第6話 苦労人のスカーレット
———【6年前】
ダヴィは冒険者ギルドへと向かい歩いていた。
ダヴィ 「スカーレットともう1週間もあってない…あれ?俺、何で日付も数えてるんだ」
気まずいまま別れを告げた1週間の時が経った。ダヴィの前にスカーレットは姿を現す事は無かった。
ダヴィは歩き続けると冒険者ギルドの前でスカーレットの姿が遠目で見え自然と足が動き走り出す。
ダヴィ 「スカーレット!!」
息を切らし全力で走るダヴィの姿にスカーレットは気づき振り返る。
スカーレット 「ダヴィ…」
ダヴィ 「この間はごめん!言い過ぎた!」
ダヴィは深々と頭を下げるがスカーレットから何も返答がなかった。
頭を下げたまま返事を待つが一向に無く不安に思ったダヴィは恐る恐る顔を見上げると肩を震わせながら涙を流すスカーレットの姿に動揺する。
ダヴィ 「ど、ど、どうした!?スカーレット!?」
スカーレットの両肩を掴むと顔を俯け更に身体は震える。
スカーレット 「いや…だ…」
ダヴィ 「えっ?」
スカーレットは震え声で答えると地面にポタポタと涙が零れ土が濡れる。
スカーレット 「あた…し…家に…かえりたく…ない…」
涙声で話すと顔をあげる。大粒の涙が溢れ流すスカーレットの顔はぐちゃぐちゃな程に痛々しい表情だった。
ダヴィ 「そうか…。じゃあ、俺んちにこい」
スカーレット 「…いい…の?」
ダヴィ 「あぁ。どうせ1人だしな。ちょっと古いけどそれでもよければ…」
大粒の涙を流していたスカーレットは涙を手で拭い頷く。
スカーレット 「行く」
2人は肩を並べダヴィの家へ向かう。こじんまりとした小さな家にスカーレットを招くとダヴィはミルクを釜で温める。
その間、2人に会話は一言も無かった。釜で温めていたミルクがふつふつと湧き上がり、ダヴィは2つのコップを並べおたまで移す。
スプーンではちみつをすくうとかき混ぜるとテーブルに運ぶ。
ダヴィ 「スカーレット。これでも飲んで落ち着け」
スカーレット 「うん…」
ダヴィに差し出されたコップの取っ手を握ると、ホットミルクを喉に通す。
ダヴィ 「家に帰りたくない時もあるよな」
スカーレット 「ダヴィ…。あたしね。母親に良い結婚相手が見つかったって言われたの」
ダヴィがコップを唇に当てた途端、手が止まる。
ダヴィ 「……えっ?」
スカーレット 「どっかのお偉いお貴族様があたしの事、600万を母親に払う代わりに嫁として迎えるって」
ダヴィ 「それってつまり、お金でスカーレットを買うって事じゃないか…」
スカーレットはコップをテーブルの上に置くと手を組み胸に当てる。
スカーレット 「あたし、悩んだんだ。お母さんの為に嫁ぐか。でもね、いくら考えてもダメだった…どれだけ考えてもダヴィが良いの」
ダヴィはホットミルクを飲み干すとコップをコトンとテーブルの上に置く。
ダヴィ 「スカーレット。俺がどうにかするから…今日はもうゆっくり寝ろ」
スカーレット 「でも…」
スカーレットは言葉を詰まらせるとダヴィは椅子から立ち上がると駆け寄り手を握り移動する。
スカーレット 「ダ、ダヴィ…。もしかして———」
ベッドが置いてある寝室にスカーレットは頬を赤くしダヴィの手を力強く握る。
ダヴィ 「お前が想像する事はしないから安心しろ」
スカーレット 「そ、そうよね…。ダヴィは紳士だもの。そんな事はしない…」
ダヴィは握っていた手を離すとベッドに向い指を差す。
ダヴィ 「とりあえず、そこに横になれ。目の下にクマが出来てるし涙で化粧はボロボロに剝がれてるし凄い顔だぞ」
スカーレット 「やっぱりダヴィは紳士じゃない!毎日ダヴィの為に念入りに化粧してるのに!綺麗って言われたくて…」
ダヴィ 「スカーレットは化粧なんてしなくて良いんだ。十分、綺麗なんだから」
スカーレットの顔は一気に赤くなる。大人しくベッド側へ移動し腰をおろすとブーツを脱ぎ横になる。
スカーレット 「ねぇ。ダヴィ、聞いてくれる?」
ダヴィ 「うん」
ダヴィは横になったスカーレットに毛布を掛けると手を握る。
スカーレット 「あたしね。じつは———」
スカーレットはダヴィに対し過去の出来事を語り始める。
———【15年前】
まだほんの5歳だったスカーレットは母親に頬をビンタされ倒れる。
