影と闇の術師

@miharuka

第2話

緊急搬送された凪はすぐに手術を受けることになった。その連絡を受け、彰と茜そして恭が病院に駆け付けた。

「どういう意味よ。彰。なんで止めなかったのよ。警備までしていたのに。」

「仕方ないだろう。私だって現場に行き指示したかったがそういうわけにはいかなかった。保のことを他の議員に手出しさせなかったのは凪ちゃんがそう命令したからだ。前々からいっていたから予測はできた。だから意思を尊重した。」

「だからって。そんなことを。もし、凪ちゃんが死んでしまったらどうするの?

こっちだって聞きたいことが山々あるのに。それに薫君や葵ちゃんに申し訳ないじゃない。いや、それ以上のご先祖様に。」

「う。………そうだな。」

 親友のことを思い出させると彰は何も言い返せなくなった。確かに、何もできなかった。

彰のなかでは多くの罪悪感があった。薫が玖條虐殺事件を機に全ての権限を彰に譲り去ってしまったときに止めることができなかった。ずっと支えてくれたことの恩返しができない。もう会うことすらできなくなった。また今回は凪の身の安全すらも守れず、生死を彷徨ってしまう状態にある。

(本当に無力だ。私は。薫だったらもっと的確に後先を予測しながら動いていた。本当に支えられたばかりだ。)

 もう自分を責めることしかできないと思ったとき、恭が口を開いた。

「父さんのせいじゃない。凪にも責任があるよ。ずっと黙っていて自分で解決しようとしていた。だから父さんだけが責められることはないよ。母さん。」

「……そうね。ごめん。彰。」

「いいさ。誰だってこう言いたいだろうから。今は無事を祈るしかない。」

 ようやくお互いに冷静になった。


しばらく、手術室前に三人は黙って終わるのを待った。そのとき手術室のドアが開き、手術を担当した医師が出てきた。茜がすぐに駆け寄り、凪の状態を聞いた。

「大丈夫です。幸いに応急処置が早かったので一命は取り留められました。出血が激しかったですが、何とか凪様が持ちこたえました。あとは傷の完治するまで経過を見てみましょう。」

「よかった。本当に。」

 医師からの言葉を聞くと茜は涙を流した。そんな茜を彰は支え、医師に礼を言った。

後に手術を終えた凪が出てきた。その様子を外からキリが心配そうに眺めていた。

一般の病室に連れてられたとき、恭が窓の外にいるキリに気付いた。

「恭? どうしたの?」

「いや。キリがいる。おいで。」

 窓を開け、キリを呼ぶと少しおどおどしていたが、恭の肩に止まった。しきりに凪の顔を見ては心配そうに鳴いた。

「大丈夫よ。もう安心して。」

 茜もキリを安心させようと撫でると少し安心した。

「キリも連れて帰るか? 意識が戻るのに時間はかかるし、病院側の衛生上もあると思うから。」

「そうね。キリ。一緒に帰りましょ。明日も来るから。」

 凪から離れると、離れるのが嫌なのか大きく鳴いた。そのとき、運よく連れてきていたカゲがキリを慰めたことで何とか連れて帰れた。

                    *

翌朝。朝日が差し込み、凪は目を開けた。

(ここは。病院?かな。 ああ。保の悪掻きで倒れたんだ。)

 おおよその状況をぼんやりだが理解し、体を起こした。傷が痛み傷のところをさすった。

「痛いなあ。」

 しばらくぼんやりしていると、窓からキリが入ってきた。凪が起きているのを見るとすぐにすり寄ってきた。そして心配そうに鳴いた。大丈夫と言うようにキリを優しく撫でた。

あとから手術を担当した医師がやっては、簡単な検査や傷の状態を凪に伝えた。病院の朝食を済ませると何にもすることがなかった。ただ、外を眺めていた。

(これで終ったのかな。これで。)

