第2話 奇妙な話
ダヴィは冒険者ギルドの中へ入ると辺りを見渡す。冒険者ギルドには乱雑にテーブルや椅子が陳列され今日も沢山の人で溢れていた。
酒のジョッキを片手で握り女房の愚痴を零す者。酒を飲み過ぎたのか顔を真っ赤にして大きな声で歌い、大勢がリズムに合わせて手を叩く者。
そしてダンジョンの攻略法を真剣に語り合う者。冒険者達で賑わう中、藍色の髪に大きな斧を背負う少年が大きく手を振っている事にダヴィは気付き席へと向かう。
「ダヴィさん!きてくれたんですね!」
ダヴィは既に飲み物が置かれているテーブルの対面に着席する。
ダヴィ 「あぁ。君がエトナか?」
エトナ 「そうです!僕の名前はエトナです!英雄のダヴィさんに逢えて嬉しいなぁ」
エトナはダヴィを見つめながら目をキラキラと輝かせる。
ダヴィ 「俺も家にジョ―ジが来るまで冒険者ギルドに行くとは思わなかった…。是非、奇妙な話を聞かしてくれ」
エトナ 「はい!これは2週間前の話です」
エトナはダヴィに対し、2週間前に起きた話を語る。
———【2週間前】
エトナはダンジョンの地下21層へと向かっていた。
エトナ 「確かここの階層はボーンナイトが出るんだよな」
辺りを見渡し歩いていると甲冑を着用し剣と盾を構える動く骨に出くわし背中に手を回し斧の取っ手を握る。
エトナ 「出たなっ!ボーンナイト!僕が相手をしてやる!」
取っ手を握るとくるくると両手で回し斧の刃を茶色の床に刺す。床にひびが割れるとボーンナイトはエトナに向い襲いかかる。
ボーンナイトは剣を振り回すとエトナは斧でガードし押し倒す。
エトナ 「後はこの斧で粉々に粉砕するまでだ!」
ボーンナイトはバランスを崩し倒れると、エトナは素早く接近し斧を頭上で留め縦に振り落とすと盾でガードするが斧の破壊的な威力で盾は破損する。
盾を失ったボーンナイトに向い横、一直線で斬るように斧を振るうと真っ二つに割れ倒れる。
エトナ 「ふう。この収納箱に入れて錬金術師に渡すか」
ポーチから小さな檻の箱を取り出すとボーンナイトの身体に触れた瞬間、収納箱の中へ入る。
エトナ 「よしっ!
ポーチからコンパクトな巻物で出来た
———カチャカチャカチャ
甲冑の鳴る音が聞こえエトナは背後を振り返る。ボーンナイトが剣と盾を構え立っていた。
エトナ 「まだ、いたか!」
エトナは再び背中に手を回し取っ手を握るとボーンナイトに向い斧を構える。
「な…んで…」
ボーンナイトが人間の言葉を口にしエトナは咄嗟に
エトナ 「しゃ、しゃ、しゃ、しゃ、しゃべった!!ボーンナイトが!」
心臓音はバクバクと鳴り、パニックになったエトナは逃げるように冒険者ギルドへと向かう。
——————————————
エトナは興奮気味に奇妙な経験をダヴィに語る。
エトナ 「そこれはきっとダンジョンに想いを残した元冒険者の死骸だと思うんです!どうですか!?英雄のダヴィさん!」
興奮気味に話すエトナに対しダヴィは顎に手を当て冷静に考え込む。
ダヴィ 「ふむ…。普通にボーンナイトだな」
エトナ 「そうですよね!そう思いますよね!でも、"な…んで…"って!!人の言葉を話すんですよ!?」
ダヴィ 「本当にボーンナイトが話したのなら妙だな。本当の話なら…な」
エトナは座っていた椅子から立ち上がるとテーブルを強く叩き、飲み物の入った透明のグラスが揺れる。
エトナ 「いえ!絶対に話しました!この耳でしっかり聞きましたから!」
エトナは自分の両耳を掴み強調するとダヴィはサルに見え、思わず口元を手で隠しフフッと笑う。
ダヴィ 「今もいるのか?喋るボーンナイトさんは」
ダヴィは口元を覆っていた手を離すとエトナは静かに着席する。
エトナ 「はい。昨日、ダンジョンに入ったらまた逢ったんです。是非、英雄である冒険者のダヴィさんに直接確認してほしいんです!」
ダヴィ 「なるほどな。まぁ、ダンジョンには半年間も潜っていないから行ってもいいかもな」
テーブルに置かれた透明のグラスをダヴィは手を伸ばすと持つ。
エトナ 「赤いドラゴンを倒したから、ダンジョンに行ってないのですか?」
少年の言葉にダヴィは動きがピタリと止まる。口元に触れていたグラスを離しテーブルの上にコトンと静かに置き戻し小さなため息をつく。
ダヴィ 「そうだな…。あの赤いドラゴンを倒すのが俺の全てだったからな」
エトナ 「錬金術師が喉から手が出るほど欲しいドラゴンの素材!牙、爪、血…全て高価で売買されてますしね。国家秘密で何を作られたか知られていないのが残念だな~」
興奮気味に話すエトナはグラスに手を伸ばしゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み物を飲む。
ダヴィ 「錬金術師様はドラゴンの素材で一体何を作ったのやら…」
エトナ 「ドラゴンを討伐するのは一獲千金を狙うと一緒ですよね~。お金持ちになった気分はどうですか?」
エトナは目を輝かせながらグラスを置くと、ダヴィの返答を今か今かと待ちわびる。
ダヴィ 「37歳のおっさんになっただけで…何も変わらない…かな」
現実味のある言葉にエトナは言葉を失う。周りの冒険者が騒ぐ音がギルド内に響くだけの時が経つとエトナはようやく口を開く。
エトナ 「そう…ですか…。そんなものなのですね」
ダヴィ 「気分転換がてらにお前のような奇妙な話なら気が少しでも晴れるだろうと思って、また冒険者ギルドに来たんだ」
エトナに向いダヴィは話すとグラスに手を伸ばし一気に飲み物を飲み干す。
エトナ 「是非、真実を確かめて下さい!決して嘘ではありませんよ!」
ダヴィ 「あぁ。わかった。何か分かったらまた連絡する」
グラスを置くとダヴィはエトナ少年と別れの挨拶を交わし冒険者ギルドを後にする。夜道の中、ギルドからそう遠くないダンジョンへと向かう。
ダヴィ (ボーンナイトか…。そういえばあの時———)
ダヴィは真っ暗になった空をふと見上げると、輝く星を眺めながら過去の記憶を思い出す。
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