「あんたのその赤い瞳は大嫌いだ!!私を捨てたあの男にソックリで!」
スカーレット 「ご、ご、ご、ごめんな…さい…」
私はヒステリックに叫ぶ母親にスカーレットは謝罪の言葉を口にする。特に悪い事はしていない。ただ大きな声で怒鳴り散らす母親に対しての最善の行動は謝罪するに尽きるだった。
「本当は私はあの人の妻になる予定だった!それなのに私の事をいらないと捨てた!」
私の父親は身分の高い人だったらしい。身分の高さは私の赤い瞳が証明している。魔法使いの身分は貴族か王族しかいないのだ。
母親は魔法が使えないただの庶民。ただ美貌が綺麗と評判で父親と出会い、私を身籠ったそうだ。けれども、私の父親は母親を安易に捨てた。原因は身分。結局は叶わぬ恋だったのだ。
「さぁ。今日もダンジョンでたんまりと稼いできな!あんたには魔法が使えるのだけが取り柄なんだから!」
スカーレット 「は、はい…」
子供は親に愛される者。しかし、私の母親は子を愛する者では無く使う者だった。私は重い足をあげ家から外に出ると視線を感じる。
皆、ボサボサの髪をしみすぼらしい服を着た私の姿を哀れな目で見つめ小声で話すと距離を置く。
誰も私を救ってくれる人なんかいない…。
ダンジョンでモンスターを狩り錬金術師に収納箱を渡すと金銭を受け取りひも付きのポーチの中へ入れる。
スカーレット (このぐらいアレば、今日はお母さん褒めてくれるかな?)
淡い期待を抱きお金の入ったポーチをギュッと大切に握る。駆け足で家へ帰ろうとすると男の人の足に衝突しスカーレットは尻餅をつく。
スカーレット (お、怒られる怒られる怒られる怒られる!怖い怖い怖い!)
私は当時、男の人がとても怖かった。母親の口から男の人に対して良い事を聞かないからだ。男は安易に女を捨てる。男はすぐ女を裏切る。男にとって女は道具なのだと普段から聞かされたいたからだ。
「大丈夫か?」
「あ、あ、あ、の、あ、の、す、すみ…」
スカーレットは肩をカタカタと震わせていると、衝突した男性は少女と同じ目線になるように膝を折り跪く。
「何もしない。怪我していないか?」
「あ…は…い……」
灰色の髪をした男性は尻餅をついたスカーレットに対し手を伸ばし、小さな手を握ると同時に立ち上がる。
男性はスカーレットの頭に手を置くと優しく撫でる。
「良かった」
にっこりと微笑む男性にスカーレットは幼いながらも恋心を抱いた瞬間だった。
スカーレット (この人はお母さんが話すような男の人とはちがう気がする。とてもやさしくて何だかこころがあたたかい…)
スカーレットはお辞儀をすると頬を赤く染め笑みを浮かべながら家に帰った。その日から王子様のような彼に再び会えるのを、密かにいつも楽しみにダンジョンへと出向いていった。
———―――――――――――――
スカーレットが話し終えるとダヴィは目を丸くする。
ダヴィ 「そう…か…そうか!あの時の女の子はスカーレットだったのか!!」
スカーレット 「気付くの遅いよぉ」
ダヴィ 「いや~最初逢った時、こーんなに小さかったからさ。こんなに美人に成長してただなんて改めて驚いたな」
スカーレットと初めて出会った当初の背丈を思い返すと、ダヴィは座っている椅子と同じ背丈で手を左右に動かす。
スカーレット 「改めては余計!あの時からあたしは稼ぐしかなかったんだ…」
ダヴィ 「今も…なのか?」
スカーレットはコクリと小さく頷く。
ダヴィ 「スカーレット。君の事は絶対に救い出す。この命に代えてもだ。だから安心して寝ろ」
スカーレット 「うん…」
スカーレットをあやすようにダヴィは身体を一定のリズムでトントンと叩く。
スカーレット (ありがとう。ダヴィ。あなたは本当に優しいね。嘘でも嬉しいよ)
ダヴィに優しく頭を撫でられるとスカーレットは安心し、スっと眠りに入り寝息の音を立てる。
ダヴィ 「スカーレット大丈夫だ」
就寝したスカーレットに対し小さく呟くとダヴィは寝室にある鍵付きの箱を見つめる。
ダヴィ (父さん、母さん…。俺は———スカーレットの為に使うよ)
箱の前で胸に手を当てるとダヴィは決心し小さな鍵をポーチから取り出す。
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