第9話 終結

「ハルゼー提督、レキシントンがやられました!」


ハルゼーに届いたその通信は、撤退を決断させるのに十分であった。


「第12任務部隊と合流後、我々は西海岸に退避する。各艦にその旨を伝えろ」


皆がその命令に動揺する。


「しかし提督、それではハワイを見捨てるのですか!」


参謀の一人が声をあげた。ハルゼーはまだ捨てきれない、悔しさを滲ませた表情でそうだと言った。それで、誰もが真珠湾のその後を悟り、そして自分たちが置かれた状況を知った。ただ、それだけであった。


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一航艦と二航艦それぞれには二隻ずつの金剛型戦艦が護衛として随伴していた。ハワイ近海の脅威がなくなった今、それらは護衛部隊の指揮官である第六戦隊の栗田健男の隷下にまとめられ、ハワイ、オワフ島に接近していた。護衛の秋月型が潜水艦を警戒して前方に展開し、重巡の艦載水偵である一式水偵が上空から索敵を行っていた。

日がもう沈むというのにハワイは闇に閉ざされていた。一部では攻撃隊が破壊した燃料タンクや設備が轟轟と燃えて辺りを照らしていた。


それでも栗田はためらいなく命令を下した。


「目標、真珠湾。...撃て」


四隻の金剛型32門の35.6cm砲が咆哮し、既に息の根を止められている軍港に三式弾を放つ。

もはやオーバーキルだった。


僅かに抵抗してきた沿岸砲台は航空艦隊が上空からの攻撃で片付け、慌てて出港しようとする生き残りの雑用船には容赦なく秋月型が10cm砲弾を叩きつける。

真珠湾には三式弾の子爆弾が無数に降り注ぎ工廠や基地、兵舎といった構造物が切り刻まれていく。停泊している艦艇も同様である。駆逐艦や巡洋艦は上部構造から擦り減らされて燃え、航空攻撃で沈んだ艦の救助活動をしていたからか、甲板にいた乗組員はボロきれのように吹き飛ばされる。重油が浮かぶ黒い海面にあるカッターも、三式弾の爆発を喰らったらひとたまりもなく木片になる。

既にその巨体を海底に横たえている戦艦泊地バトルシップ・ロウの戦艦群は沈みきれず海面に突き出た艦橋三脚マストすら、崩れるように破壊されていった。

ついで、徹甲弾や通常弾も放たれ、フォード島の滑走路に大きな破孔クレーターを穿ち、あるいは瓦礫の下で必死に生きようと、そして仲間を助けようとしている人々の命を炸裂とともに刈り取る。その後のことは言うまでもない。


「しかし、占領できないのは惜しいな...」


栗田は真珠湾の状況を考えすぎないため、そんなことを参謀に言った。


「連合艦隊の今の能力では占領できても補給が続かないそうですし、蘭印やアリューシャン、豪州に手を伸ばすことを考えると戦力分散になるため維持が難しい、が軍令部の言い分ですが、果たしてどこまで本当なんでしょうね」


雲龍型は既に10隻以上が起工されている。軍令部は何を恐れているのだろうか。栗田はそのことを頭から振り払い、今後について考え始めた。



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