 悪い癖で何かを警戒していたようだ。大きくため息が出た。

「でっかいため息だな。年とるのが早くなるぞ。」

 硬が凪のリュックを持って入ってきた。キリは硬が来たことに気が付き凪の背中に隠れようとしていた。

「おいおい。またか。キリ。」

「……硬。」

「ん?」

「入るなら、ノックしてから入ってきて。突然硬が入ってきたからキリはびっくりしたのよ。」

「へいへい。すいませんでした。ほい。あ。そうだ。」

 凪がリュックに入っていたものを確認しているとき、硬はベッドの隣にある椅子に座ってはあることを思い出した。

「なんか、今日彰様と茜様や恭様も来るそうだ。」

「え? そうなの?」

 凪が驚くとキリも硬の方を向いた。主人によく似ていると思わせた。

「ああ。なんかその連絡を受けた。代表が行く前に知らせろって。」

「そういうのは早く言ってよ。いつものボケが出てくると本当に困る。」

「なんだよ。それ。」

「この前だって、私の行方を調べるための対策本部ができたときも理由があとから言ってきたじゃん。私が聞くまで。」

「そうだが、仕方ないだろう? 俺がお前の家庭教師だってことが知られたら厄介だろう。」

「それでも、随時連絡はしろって決めたでしょう?」

「……そうだったな。すみませんでした。」

 いつものように話していた。誰から見ても問題なさそうであるが、知っている者から見ると問題がある。

「当主に向かって『お前』はいけないと思うけど。」

 開いたドアから恭が入っては硬に向かって言った。

「恭?」

「ごめんね。ノックはしたけど、応答がなかったから入らせてもらったよ。久しぶり。凪。」

 硬に言った口調とは反対に凪には優しい口調で言った。それに応えるようにうなずくことしかできなかった。あとから彰と花束を抱えて茜も病室に入ってきた。

「やあ。大丈夫かい? 傷は。」

「はい。何とか。まだ痛みますが。」

「そうだろうなあ。」

「あまり無理は禁物よ。」

 二人が凪と話しているなか、恭は硬を睨んでいた。

「ん? どうしたの?恭。先から硬を睨んで。」

「実は病室に入る前に硬と話しているのが聞こえて、硬が凪のことを『お前』って言っていたから。」

「え?」

「なんだって?」

「い。いや。これにはその。」

 恭がさっきのことを伝えると、彰と茜は驚いては硬の方を見た。硬は責められると感じ焦る。

「別に気にしないでください。いつものことなので。」

 凪はかばう気はないが、あっさり伝えた。

「おい。凪。」

「待て。硬。まさか凪ちゃんのことを呼び捨てで呼んでいるのか? さっきのことが本当なら処罰も考えるぞ。」

「………。はあ。」

「処罰まではいいですよ。硬はその分やることをしっかりしてくれていましたから。口は悪いけど、いい捜査員ですよ。」

「でも、凪ちゃんは玖條家の本家筋にある者で今ではもう当主よ。そのような人にこんな対応は許されないから。それなりの処罰は受けないといけない。」

「いいですよ。むしろ当主としての自覚なんてもともとないので、それに唯一話せる奴でしたから。それなりに信頼はしています。」

 本音に近いことを言うと、彰も茜も少しうなった。逆に硬は救われたように感じた。

しかし、二人はどうしても納得ができず、その場で硬を説教した。

その様子を恭と凪は顔を見合わせると、なぜか可笑しくなり小さく笑い合った。

「あら? あんなに笑う恭を見たのはいつ振りかしら。」

 茜が硬を彰と説教しているとき、恭が笑っているのに気づいた。恭が家族以外の人と笑い合うことなどいままでなかった。彰もそれを見てうなずいた。

「そうだな。」

「あ。すいません。笑ってしまって。」

「いいのよ。こっちからの紹介が遅れてごめんね。私は。」

「……陰城 茜様。ですか?」

 茜が言う前に凪は言った。

「そうよ。どうしてわかったの?」

「いや。母さんがよく言っていた特徴が似ていたので、そうかなって。よく昔の話をしてくれたのでなんとなく。」

「そう。うれしいわ。じゃあ、あっちの人は分かる?」

「あっちとは失礼だな。」

「…彰総帥ですよね?」

「そうだよ。ここでは彰でいいよ。本当に申し訳ない。本当に無力でこんなことになって。薫…君のお父さんに顔向けできんな。」

 彰は深く腰を曲げ、謝罪した。

「そんなことはないですよ。父と母が何より恐れていたのはあなた達の日常を大きく変えないことが望みだったのですから。それが私が継いだ遺志でした。」

 そう言い綺麗に笑った。彰と茜は凪を見て、一瞬葵が生き返ったかと思った。あまりにも葵にそっくりだった。しかし、性格が薫に似ている。二人にはどうしても今亡き薫と葵に見えてしまう。それほど二人には大きい存在であった。

「そうか。でも。少しは頼ることも大事だよ。無理はいけない。」

 彰がいままで思っていたことを優しく言った。それに対して凪は返事をどう返せばいいか迷っている顔で視線を変えたが、恥ずかしそうに答えた。

「あまり心地ありませんが、そうさせていただきます。」

「もう、こっちがいいというまで頼ってくれないと困るわ。凪ちゃんのお祖父様より以上の人たちからの恩とか借りがありすぎて返したいとこっちが思っているぐらいなのよ。実際に私と彰のお父様もあなたのことを思って亡くなっていったぐらいなんだか。」

「そうなのですか。」

「お祖父さまがそんなことを思っていたの?」

「ああ、全く薫には助けられてばかりだったよ。だから、もうこっちに任せっきりでも構わないからどんどん言ってくれ。これからは陰城が中心に玖條家を支えるから。」

 彰が凪の手を握ると強く言った。

茜も同意するかのようにうなずき、微笑んだ。恭も同じ気持ちだった。それを感じると凪は涙を流し、小さく言った。

「ありがとうございます。」

 もしかしたら、ずっとこうしてほしかったかもしれないと思った。生まれてから頼れるはずの両親を失い、常に周りに頼れない状況に慣れてしまったか、全てを一人でこなすことがもう当たり前になっていた。しかし、今になって頼っていいんだと感じた。

抱えていた重いものがなくなった。

                   *

彰たちが帰ったあとの夜。目が覚めて傷が痛まないようにゆっくりベッドから降りて、窓を開けた。いつか見ただろうか。綺麗な月が暗い病室を照らしていた。

月を見ながら、凪は小さい時のことを思い出していた。まだ、葵が生きていたときである。

 ある夜に目が覚め、リビングにいくと葵が悲しそうな目で月を見ていた。

「お母さん。」

「ん? 目が覚めたの?」

「うん。…大丈夫? どこか痛いの?」

 葵が泣いているのに気づいたのかそう聞いた。凪が聞くと葵は首を振り綺麗に笑った。

「大丈夫よ。思い出していたの。お父さんのことをね。」

「お父さん?」

「ええ、凪が生まれる前によくしていたの。薫ったら夜遅くに帰ってきたときによく膝枕をしたの。本当。こんな時間だったと思う。…ん?どうしたの? 凪。」

 葵が話していくにつれて泣きそうな顔になっていくことに気付き、葵に抱きついたのだ。

「凪がいるよ。泣かないで。」

「凪……。ごめんね。ありがとう。大丈夫よ。」

「本当?」

「ええ。凪がいなかったら大泣きしていたかも。ふふ。こんなにいい娘を持てて本当にうれしいわ。それにとっても可愛いしね。」

 葵が凪の頬をつつきながら笑った。そして凪の寝室に送っていき、寝付かせていたとき凪は薫のことを聞いた。

「ねえ、母さん。お父さんに会いたい?」

「……そうね。」

 いつも父の話をすると泣きそうな顔になり、涙を必死に隠していることがあった。

「とても会いたいわ。ただ、そばにいてくれるだけでいい。いつもそばにいたから。」

 そう言いながら、凪の綺麗な栗色の髪を撫でながら言った。安心したのか凪は寝息を立てて眠った。

「凪にもそういう人と巡り合えるといいわね。」

 この言葉を凪が聞くことはなかった。しかし、葵が望んでいたことはこれだった。

                      *

 凪の傷が回復するまで、学園への編入が延期されたことで学園の生徒。主に術師関係の生徒の間では大きな話題となっている。

「聞いた? 凪様のこと。」

「うん。お父様から。結構傷が深いそうよ。戦闘のあとにすぐに意識を無くしたそうよ。」

「回復には時間かかるかな。」

「さあな。総帥直々にお見舞いに言ったらしいぜ。」

「マジで。まあ当たり前か。著名階級同士だし。」

「でもさ。保の奴が消えてくれて凪様も安心じゃね?」

「だな。」

「早く、通えないかしら。会って話したいわ。」

「本当に。もう当主よね? お父上様が亡くなっているから。」

「そうね。もう私たちより大人のように感じるわ。」

「でも。年齢としては少し下よ。仲良くなれるかも。」

「ああ、もう早く通えないかしら。」

 こんな話がここ数日続いている。一人だけは関係なさそうに外を誰かと同じように眺めている恭は話のなかに交わらずにいた。

話しに入ることすらもせず、本人のなかでは凪に会いたいとしか考えていない。

授業が終わると、一人で何か急いでいるように帰宅した。その日は凪の見舞いに行く日であったから。

(早く。凪と過ごしたいなあ。)

 実は凪の退院後、陰城家で生活することが決まったのだ。

本当は凪と議員の代表との話し合いで保の始末が終わった後は玖條家の屋敷の修復が終わっているため、今後屋敷で生活することを決定していた。しかし、未成年であることから保護者がいなければならない。そのため成人するまでは陰城家の下で生活することが変更され、改めて決定された。当の本人は少し納得していない様子での合意であったようだ。

