剣とガラクタ

@tctyt

第1話

子供の頃からただ漠然と憧れていた。騎士団という力に。その手に握られた正義に。


「ッシャ!またオレの勝ちだな!」


「お前運よすぎだろ〜!おい、ドルチェ!お前も混ざるか?」


「いや、俺は遠慮しとくよ...。ちょっと見回りついでに外の風吸ってくるわ」


「あっそう?オレら朝までここ居るからさ〜、気が向いたらいつでもこいよな〜!」


「仕事熱心だね、ドルチェクン。どうせ働かなくてもそこそこの金が入ってくるってのに」


そんな憧憬は...見回りをサボり、下品に酒をあおりながらクシャクシャになったカードゲームで遊ぶ彼らに打ち壊された。


この馬鹿野郎共が。


「こんなはずじゃなかったのに」


何度その言葉を思い浮かべただろうか。5年前、王都から直属の騎士団が来た時、地方にいた俺たちは子供ながらに輝きを見た。磨き抜かれた甲冑に乱れぬ隊形、そんな彼らを見たのは国王が代替わりした時のパレードが最初で最後だった。


そこから俺は、寝る間も惜しんで努力に努力を重ねた。少しでもあの輝きに近づけるように、正義を振るう力を身につけられるように。剣術の稽古を欠かしたことは無いし、小遣いなんて紙とインクと教本以外には使わなかった。


「それが、今ではこれか。」


件の代替わりした国王というのがまたダメなやつだった。政をすべて臣下に任せ、自分は悠々自適に生活している。その臣下というのも、前国王の臣下ではなく、何やら出自が怪しげな奴らなのだ。


出自も分からないような連中に自国の政治を任せ、自分の欲を満たす為だけに資源を食いつぶしてるマヌケが王様?国民をコケにするのも大概にしろってんだ。


あいつらの根回しせいで騎士団は弱体化し、国民の士気もだだ下がり。苦しい生活こそしていないが、どうにも国交関係がきな臭くなってきている。このままでは治安の悪化も目に見えている。今こそ俺たち騎士団が気を引き締めるべきだろうが...。


「オーイ、そこのオマエ。間抜け面ヒッサゲテとぼとぼ歩いテンジャねーヨ」


「...?」


なんだ?今のは。俺に言ったのか?誰が?


「キョロキョロすんなヨ。その腕章はカザリか?お前だよオマエ、騎士団の金髪のアンチャン!」


「なっ..!誰ですか?どこにいるんですか?」


周りを見渡しても誰もいない。道の脇にもガラクタが無造作に積まれているだけで、見晴らしのいいこの道に隠れるところは見つからない。


「オマエ、右見てミロヨ。」


右...?ガラクタの山しか無...!


「なっ...!」


そこでは、鍋の蓋に電池が2つと大きなバネが横向きにくっついている奇妙な物体がこちらを見つめていた。


「ハン、ヤット気が付きヤガッタカ。トリアエズ俺さまヲサッサト抱えヤガレ!」


ごくりと唾を飲む。何が何だか分からないが、困ってる(?)人(??)がいれば助けるのが騎士団の使命だ。言われた通りにそっと持ち上げる。


「イイカ、俺さまハお前を信じてルカラナ!妙なマネハスンジャネェゾ!俺さまを扱う時はガラス細工デモ扱うかノヨウニ優しく扱いヤガレッ!」


「あ、あぁもちろん。それでえっと、君は一体...」


「アー、マダ名乗ってなかったナ。俺さまの名前はラクターってンダ!お前のチッセェノウミソによくヤキツケヤガれ!!」


「いや、名前ももちろんなんだけど。その、なんというか...君は一体なんだい?」


そういうと彼ははっと目を見張り(ボタンの大きさが変わるわけが無い。きっと見間違いだが)、さっきとはうってかわって小声で囁きかけてきた。


「オイ、お前。俺さまがかワカラナイノカ?もしかしてココは...ガラナフじゃネーノカ?」


「ガラナフ...?ガラナフって言ったら、つい最近まで国交を断絶していた国じゃないか。ここはアリガーノンだよ。アリガーノン王国だ」


「アリガーノン...」


しばし沈黙が流れる。考え込むように、口のようなバネがへの字に曲がっている。少しして、彼は真剣なトーンでこう言った。


「ソウカ、ワカッタ。...トリアエズ俺さまを人目のツカナイトコロマデ連れて行け。そうだナ、お前の家ナンカハドウダ?ナルベク急いでクレ。話はソコデスル。頼みタイコトがアルンダ。」


「僕の家...別に構わないけど、しっかり説明はしてくれよ。何か困ってるんだったら力になるからさ。」


「アァ...アリガトウ。ポンコツなりに頑張ってクレヨナ」


そんな口の悪い鍋蓋...もとい、ラクターを背負いカバンの中に入れる。雨がポツポツと降ってきた。急いで家に戻らなくては...。

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