドはレシーバーで中隊全機の8機に指示を出した。攻撃隊自体は6個の戦闘機中隊から構成される2個の大隊が所属しておりパグ・サザーランドのランド中隊もそれらの大隊構成中隊の一つである。戦闘機の中隊編成は9機1中隊、27機(3中隊)1大隊が通例である。敵はジークだ。数の上ではこちらが優位だが、格闘戦に持ち込まれると勝ち目はないだろう。だとすると...。


攻撃隊指揮機アタック・コマンダーより連絡、ランド、エリソン、ケイト中隊は高度6000に上昇。上空から敵機戦闘機エネミーズへの強襲を行え。攻撃隊の爆撃、雷撃各中隊は反転しウェイブ中隊と共に退避せよ。正面からは残りの2中隊が迎撃を行う」


「了解!」


パグは僚機達と共に上昇した。そこから見える限り敵戦闘機は50機程といったところだった。サラトガの偵察爆撃隊が報告した通り護衛空母二隻でそれぞれ搭載機数は30機ほどだからそのうち25機が戦闘機であれば辻褄がちょうど合う。機数的にはほぼ同等のため、零戦ゼロ・ファイターと戦った場合には敗北は目に見えていた。正面から敵編隊にぶつかった2個中隊はその場でほぼ壊滅し、残機が逃げる隙もなく次々と撃ち落とされていった。


「全機突入!」


パグも両翼のブローニングM2機銃を敵機に叩き込む。上空から一個大隊が攻撃をかけたことで、20機近い敵機が一撃で墜とされた。旋回半径の小さい敵機は一気に旋回反転し迎撃体勢を整えるがこちらはそのまま敵機の群衆の中に逆さ落としに突っ込みながら銃撃を加え、急降下した。ここで更に十数機の敵機が墜とされ、降下して追撃してきた敵機もF4Fの急降下性能を活かして振り切られた。一撃離脱戦法ヒット・アンド・アウェイである


「散開!ジークを振り切れ!」


レシーバーから編隊長の怒鳴り声が響いたがパグの耳には届いていなかった。低空での圧倒的性能をもつ零式艦上戦闘機は瞬く間に回避行動をしていたF4F、20機近くを撃ち落とした。パグの部下の機も3機が失われた。落下傘が見えたのでパイロットは無事なようだ。捕虜になるか溺死するかの道しかないが死ぬよりはマシだ。一度引き返した爆撃、雷撃中隊は乱戦の横を通り抜けて敵空母の方向へ向かった。


「攻撃隊が敵戦闘機数機の攻撃を受けている。可能な限り援護せよ!、敵機を近寄らせるな!」


編隊長がそれを言う間にも幾筋もの火箭が飛び交い敵味方双方が入り乱れ無数の黒煙がたなびき合って海面に伸びていた。


「了解!各機に次ぐ、戦友からの伝言だ。ゼロに対しては伝えられた通り2機一組で対応するように!」


パグはここで母艦のヨークタウンに最近配属されたジョン・サッチ少佐の言葉を思い出した。前に所属していたレキシントンが沈んだため転属してきた彼はパイロットの間で話題になっていた東洋の魔術サムライ・ソウル零式艦上戦闘機ゼロ・モンスターの対処法について以前から研究していたようで2機1組になって相互に援護し合うことで零戦とも戦えるとのことだった。パグも僚機と援護し合いながら1機の零戦ゼロと戦っていた。僚機の後ろを敵機が取ったが、パグは旋回して横から銃弾を叩き込み見事撃墜した。全体的に戦っていて相手の練度が低いような気がした。それを裏付けるようにF4Fは零戦ゼロと互角に戦っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る