                        *

「はあー。退屈ね。」

 書物のページをめくりながら、ため息がこぼれた。大体の勉強も終えている分、掟も全ての意味や内容を暗記し、理解している。そのため、何にもすることがない。

退屈で仕方なかった。

(あ。でももうすぐ。恭が来る。髪の毛はねていないかな。)

 時計を見ては急いでサイドテーブルの引き出しから、櫛と手鏡を出して髪の毛がはねていないかを確かめ、櫛で梳きなおした。

「よし。大丈夫。」

 そういい、引き出しに仕舞った。膝に乗っていたキリが凪の顔が赤くなっていたのに気づいていた。しかし、その理由を知らない。

 ノックが聞こえたとき、凪は深呼吸をして返事をした。入ってきたのは恭と茜だった。

彰は公務の関係で来られなかったそうだ。

「傷はもう痛くない?」

「はい。もう抜糸をして退院をしても問題はないと担当医から聞きました。」

「そう。うれしいわ。」

「あとどれくらいで退院ができるかな?」

「さあ。最低でも二、三日は置かないといけないって。」

「そう。」

 恭が肩を落としたのを茜は気付いた。

「落ち込まないの。恭。退院するのに変わりはないのだから。」

「そうだよ。今回は本当にありがとうございます。」

「いいのよ。一人で過ごすよりもこっちは増えた方がうれしいわ。恭も実際に喜んでいるもの。」

「そうなの? 恭。」

「い、いや。うん。まあね。」

 照れながら答えると凪もうれしいのか笑った。そんな二人を茜は見ては少し安心した表情だった。飲み物を飲みながら、退院の日を楽しみにした。

「そういえば、凪ちゃん。服はあるの?」

「え? あ。そういえば、あまりなかったなあ。残っているのはパーカーとジーパンぐらいしか。」

「そう。あまり服を養親から買ってくれなかったの?」

「まあ。たった数週間しか過ごせなかったし、施設から支給されるおこずかいも限られてくるし。服もだいたいあればいいやと思えてきて、慣れてしまいましたから。それに小さい時も母から買ってもらうことなんてあまりなかったです。」

「保のことを気にしたのかな? 葵さん。」

「多分。母さん。結構器用だったから、服とかを作ってくれたのを着ていた。不自由なんて感じたことはなかった。」

「へー。」

「確かに、葵ちゃん。裁縫はもうプロと言っていいほど上手かった。流石だわ。

ちょっと、見てもいいかしら?」

「はい。そこのボストンバックに入っています。結構男の子っぽいですけど。」

 茜がロッカーからボストンバックを取り出し、中を見た。

「あら。本当に男の子の服ね。シンプルなのはいいけど。今度。服を買てくるわ。ランダムで。凪ちゃんは結構美人さんだから私のチョイスだけど。いいかしら?」

「はあ。いいのですか?」

「もちろん。やっと術師社会に戻ってくるのだから。可愛くしないと女の子だしね。

恭もそう思うでしょ?」

「なんで、僕に振るの?」

「だって、凪ちゃんのこととても話していたじゃない。」

「え?」

「いや。話さないでよ。凪がいるじゃん。」

 恭は赤面になりながら、茜にいった。それをからかうかのようにまた言ってきた。そのやり取りを見ていた。

「仲がいいのですね。恭と茜様。」

「いや、そんなんじゃないよ。」

「そう見えたかしら。」

「ええ。私はあまり母とじゃれ合うなんてなかったので。」

「そう。葵ちゃんはそんなことしないと思うけど、私は楽しいけどね。」

「あはは。」

「母さん。」

 恭がまた反発するように言い返した。そんなやり取りを見て葵が生きていたときはどうだったかを思い出しては羨ましく思った。

 見舞いに来た日に担当医から退院日が決まった。

退院当日。凪は部屋の鏡でいつもと違う自分に戸惑っていた。なぜかというと、この日の服は茜が用意した服であったから。よく見ると靴や靴下までブランド品であった。

(最近の流行なのかな。しかし、茜様がこんなに流行に敏感とは……やはり著名階級であるからか。)

 何度も服装の組み合わせがおかしくないかを確認した。一方でキリはいつもと違う凪に戸惑っては中々肩に止まれず、周りを飛び回っていた。

「凪ちゃん。準備できたかしら?」

「あ。はい。」

 退院の手続きを終えた茜が来た。凪は赤面になりながら返事した。

「あら。その組み合わせいいわね。」

 凪の服装の組み合わせを見ては嬉しそうに言い、ほめた。これにまた凪は赤面した。

その顔が可愛いのか茜はクスと笑った。やっとキリが落ち着いたのか肩に止まった。

「やっと止まれたね。キリ。」

 キリを撫でながら言った。

「へ? 止まれなかったの?キリ。」

「ええ。いつもと違う服でしたので。キリも戸惑ったのでしょう。ね。」

 キリに聞くように撫でると、答えるかのように鳴いた。

「それはそうね。凪ちゃんはずっとどういう感じの服装だったの?」

「いつもはジーパンにパーカーとかトレーナーですね。スカートなんて母が生きていたときぐらいしか着ていなかったです。久しぶりです。」

「そうなの。ふふ。落ち着いたら一緒に買い物に行きましょ。うちはあまり女の子がいないから私としては嬉しいわ。」

「そうですか。」

 茜は嬉しそうに言うが、凪はよくわからない。

「茜様。お車の用意ができました。」

「わかったわ。行きましょう。凪ちゃん。」

「はい。」

 元気に答え、病院の玄関に止まっていた高級車に乗り込み陰城の屋敷に向かった。

「そうそう。少し急だけど、月曜日から学園に編入という形で通うことになったからね。

恭と同じ教室よ。」

「そうですか。しかし、私と恭は年が三つほど離れていますが。」

「ああ。実は学園は術師関係の生徒と一般の生徒が通っていて、術師関係の学年は基本的に決まっていないのよ。分かりやすく言うと階級によってクラスが分けられているの。」

「そうなのですか。母からの話でしか聞いたことがなかったので。」

「でしょうね。そうそう。この前写真を撮ったでしょう? あれを学園長に一昨日だったかしら。恭の迎えとついでに見せに行ったのよ。そしたら一日だけ貸したら他の一家の夫妻たちが学園に押し込んできては写真を見に来たらしいのよ。生徒まで。」

「え? 嘘ですよね。」

 凪が驚き、信じられないような顔をした。しかし、茜は首を振ってはため息を吐いた。

「本当なのよ。実際に学園長が凪ちゃんを見て葵ちゃんだって言っていた。何度も。」

「? よく貴方と彰様は父と母に似ていると言っていますが、本当に似ていますか?」

 凪は茜に聞いた。よく両親に似ていると言われるが、葵はおぼろげにしか覚えておらず

反対に薫は会ったことがないため、自覚が持てなかったのだ。写真も多くは残っていない。

そのため言われたとしても少し複雑であった。

「うちにも多くはないけど写真が残っているから見せるわ。本当に似ているわよ。特に髪の綺麗さは葵ちゃんだし、顔立ちは薫君似よ。一瞬凪ちゃんを見たときに葵ちゃんかと思ったぐらいだもの。」

