プロローグ
一九四一年一二月八日、現地時間四時三十分
ハワイ諸島、オアフ島。
原田少佐の乗る九七艦攻は海岸線が見える距離までハワイに接近していた。
まだ日が昇る前の太平洋に、ポツポツと浮かんでいる、ハワイ諸島の島々が、ぼんやりと見えた。
日本より遥か六五〇〇km、大日本帝国の誇る二つの精鋭航空艦隊から発進した攻撃隊は、黎明の虚空を発動機音でかき混ぜながら突き進んでいく。
「少佐殿、信号発信用意完了しました。いつでも送れます!」
後部座席の勝浦大尉がまだかまだかと、張り詰めた声でそう言った。
「まてまて、タイミングが重要なんだ」
原田はそういうと手元の腕時計に目をやった。
現在時刻は四時三十七分。
予定道理であればもう宣戦布告書をワシントンの駐在外交官が渡しているころだ。
宣戦布告はハワイ時間四時三十分だからもういいだろう。
そして、もう一度原田はハワイの方を見た。
何も起こることはない、平穏そのものだ。
それを今から自分たちの手で壊しに行くのだ。
長い、長い戦争が始まる、数千、数万の命が失われることになる。
だが、原田少佐に躊躇の感情は無かった。
これは、命令だ。
そして、帝國の存亡をかけた戦いだ。
「...よし、大尉、打電してくれ」
「了解!。ツツツーツ、攻撃開始を打電します。」
勝浦が弾む声でそういう間にも機長は機体をバンクさせ、機首をオアフ島に向けた。
「打電完了!」
原田はふと、後ろの方を見る。
総勢二〇〇機近く、真珠湾の米艦隊を狙う帝国海軍最大の空母艦載機編隊だ。
九七艦攻、九九艦爆、零式艦戦といった欧米の航空機にも引けを取らない、むしろ勝っている新鋭機が揃っている。
それぞれが胴体に黒色の爆弾を抱え、或いは銀色の魚雷を吊り下げ、その禍々しさをむき出しにしている。
一見はただの飛行機に見える零戦も、翼内に敵機を落とすための二〇ミリ機関砲を装備し、隠された凶器を持っている。
いずれも、優美な胴体に備え付けられた主翼が、太平洋の光を反射して、銀色に反射していた。
壮観の一言に尽きた。
電信が各機に届いたのか編隊は数群に別れ、再編を始める。
各機が徐々に旋回し編隊が複雑に入れ替わってゆく。
「間もなくだな...」
景色が何も無い海から、徐々に岩礁、そして陸地へと変わってゆく。
そして、編隊は真珠湾へと差し掛かろうとしていた。
(改稿済み)
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