ダンジョンに潜っていたらなぜか魔王になっていました
藤ノ山井
第一話
プロローグ
「ゼノ・グレイス。中等部から引き続き今回もあまり成績が振るわないぞ。もう少し頑張ったらどうなんだ?」
「……はい、すいません。頑張ります」
広く大きな教室。約40人が集められたこの教室では今、つい先日行われた試験の成績が返却されている。
そして、その試験で学年最下位を取ったのがこの少年――――ゼノ・グレイスだ。
ゼノは自分の席につき、溜息をつく。
そしてもう一度成績を見返す。
今回は自信があると思っていただけに、その成績を見てどうにも納得がいかない。
「ゼノ。もしかしてまたダメだったの?」
「うん……」
話しかけたのはゼノの隣の席の女子生徒、クレイア・プラウディール。ゼノと対照的に成績優秀な優等生であり、よくゼノの勉強にも付き合っている。ゼノは内心申し訳なさを感じているが、それよりもクレイアには感謝していた。
「気にしなくていいよ、次切り替えていこうよ。まだ高等部最初の試験だよ。こっから挽回しよう!」
「……ありがとう。なんか元気でたよ」
「うん! その調子、その調子」
「うん……でもごめんね。せっかく勉強教えてもらったのに」
「いいの、いいの!」
その後、全員の試験の返却が終わり、教室を出た二人は訓練所に向かう。
残念ながらゼノは実技の成績もそぐわないのでクレイアに時々特訓をつけてもらっている。
訓練所につき、着替えた二人は武器を構える。
クレイアは
「じゃあ、行くよ……フッ!」
クレイアは細剣を構え、一気に突き出す。ゼノはそれを大剣で受け止め、そのまま押し返す。
そして、一瞬怯んだ所を大剣で狙い込む。というのがゼノの狙いであった。
しかし、クレイアはあっさりと大剣躱していて僕の大剣は空を斬った。
そして、行き場を失った大剣の上にクレイアは飛び乗り、僕の喉元に細剣を突き立てた。
「はい、これでまた私の勝ち!」
「参りました……」
今日もゼノの負け。
これで通算99回目の敗北。まあ、実技最下位のゼノが実技二位の彼女に勝てるわけもないのだが。彼女は特訓前に成果を見ると言って必ず決闘を行う。
「だからいつも言ってるでしょ、決着を焦るなって」
「はい…」
「よし、それじゃあ今日もバシバシ訓練するよ!」
「はい……」
「返事が小さい!」
「はいっ!」
そう言ってゼノはクレイアに向かって敬礼した。
「じゃ、いっくよぉ!」
クレイアは右手に持っていた細剣を即座に構える。
「あ、ちょっと、待ってぇー」
それから、特訓は三時間ほどぶっ通しで行われた。クレイアがひたすらゼノに突き、ゼノはひたすら回避する。
気づけば訓練所はボコボコになっていた。
「ふぅー、今日はこんなもんじゃない?」
「ハァ……アァ」
息を切らせながら体力の限界に至ったゼノは地面に倒れ込む。
ゼノと対照的にクレイアはピンピンとしている。
「なんで…そんなクレイアは元気なの?」
「ゼノが弱っちいだけだよぉ」
「えぇ」
クレイアはゼノを置いて笑顔でその場を去っていった。
ゼノはそのまま、少しの間、地面に寝転がっていた。寝転がるのが気持ちがいいのと、普通に体が動かないからだ。
すると、見知った顔が、上からゼノの事を覗き込む。ゼノは横目にそれを確認する。
「ん? あ、アルヴァ」
「よっ!」
アルヴァ・スカーレット。
クレイアと幼馴染の青年で彼もまたゼノに親しく接している珍しい人物の一人である。
「また、クレイアにこっぴどくやられたのか?」
「うん……。やっぱり全然僕じゃ適わないよ」
「そう卑屈になんなよ。いつか勝てる日が来るって」
ゼノは苦笑いをする。
アルヴァはクレイア以上の実力者でありこの学園普通生の実技一位でもある。特待生入りも周りから期待されていたが、特待生にはこの彼でも一歩及ばなかったらしい。一体どんな化け物なのだろうか。
「ところでアルヴァはここで何を?」
「お前がまたへばってるっから行ってあげればってクレイアに言われたからな」
「ああ、それななんか申し訳ないです」
「なんで謝んだよ」
アルヴァは満面の笑みを浮かべているが、ゼノはそれに苦笑いで返す。
「ま、頑張るのも無理ないか。もうすぐ初めての
ゼノは何とか体を起こしてから言った。
「うん。それまでに少しでも力をつけたくて」
「おう、お前がやる気で俺も鼻が高いよ。一緒に頑張ろうぜ」
ゼノはこんな自分をバーティーに誘ってくれた二人の為にも一層頑張ろうと思った。
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