「……母もよくそのことを言っていたような。」

「でしょ。これは本当にいい意味で。貴女の両親と私と彰は小さいころから一緒に育ってきた仲だから。よく覚えているの。本当に素晴らしい二人だったわ。本当ならこの術師社会を統べるのは陰城ではなく、玖條家が統べる方がいいはず。」

「それは言い過ぎではないでしょうか。」

 凪は普通に口に出す茜に言った。長きに亘って術師社会を統べてきてもなお君臨している家の者が他の一家が統べた方がいいということがおかしかった。

「言い過ぎではないわ。もう先代やそれ以上の当主もそう思っている。貴方の一家には本当に助けられた。陰城が犯してしまったミスを何も悪くない玖條家が代償を負ったこともあったのよ。あとからそれもしっかり発表したわ。だから陰城も見習うことがもう多いの。

だから、凪ちゃんはもっと一家のことを誇っていいのよ。それがないことがいいことだけどね。」

 茜が凪に言い聞かせるかのように笑顔で言った。

葵から聞いたことはほんの一部であり、あとはもっと昔のことは玖條が一族として成立した時から嘘のことはない本当の真実をまとめた叙述録を読んで知った。それは本家筋の者でなくても持つことを許されるが、今は凪が全てを持っている。これを持っていることは陰城や議院は知っているが特に規制はない。そこから多くの過去に起こったことを細かく記しているためどういうことが原因だったかも載っている。それを文字が読めたころから凪は読んでいた。だからそこまで誇れるものではないと思っていた。そこから明らかになるものは全てが誇れるものばかりではないことを知っているから。

「奥様。もうすぐ到着します。」

運転手が茜に言った。見るともう城のような屋敷が目の前にあった。車から降りると出迎えたのはこの屋敷を仕切る執事が数名出てきた。凪の私物が入っているリュックとボストンバックを預け、屋敷に入った。

「お茶の支度をするから居間で待っていて。」

「わかりました。」

玄関と呼んでいいのか広場で茜と別れ、居間に入った。居間には多くの調度品が堂々と置かれていた。暖炉や棚には多くの写真が飾られていた。茜が戻ってくるまで写真を一つ一つ見ていた。その中に古い写真に目が止まった。それは若きころの彰と茜であることは分かったが、あとの二人を知っているように感じた。他の写真のように額縁に入って飾られているが、それだけは見やすいように真ん中に飾られていた。

(右側にいる女性が母さんだ。変わっていないなあ。ということは後ろにいるのは。)

 写真をまじまじ見ていたとき、今日の公務を終えて帰宅してきた彰が入ってきた。

「ああ、もう退院したのか。凪ちゃん。」

「あ。はい。彰様も公務お疲れ様です。」

 つい茜かと思ったが、彰だった。

「この写真を見ていたのかい?」

「あ…はい。あの右側にいる二人は……。」

「薫と葵さんだよ。」

 彰は写真を手に取り、懐かしそうな目で見た。そんな彰を見て思った。毎日見ているかのようにどの写真よりも綺麗にしていた。他は少しほこりが被っていたり、かびがついている写真もあった。しかし、この写真はどれよりも綺麗にしていた。

「よく見ているのですか?」

「ああ。薫と葵さん……生まれたばかりの君が去ってしまったときから一日も欠かさず見ているよ。かびが付かないようにしているし、使用人にもこれだけは綺麗にするように言っている。そういえば、薫の顔を見たことはないだろう?」

