珊瑚海海戦

第50話 MO作戦

ーGF荘の一角ー

「大本営は何を考えているんだ!」


井上はMO作戦実施の報を聞いてそう叫ばずにはいられなかった。  


「東條首相が亡くなり新政府関係者は戦争での快勝で世論を安定させたいと思っているのだろうが....、先の空襲で帝都に危害が及んだことで天皇陛下の玉体に万が一のことがあったらと考えると陛下が作戦を承認したことも否定はできん」


山本はそう言うと作戦計画書に目を通した。新内閣である東久邇宮内閣は皇族でだけあって天皇関連の発言権が大きく、陸軍の強硬派も鳴りを潜めていた。


「金剛型全艦に十勝型六隻、対空巡最上型四隻、輸送船団の護衛には阿賀野型四隻。駆逐艦も新鋭の冬月型に松型。過剰すぎるぐらいだが、大本営が威信をかけてやる作戦だ。これだけの戦力があれば失敗することはまずないだろう」


井上はそれを聞いて少し考えると帽子を被った。


「それがいかんのです。首相の仇を討とうと士気は高いのですがどうも楽観しすぎてるようです。先走るが故に戦力的にバランスが取れていません。それに大本営の主眼はハワイ攻略作戦とアリューシャン列島攻略という意味のないことに向いている。少なくともMO作戦を実施する以上、しばらくは豪州の制覇に取り掛かって欲しいものですが」


井上はそう言って出て行こうとした。


「まあ、指揮権は軍令部の配慮で全面的に君に任されたのだから頑張ってくれ。武運を!」


無言で敬礼をすると井上は出て行った。これからトラックへ飛び石に輸送機を乗り継いで飛び旗艦筑後のに向かうのだ。山本は直ぐに書類の準備を始めた。混乱の中、海軍省で今後の方針を決める会議が開かれるので隣の建物に向かうのだった。

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