IF 人に寄り添うアンドロイド

ねぱぴこ

出会い

御堂 賢 01

 コンコンコンと、ドアが三回ノックされた。私はキーボードを打つ手を止め、パソコンの画面から顔を外した。


「――どうぞ」

 そう言うとドアが開き、白衣を着た所員が入ってきた。


「『IF』の出荷準備が整いました。御堂みどう室長に最終確認をお願いしたいのですが……」

「わかった。行こう」


 私は革張りの椅子から立ち上がり、部屋を出ると研究員のあとについて長い廊下を歩いた。すれ違う他の研究員たちが、私の姿に気付いて両手を体の横につけ、しっかりとお辞儀をしてくる。私は軽くうなずき返した。


 ――倉庫の前に着くと研究員がカードキーをかざし、扉を開いた。

 電気がつき、目の前に並ぶ姿を見て――私は思わず、息を呑んだ。


 私はもう何度も倉庫に足を運んでいるはずなのに、目の前に広がる景色が普段とは違うもののように思えた。自分がこれから何をするのかを自覚していて――心の中で期待、興奮、不安などの様々な感情が入り混じり、見慣れた景色がそうでないもののように見えているのだろう。


 私は深呼吸をすると一体のアンドロイドに近寄り、左手にそっと触れた。ひんやりとした金属の温度が伝わってきて、それは決して人肌に触れた時のような温かさではなかったが、アンドロイドの外見は人間のそれとほぼ変わらなかった。


 次に私は、アンドロイドの顔を見た。見開いた目はしっかりと前を見据えていて、優しげな青年のような顔つきは、私の理想そのものだった。

「うん、うん。――問題ないだろう」

 私は振り向き、背後で待機している研究員にそう伝えた。



 IFイフ――。それが、このアンドロイドたちに私が付けた名前だった。

 Imaginaryイマジナリー Friendフレンドの頭文字を取った、非常に単純な名前だ。が、『もし~ならば』という意味の英語や、畏怖いふという日本語など――『イフ』という単語は、皮肉にも様々な意味を持っている。


 ――ようやく、私の悲願が成就する。

 そう思ったとたんに、私の心の中は興奮でいっぱいになった。

 これからどんなことが起こるのだろうかと、私は期待で胸を膨らませ――満足げな顔でうなずいた。

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