「はい。母だということは何となくわかりましたが、父は失礼と思いますが分かりませんでした。」

「ははは。いいさ。薫もそうだと思うよ。葵さんから薫の死亡した手紙が来たときは確か。」

「私が一歳のときです。」

「だろ?だから今生き返ったとしても分からないだろうな。」

「くす。そうですね。お互い様ですね。」

「そうそう。」

 彰が笑うと、凪もつられて笑ってしまった。そのとき学園帰りの恭とお茶とお菓子を持ってきた茜が居間に入ってきた。

「あらあら。結構盛り上がっていたの?彰。」

「ああ、流石だよ。凪ちゃんは。これに目が止まっていたからね。葵さんは分かったようだが、薫はね。」

「仕方ないわよ。笑うんじゃないの。ねえ。」

「そうですね。」

「ああ。この写真?」

 恭は彰が持っていた写真を見た。写真と凪を見返した。

「何? 恭。」

「いや。よく母さんと父さんが似ているって言っていたけど。葵さんに似ているのは分かる。」

「そうかな。髪の色だけでしょ?」

「私は瞳も似ていると思うわ。」

 茜も写真と凪を見合わせて言った。

「でも。似ているところはあるけれど、凪は凪だよ。」

 恭が言うと、二人もなぜか納得した。凪はその言葉が嬉しいのか笑った。

写真をもとの位置に戻し、お茶を飲んだ。

「そういえば、月曜日からだっけ? 凪ちゃんも通うのは。」

「はい。少し不安ですが。」

「大丈夫よ。多分。………ね。」

 茜が彰を見て言った。何を伝えようとしたのか、恭と凪は分からない。しかし、意味を理解したのか。頷いた。

「そうだな。多分。………なるかもな。あの日と同じように。」

「本当に恭が彰に似てなくてよかったわ。」

「おいおい。どういう意味かい?」

「そのままよ。」

 茜が何かを自慢するように言った。それを見た後彰も負けじと言い返した。

「おまえこそ昔はだめだったくせに大きい口をたたくな。凪ちゃんも葵さんいや薫似だからしっかりしているから問題ないだろう。」

「な、なによ。あんたこそ薫君に迷惑ばっかり掛けていたくせに。」

二人は恭と凪がいることすらも忘れたかのように言い合いを始めた。恭はもう見慣れているため、紅茶を飲んではお菓子を食べた。反対に凪は気まずそうに二人を見た。

「気にしないで。いつものことだから。」

「そうなの?」

「うん。いつも何気ないことをどちらかが言って引かなくなってケンカになる。悪いときは一時間以上もしているよ。」

「止めないの? 恭。」

「止めても、やめないもん。逆に疲れるからほっておく。」

「へー。」

「葵さんから聞かなかった?」

「うーん。なんか聞いたような気がする。」

 凪が言うと、言い合っていた二人が凪のほうを向いた。

「ねえ。凪ちゃん。葵ちゃんから彰の失敗を聞かなかった?」

「え?えーと。」

「なんで、凪ちゃんに振るんだ。困っているだろ?」

「あまり覚えていません。」

 あまりにも威圧があり、答えられなかった。それが正解だったかもしれない。また言い合いが起こった。あまりにも続くため、恭はカップを置いて凪を誘った。

「凪。行こう。」

「え? でも。」

「ここにいたら、時間の無駄になるから。」

「うん。」

 恭に誘われるままに居間を出た。そんなことに気付かず二人は言い合いをした。

広い廊下を歩き、ある部屋に向かった。

「恭。どこに向かっているの?」

「凪の部屋。そこにもうキリを移動させているんだ。」

「そうなんだ。なんか悪いなあ。何から何までしてもらって。」

「僕はもう当たり前になっているけど、凪はそうじゃなかったからね。時期になれると思うよ。」

「だといいな。」

 凪が言うと、恭は小さく笑った。そしてある部屋に着いた。そこは前から改装していた部屋であり、凪の部屋になる。

「ここが凪の部屋だよ。」

 ドアを開け、中に入れた。入った瞬間、固まった。一人で使うにはあまりにも広さがありアンティークな棚や机、ソファー。一人が寝るには大きいと思うベッド。それらがあることが驚きで何も言えなかった。

「凪? 固まっているよ。」

「あ。いや。ここまでとは思えなかった。流石は著名階級ね。」

「言うけど、凪もだよ。」

「……そうじゃなくて。規模がすごいこと。施設に行くまで過ごした家とは全然規模が違いすぎる。」

「でも少し、狭いけど。」

「狭い? これで?あり得ないよ。恭。もう広すぎるって。」

 部屋の片隅にいたキリが凪の肩に止まった。

「キリ。いい子にしていた?」

 凪が撫でると、朝から会えなかった分までかすり寄ってきた。次になぜかカゲも飛んでき

ては恭の肩に止まると思いきや、凪の肩に止まった。

「カゲ……。凪になついたね。初めてのことだ。」

「そうなの?」

「僕以外の人だと、なつくどころか避けるのが大半だよ。」

「それは多分、恭が他人を警戒しているからじゃない?」

 そういうと、恭は驚いた。凪から言われてから思った。確かに五年前の火事から家族以外の人間を警戒していた。たとえ同じ年の者でも気を許すことはなかった。しかし、凪には本当の自分を出していた。なぜか自然と出していた。凪とは現在認められている著名階級の家の者であり、陰城と同じぐらいの歴史を持っている一族の者であることからなのか無意識に信頼していた。

「そうかもね。凪が同じ著名階級であることもあるけれど、なんか隣にいると落ち着くよ。」

 恭が笑顔で言うと、凪も同じように笑った。

その後、二人はソファーに腰かけて時間を忘れたかのように話した。この時間がとても心が落ち着いて、何かに気にすることがなかった。そのため、いろいろ話せられた。

 その様子を隠れて、彰と茜がのぞいていた。言い合いはどうやら収まったようだ。

                     *

 朝日が差し込む部屋で凪は等身大が移る鏡で服に乱れがないかを何回も確認していた。

この日に着ていたのは学園の制服であった。今日から学園に通うのだ。朝から緊張していた。

カバンには筆記用具や教科書を前日に入れておいたので問題ないが、制服や髪に乱れを気にしてしまう。最後の確認をしているときにノックが聞こえた。

「はい。」

「僕だけど。大丈夫? 行ける?」

「うん。」

 凪は机に置いていたカバンを持って、部屋を出た。ドアの外には制服を着た恭がいた。

「ごめんね。待った?」

「いいや。僕の方が浮かれていたかも。凪はどう?」

「! どうって言われても。緊張しているよ。学園に通うなんて考えたことがなかったから。」

 顔を赤くさせながら言った。それがとてもかわいらしく見えた。何より、制服姿の凪に見惚れていた。

「……恭。何か?」

「いや。制服を着た凪も可愛いと思った。」

「同じように着ているのでしょ? 学園の娘たちも。」

「だけど、凪が似合っている。」

「感じ悪いなあ。」

「あはははは。そうかも。」

「くす。」

 恭に嫌みを言ったにもかかわらず、笑いにつられてしまった。話しながら玄関に向かっていたとき、茜が二つの色違いの弁当箱を持ってきた。

「もう行くの?」

「うん。そうだよ。」

「よかった。間に合って。はい。お弁当。桜色は凪ちゃんのね。」

「ありがとうございます。」

「いいのよ。もともと料理は得意なのよ。口に合えばいいけど。」

「大丈夫ですよ。茜様の料理はおいしいのでうれしいです。」

 茜から弁当を受け取り、カバンに仕舞った。

「じゃあ。行ってきます。」

「ええ。気を付けるのよ。」

「はい。」

 茜は正門から二人が見えなくなるまで見送った。

「恭はいつも歩きで学園に行っているの?」

「うん。たまに車だけど。歩いた方がなんかいいから。」

「ふーん。」

「クラスのことは聞いた?」

「うん。茜様から。同じだったよね。」

「そうそう。大体階級によって分けられているからね。授業としてはそんなに難しくないよ。高校までの範囲をしているけど、僕は終わっているから。退屈かな。凪はどこまで終わっている?」

「私も高校までの範囲は終えている。硬から教えてもらった。小学校に転校のときは本当に気が乗らなかった。」

「だろうね。どういう感じかは分からないけど。気が向かないのは分かる。」

 そう話しながら、学園に入って行った。教室に入るとまだ人は来ていなかった。凪は編入生のため職員室に行き、担任と始めの授業のとき入ることになっていた。

恭はいつもの席に座っては持ってきた本を読んでいた。周りはいつになく騒がしい。

「今日からだよね? 凪様が来るのは。」

「そうよ。どんな感じの娘かしら。楽しみね。」

「絶対に美人だって。俺の両親が写真に写っていた凪様を見たっていうのだから。」

「マジか。うわー早く見てみたいわ。」

 生徒の話題としては凪のことで盛り上がっていた。ようやく一時間目の授業が始まるチャイムが鳴った。入ってきた先生のあとに凪が入ってきた。

「はい。静かに。今日から学園に編入することになった玖條 凪様です。もうみなさんは知っていると思いますが、凪様は保の件で術師社会から離れて生活をされていました。

ようやくこの術師社会に帰還されました。仲良くするように。では挨拶をどうぞ。」

「はい。玖條 凪です。先代である父と母が亡くなってから玖條家の当主の座を受け継ぎました。まだ、未熟なところがありますがよろしくお願いします。」

 簡単に挨拶を済ませた。後に席の指定はなかったため、恭の隣に座った。

授業の合間の休憩時間に多くの生徒が凪のところに集まった。

「初めまして。凪様。私上級階級の高崎 里奈です。父から話を聞いて本当にお会いすることを楽しみしていたの。本当に薫様や透様には一家でお世話になりましたから。仲良くしましょうね。」

「はい。こちらこそ。」

「ちょっと里奈。抜け駆けで挨拶なんて早い。私も。東田 美乃利っていうの。里奈と同じ上級階級です。この階級になれたのも玖條家のおかげだって父から何回も聞いているの。よろしく。」

