ダヴィのダンジョン冒険譚
虹凛ラノレア
第1話 英雄ダヴィ
夕焼け空が広がる住宅街に1人の男性が家のドアを激しく叩く。
「おーーーい!ダヴィー!!」
弓を背中に背負う男性は名前を口にしながらドアを叩き続ける。家の中からは物音はせず男性は再びドアを叩く。
ジョージ 「いるんだろーーーー!俺だよ!お前にとって唯一の大親友ジョージ様!最近、ダンジョンで奇妙な話があんだよ!」
激しく叩きながら大声で話すジョージにようやく家の中から人が歩く足音が聞こえドアが開く。
ジョージ 「ようやく出たか。この半年間、全然見かけないから孤独死してないか心配してたんだ」
家の中から灰色をした髪色の中年男性が姿を現す。
ダヴィ 「ダンジョンで奇妙な話があるって?」
ジョージ 「あぁ。エトナっていう少年が言葉を話すモンスターがいるとか言ってたぞ」
ダヴィは顎に手を当て考え込む。
ダヴィ 「モンスターが言葉を話す…。聞いた事が無いな」
ジョージ 「お前、ドラゴン倒してから引きこもり生活なのか?」
ダヴィ 「……」
黙り込むダヴィにジョージは深いため息をつく。
ジョージ 「おいおい。ダンジョン、最下層のドラゴンを1人で倒した英雄ダヴィさんがなんちゅー生活してたんだ」
ダヴィ 「ドラゴンを倒すのが全てだったから……」
ゴニョゴニョと小さい声で呟くダヴィにジョージは肩を掴む。
ジョージ 「とりあえず髭を剃って顔を洗って身だしなみを整えたら冒険者ギルドに行け。エトナが英雄ダヴィさんに絶対確かめて貰うんだ!って聞かないんだ。今もずっといるぞ」
ダヴィ 「でも…」
ダヴィは腕をギュッと掴む。
ジョージ 「ダヴィ。そんな姿、嬢ちゃんが見たら呆れられるぞ?こんなダヴィ、あたしの好きな人じゃない~~~!って」
声を裏返し話すジョージにダヴィは金髪の髪をハーフアップにし赤い瞳をした女性が怒る姿が脳裏に浮かぶ。
ダヴィ 「そうだ…な。このままじゃダメだな」
ジョージ 「エトナっていう少年は藍色の髪をして背中に大きな斧を背負っているから直ぐにわかる」
ダヴィ 「わかった。身支度して向かうよ」
引きこもりの親友を外に出す事に成功しジョージは安堵する。
ジョージ 「俺はちょっくらダンジョンで確認したい事があるから行ってくるわ。じゃあ、またな」
ジョージは背中を見せ歩き出すと大きく手を振る。
ダヴィ 「あぁ。またな」
ダヴィは玄関口のドアを閉めると洗面台へと向かう。髭を剃り、顔を洗うとボサボサだった髪の整え糸がほつれた寝巻から普段着に着替える。
玄関口に立てかけていた剣を持つと鞘から抜き自分の顔が鏡のように映る。
ダヴィ 「冒険者ギルドか…。久しぶりだな」
自分の顔が鏡のように映る刃に話しかけるとしまい、横掛けのポーチと共に装着する。
ブーツを履くとドアを開け薄暗い空を眺める。三日月が微かに見えるとダヴィは冒険者ギルドへと半年間振りに向い歩き出す。
この世界では魔法を扱える者が圧倒的有利な社会だ。魔法が使える者は魔道具などを作る国家錬金術師、王族を守る国家魔術師、人々を管理する国家公務員。魔法を使える者は優遇され仕事を選び放題だ。
魔法が使えない者は農業をしたり、国家兵の下の下にある村の警備員、モノづくりなら手先が器用な鍛冶師、土木、服を作るお針子。
それでも才能の無い者は冒険者ギルドに入会しダンジョンの最下層を目指してひたすらモンスターを狩り素材を売る。
冒険者は入会と同時に倒したモンスターを収納する小さな収納箱が配布され触れるだけでコンパクトサイズになり気軽に持ち帰れる。
狩ったモンスターの入った収納箱を渡すと相場の金銭が支払われ錬金術師はモンスターから素材を自ら剥ぎ取り生成する。
この世界はモンスターの素材で錬金術師が火を纏う魔法の剣など、すぐに特定の位置まで移動出来る書など、すぐに傷を癒すポーションなどを生成した。
時が経つにつれ魔道具は発展しボタンを押すだけで灯りが灯るものが街に設置され人々の暮らしを豊かにする物となり国を発展していった。
魔法が使えない庶民は魔法使いの貴族に抗う事は絶対に出来ない。産まれた瞬間に今後の人生が大きく左右される理不尽な世界だった。
庶民のダヴィは半年前に1人で最下層のドラゴンを討伐し冒険者ギルドの英雄となった。
だが、目標だったドラゴンを倒してもダヴィは癒えない傷にいつも悩まされていた。
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