ひのもと陰陽あやかし草紙
珈琲屋
言問と鳴神 (1)
隣国では
ひのもとのくにでは、いまだ
大小さまざま物事あれども、天をひっくり返すものはいまだ現れず、ナカツクニがヤマトになってから
今のヤマトを
朱雀京の中心、天子の住まう
御所の北側に、政治をつかさどるその一つ、天を見、星を読み、時を計り、先を占う、
その陰陽寮に集う
言問は、同じ所属の同僚からもどこにいるかわからぬ、とよく言われる男だ。
パッと見ても、冠からはみ出たもさりとした黒髪に、うすぼんやりとした印象の顔、中肉中背の体躯と、確かに目立たぬために生まれてきたような男ではある。
更に言えば、着こんでいる衣冠もやわらかな
通常の貴族なら成人したばかりの若者の色で、その衣も着方はカッチリとして
そして、本日の彼は陰陽寮の中にある、自身の所属する
陰陽寮でもかなりの広さを誇る記録所には、大量の棚と木札の付けられた巻物があり、さらには古い
しかし、様々な資料をあらゆるところで求められるゆえに、保管する側としては記録が紛失せぬよう管理するのが大変で、記録の持ち込み持ち出しは厳しく管理されていた。
言問は占部と記録所を何往復もして資料を運び、そのたびに入口で記録係の木簡に書きつけている。
最後の往復を終え、使わなかった巻物を棚へ返している時、後ろから声がかかった。
「
資料を置く棚近くから呼ばわる声に、後ろを振り返れば腕一杯に巻物を抱えた男が立っていた。見るからに、この男もまたどこからか資料を返しに来たのだろう。
頼んだ男の
男の方もそれが分かっているようで、言問が返事もせぬうちに、
巻物に付された木札の題を髪の隙間からザッと見て、言問は一つ頷くとそれを棚へ返さずにそのまま静かに、出入り口で何も記さずに記録所の外へと運んでいった。
印象薄い小物にしても、忙しく立ち働く誰の印象にも残らずに。
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