 このように各一家の令嬢からの挨拶が相次いで来た。しかし、挨拶の中には必ずあるのは玖條家のおかげという言葉があった。それなのか階級関係なしに凪に声がかかってきた。

話しをするたびに叙述録に書いてあったことを話していることがあったため、その分安心していた。これまで自分がしてきたことが正しいことをしていたのかが分からなかった。

 しかし、玖條家が行ってきたことは大きく術師社会に貢献していたことを何より実感した。

気付けば、もう昼休みであった。多くの生徒は食堂で昼食を食べたり、持ってきた弁当を教室などで食べていたりしていた。

昼休みに入ってから、恭は用事があるためすぐに教室を出た。凪も今朝お昼用に持たされた弁当を持って教室を出た。中庭にはすでに多くの生徒がおり、しばらく歩き回ってはやっと座れる場所を見つけて座れた。弁当を広げると色とりどりのおかずが綺麗に入っていた。全て手作りのようだ。茜が料理好きであることは知っていた。

「すごい。」

 それしか言えなかった。しかし、うれしい気持ちが大きい。凪が一般の学校に通っていたときに遠足などで他の子供が母親の手作り弁当を広げている様子を見て羨ましかったのと、

悲しい気持ちがあった。葵が生きていたらどうだったのかと考えてしまう。葵と暮らしていたときも毎日のように作ってくれた料理がとても凪にとってはご馳走と思っていた。

昔のことを思い出しながら弁当を食べていたとき、キリが凪の肩に止まった。

「キリ。おなかすいたの?」

 箸をおいて、キリを撫でると気持ちよさそうに鳴いた。この学園では術師関係の生徒だけ特別に各自の使いである梟や犬を連れてきてもいいことになっている。後は自己責任である。育ち盛りなのかキリはしきりに凪におかずをねだった。弁当を食べ終わると、時間までのんびりしようとしていたときに凪を探していたのか、三人の生徒が来た。

「玖條さん。ここにいたの。もうお昼は食べた?」

「ええ。もう食べました。」

 凪が返答すると、キリは凪の長い髪の中に隠れようとしていた。

「キリ。後ろに回るのはやめて。」

「キリっていうの? 玖條さんの梟。」

「はい。この子は少し人見知りでよく隠れたがるのです。なれるとそんなに隠れることはないのですが。」

 ようやくキリが周りに慣れたのか、隠れることをやめて大人しくなった。

「綺麗ね。羽がまだ雛よね?私のより可愛い。」

「思った。もう手入れとかしている?」

「いや。まだ嫌がってしたがらないのです。」

 そういうと、キリが何をと言うように鳴いた。羽についている玉を取るといやそうに鳴いた。

「そのうちになれると思うよ。私の梟だってそうだったし。それよりさ。気になっていたんだけど。髪の色綺麗よね?」

「私もそう思った。本当に綺麗。本当の意味でね。」

「そうですか? 母と同じでしたから少しうれしいです。」

「葵様と? それいいな。葵様は本当にお母様も言っていたんだけど本当に学生のときから勉強も礼儀もしっかりしていた。凪さんもそうだね。この前のテストは全部平均大きく超えていたみたい。」

「えー? 嘘。私はボロボロだったからお父様に怒られたわ。」

「私も。」

「編入時のテストですよね? あれあまり解けていなかったので不安でしたけど。」

「「「えー―?」」」

 凪が言うと三人は驚いた。

「ちょっと待って。あれは恭様以外の皆補習決定だったのよ。どんな教育だったの?」

「? 普通に家庭教師から教わっていましたが。」

「………さすがは著名階級の一家の娘だわ。親に似るのね。」

 三人は絶句した。その様子を見ても何がすごいのかを当の本人は理解していなかった。

「そんなに特別な教育はされませんでしたよ。ただ一族の歴史とかを教え込まれただけであとは一般の教育と家庭教師からの指導で十分賄っていましたから。」

「そうなの? ああ。ちゃんとしておけばよかった。」

「私たちより、玖條さんのほうが立派ね。もう当主だし。」

「うんうん。」

「まだそんなにわきまえなくても大丈夫ですよ。私自身、保護されている身なので恨まれてもおかしくないかと思うのです。」

 そういうと、三人は首を傾げた。

「どうして? 保護されるのは当たり前でしょ?」

「そうよね。だって私たちの親も玖條家の事件のとき何もできなかったもの。私たちの一家だけじゃないと思うけど、多くの一家がそう思っていたはず。ねえ。」

「うんうん。だからもっと頼っていいと思うけど。」

その言葉を聞くのはせいぜい茜や彰ぐらいと思っていたが、そうではないことを改めて感じた。これまで抱えてきたものを数えると多かったと思うが、周りが頼ってくれと言う声を聞くのは初めてのことであっていいのかと思った。してはならないことを凪は葵から聞いていた。それなのか、頼ることはどういうことなのかを知ることがなかった。

この三人以外にも多くの生徒の口から同じような言葉を聞いた。初日から不安でいっぱいであったが、歓迎されていることを感じ安心した。

その日の帰り道。朝と同じように恭と歩いていた。

「どうだった? 初めての学園は。」

「まあ。想像以上だった。あまり歓迎されないと思っていたから少し驚いた。」

「そっか。でも誰も玖條家を嫌う人はいないと思うよ。第一、玖條家は著名階級になる前から術師社会に大きく貢献してきているから文句なしだよ。」

「それはいろいろ聞いたことがある。母さんからも聞いた。今ではもう当たり前になっているから気にならなかったけど。」

「でも、僕でも思うけど。凪は偉いよ。」

「え?」

 思いもよらない言葉に凪は驚き、恭を見た。言った本人は頬を赤くしていた。

「い、いや。凪は自慢しようとしないことや目立とうとしないから。その尊敬するんだ。」

「……そうかな。私はもう当たり前になっているから。私も恭のことを尊敬するよ。」

「え? どこが。僕は何もないよ。」

「硬から聞いたけど、なんか火事に遭ったて聞いたから。それでも向き合うことができるなんてすごいよ。私だったらくじけていると思う。」

 そう笑って恭に言った。それには今までの自分を重ねていたが、二人は少しずつ距離を縮めていた。互いのつらいことや喜びをなぜか共有したいと思ってしまう。気づいたら誰にも負けない絆ができていた。

 その日からの休日は各一家に凪が訪問し、当主夫妻に挨拶と今後の関係を話した。

訪問には特につらいことはなかったが、多くの一家が我先にと言うように申し込んでくるため訪問に行くには保護者である陰城家から許可を取ってからではないといけないことになった。

この日は訪問を入れずに、屋敷でのんびりしていた。部屋で持ってきた古い書物を広げ読んでいた。

「凪ちゃん。お茶を入れたから、降りてきて。」

「わかりました。」

 茜はよく何もないときはお茶を入れている。このときに恭や彰を呼んで話をするのだ。これは茜のこだわりである。家族としてのつながりを何より大事にしていることが分かる。

「今日はゆっくり休めるなあ。訪問ばかりだと疲れるだろう?」

「まあ。いろいろ話を聞けて楽しいです。」

「でも大半は一家の自慢話よ。まあ。私が付き添っているからそんなに話せないわね。」

「そうかも。凪だけだったら。思った以上に時間がかかっているかも。」

「うーん。どうかな。」

「まあ。心配はないよ。そんなに気を張らなくても。誰も玖條家を蹴落とそうなんて考えている者がいたら、すぐに否定されるし立場がすぐに悪くなる。これは本当にあったことだよ。」

「そうなのですか。」

「ええ。もともと玖條家の人は皆賢いし、周りとの共存を考えていたから。玖條家がいなかったら一般社会に押されて生きていくことになっていたかもしれないわ。」

「ああ。本当に当家の先代たちにはない考えを多く持っていてそれを自分たちが言えば大きな功績を得られるのにしなかったこともあった。本当に見習うことが多いよ。」

 彰がそういうと凪を見て言った。同じように茜も頷いた。二人の顔には凪に対して尊敬のように感じた。しかし、凪は未熟者であるに対しても二人は玖條家であることに大きな恩や借りを抱えていることは生活することで分かってきたが、逆に安堵していた。凪も抱えているものがある。それをまだ誰にも告げられていないことを苦しんでいた。

(何も気づかないでほしい。もう決まっているのだから。我が一族がどう終えるのかを知っているのは、私だけ。……これでいいのよね?母さん。)

 振れていないと思っていた意思がなぜか揺れていた。これだけは変えられないことを知っていた。そんな凪の苦悩を誰も知らない。彰たちはもう凪を苦しめるものはないと思っていた。それがあることを誰も知る由もなかった。

 何もない穏やかな日常が続き、凪も学園に慣れたころ。学園では昔見たような光景があった。恭と凪が歩くだけで多くの術師関係の生徒は振り向きはしゃぐことがある。茜はそれが懐かしくて仕方ない。各一家も玖條家の再興に力を入れ始めた。玖條家の地位は日に日に増していく。学園のほうには凪と会話したいがために来る当主夫妻の姿もあった。

                    *

 ちょうど凪が術師社会に戻ってきて一年が経とうとしていたとき、突如ある噂が術師社会に流れた。

『玖條家は闇の使い手として、陰城を滅ぼして、いずれ術師社会を支配する。』

噂の真偽をおいて、その勢いは止まることを知らずたった数日で上級階級の耳にも届いた。議会の議員たちにもその噂に惑わされたかのように意見の対立が起こっていた。

噂が流れたその日から、凪の立場も悪くなった。これまで仲良くしていた生徒とも関わることをしなくなった。いや、周りが凪を遠ざけている。もう噂をみんな信じ込んでいた。

恭が話しかけようとすると、他の上級階級の生徒が恭を凪から引き離した。凪は何も抵抗をしなかった。玖條家の再興に力を入れていた一家も凪を非難するようになり、味方はもう陰城家と家庭教師であった硬だけになった。茜は凪を励ますが、その声は届いていない。

学園に通うこともつらくなったのか、休むようになり学園に行くこともなくなった。

無断で休むことも当たり前になったが、茜は無理に通わせることをしなかった。それよりも凪にとって苦痛であることを感じていた。ただ何もできないことが悔しかった。それは彰もそうだった。議会では大半の議員が噂を真実と思っている者が多く、彰の口でも収まらなかった。最近では玖條家の屋敷にはいやがらせが増えた。修復が終わった屋敷の窓に石が投げられることも当たり前になった。

 学園に通うことをしなくなった凪は日中の間は陰城の屋敷にとどまることをやめて、玖條の屋敷で過ごしていた。

「凪ちゃん。」

「はい。なんでしょう?」

 この日も彰と恭が出かけたのを図って部屋から出ようとした凪に話しかけた。

「今日も行くの?」

「ええ。ここにいては陰城家にもいやがらせが来るでしょうから。夜には戻ります。」

「あ……。」

 用件だけを言うとすぐに、外に出た。時々傷を負って帰ってくることもあった。本人は転んだと言っているが、茜は嘘だということは分かっていた。しかし、それを黙って手当てするのがつらかった。凪が玖條の屋敷で何をしているのかを誰も知らない。分かることは、部屋にあった多くの叙述録の書物がないこと。

この日も茜はため息を吐く。そして自室にも飾っている葵と撮った写真を見ては泣いた。

「ごめんね。葵ちゃん。」

 そう葵に謝る日々であった。

 

玖條の屋敷に着いた凪はいつも使っている部屋に当たり前のように入った。学園に通わずにここにいるのは恭たちにも危害を及ばないようにしていた。

その部屋には置きっぱなしにしている叙述録があった。ランタンの中からろうそくを出し明かりを灯した。その明かりだけを頼りに叙述録を読んだ。もう何回も読んでいた、一文字一文字を確かめるように読んだ。嘘のことは書いていないとしても何か間違いがあったのではないかと思って読んでいた。もう玖條家の血を引いているのは凪一人だけであるため、これしか証拠はない。しかし、これでもこの騒ぎを止めることはできないだろう。

叙述録を全て読み終わった後で、凪は膝を抱えて考え込んだ。

(どうすればいいのかな。この騒ぎを止めるには……もうこれを提出して信じてもらう?

前みたいに私が議会に出て、本当のことを語ればいいのかな?いや、演技だと思われるよね。彰様と癒着していると思われているから逆にあおることになる。)

 考えを必死に巡らせても何もこれといった解決策が思い浮かばない。いい解決策を考えたとしてもどれも無理であることがある。硬も茜から凪の様子を聞きつけ、機関を抜け出しては時折凪に会っていた。

前見たときよりも凪に笑顔はなかった。もう人形のように冷たい無表情だった。その顔があの日と同じように見えた。まだ保を始末できていなかった頃に戻ったかのように硬は思い出された。彰からの密命で噂の発信元を捜査していた。しかし、一向に掴めなかった。

 キリが心配そうに凪の横に止まり、すり寄った。虚ろな目で見ていた凪は書物に挟んでいた写真に目が向いた。それは昔、葵と暮らしていた家の前で撮った写真であった。それを手に取り、凝視した。まだ病に伏す前の元気な姿の葵。それを見ると涙が零れた。

「どうして。こうなるの? なんで? 教えて母さん。どうすればいいの?」

 そういうと泣き崩れた。涙が枯れるまで泣いた。どうして自分がつらい目に合わなければならないのか。誰も救ってはくれることも期待できない。罪はどこにあるの。凪はつらい葛藤をしていた。その姿を見られたくなくてここにいる。

 泣き続けて、気づいたらもう夕方だった。もう一回ページをめくり、読み直した。するとあるメモ書きがあった。そのときやっと答えを見つけた。


 屋敷で茜は一人、居間で凪の帰りを待っていた。その日も凪は夕食に顔を出さずに帰ってこなかった。

「母さん?」

「あ。恭。どうしたの?」

 恭が居間に入ってきては茜に声をかけた。茜の手には凪の写真を持っていた。

「凪。まだ帰っていないんだ。」

「ええ。学園ではどう? 噂は収まりそう?」

「ううん。収まらない。みんな本当のように受け入れている、凪がいないだけで喜んでいるよ。僕に変な哀れみの目で見てくるから、とてもうざい。」

「本当に。もう術師社会の全てが凪ちゃんに対して嫌悪な目で見ているし、私たちしかいないわ。凪ちゃんをかばっているのは。でも、このままだと危ういかも。」

「何が?」

「地位が。陰城家の地位が。これまでよりも危ういわ。もう最悪の場合。凪ちゃんには出てもらわないといけないかもしれない。」

「! それはだめだ。母さんたち言っていたじゃん。何があっても守るって。」

「だとしても。基盤である我が家がしっかりしないと守れないの。貴方だっていずれこの家を継ぐのだからこれだけは分かって。あの子が戻ってこない以上。もうあなたしかいないのだから。」

「……くっ。」

 茜が言うと、恭は悔しさでいっぱいになった。そのとき、ドアが開く音がした。

音を聞くと、二人は飛び出した。帰ってきたのは彰だった。

「なんだ。父さんか。凪には会わなかった?」

「いいや。………まだ帰っていないのか?」

 彰は二人の暗い表情を見ると察した。

「そうか。」

 それしか言えなかった。居間に戻っては凪の帰りを待っても帰ってくる気配はなかった。ただ無情にも時間だけが過ぎる。彰から今日の議会について聞いたが、収まるようなことはないという。

「もう寝よう。明日みんなで玖條の屋敷に行ってみよう。もしかしたらそこにいるかもしれない。」

「そうね。そこしか考えられないわ。生家であるからね。恭も行くでしょ?」

「行かないわけがないよ。何か凪も考えがあってのことだろうから。」

 

翌日、朝早くから彰たちは玖條家の屋敷の前にいた。見ると屋敷の外壁にひびが入っていたり、窓が割られたりとひどいありさまであった。

「……ひどい。こんなことをするなんて許せない。」

 恭が低い声で言った。茜も同じ思いだった。

「総帥。茜様に恭様も。」

 実は硬にも連絡をして来てもらったのだ。機関を抜け出して駆け付けた。

「ああ。硬。すまないなあ。機関を抜け出して来てもらって。」

「いえいえ。もう慣れておりますのでお気になさらず。凪様をこれまで支えてきた者ですので、正直私自身も心を痛めています。」

「そうか。」

「でしょうにね。貴方も葵ちゃんが生きていたときから凪ちゃんに従っていたもんね。もしかしたら、凪ちゃんのことをかばっているのは私たちと貴方だけね。」

「いえ。実際に機関のなかでも凪様をかばおうとしている者も少数ですがおります。大半があれですので。」

「そうか。鍵は持っているのか?」

「はい。予備で凪様から預かっておりました。機関のなかでも私だけが信頼しているので。」

 硬はそう言い、門を開けた。その後に続いて彰たちも歩く。懐から鍵を取り出しドアを開けた。入ると中は殺風景で何もない。無人の屋敷であった。

「凪――。いる?」

 恭が叫んだ。声はすぐに響いたが、返事はない。手分けをして屋敷の中を探した。

凪がいる。そう全員が思ってくまなく探した。しかし、誰かがいるような音や気配はしなかった。

恭がある一室に入った。そこはどの部屋よりもほこりがなく、最近使っていたような感じであった。床には煤が付いたランタンがあり、ろうそくが所々溶けた後から見るとここで使っていたことが分かる。部屋の家具を見てみると、ほこりが被っているところがなかった。

「ん? なにこれ?」

 壁向きに置かれた机の上に木箱が置いてあった。開けてみると一通の手紙が入っていた。ある予感を感じ手に取った。恭はすぐに彰たちのところに向かった。

「いたか? 硬。」

「いいえ。地下室もくまなく見たのですが、いませんでした。」

「こんなに探しているのにいないなんて、別荘へは考えられないし。他にあるかしら。」

「うーん。もう一回探そう。見落としているところがあるかもしれん。」

「父さん。」

 恭が走りながら駆け付けてきた。その手には手紙が握られていた。

「どうしたの?恭。それは……何?」

「部屋に入ったときに机の上にあったんだ。木箱に入っていて、宛先は書いていなかった。けど差出人が凪だった。」

「「「!」」」

 その言葉を聞くと全員が耳を疑った。彰に渡すと確かに凪も文字であった。嫌な予感が走った。

「硬。すぐに機関の者を動かせ、ここ一帯を捜索だ。」

「わかりました。」

 硬はすぐに機関に戻り、これまでのことを報告した。すぐに捜索が進み始めた。手紙はのちに機関の鑑定で凪のであることが確認された。

手紙は総帥直々に確認されることになった。手紙を彰が読み終わると、愕然とした。

「どうしたの?彰。」

「父さん。」

 二人が彰を見た。隠しておくわけにもいかずに彰は言った。

「先を越されたよ。」

「? どういう意味?」

「これのほうが分かりやすいから、読んでくれ。私には読めない。」

 彰は茜に渡した。

『   術師社会へ

 私はここに宣言します。もう二度と術師社会に戻りません。

正直のこと、とてもつらい結果になりましたが、もともと我が一族は追放されてもおかしくない一族です。これが正しい結末でしょう。

皆さまに報復をする気もありません。私の保護を誰よりも先にあげてくれた陰城家には申し訳ありませんが、これが最良の方法だと考えました。

かといい、戻らなければよかったと私は思っています。闇は跡形もなく去る方がいいでしょう。今後の術師社会の発展を祈り申し上げます。

玖條家当主 玖條 凪 』

 それを読むと全員が黙った。

そう、凪は自ら行方をくらませたのだ。いついなくなったかはもう推測しかできない。

手紙の最期の名前のところがにじんでいた。おそらく泣いたのだろう。それを堪えて去って行ってしまった。こんな事態になっての手紙を書くならこんな内容になるはずがない。

普通なら恨みや失望が書かれてもおかしくないのに、報復する気もないとはっきり書いていた。まるで全てを自己責任のように済ませていた内容に全員が絶句した。

「また……助けられたな。情けない。本当に。また何にも出来なかった。」

「……どうして罪を被るの? 冤罪をさせたみたいに。うう。」

 茜はその場に崩れ落ち、泣いた。彰はそれを支えるかのように茜のそばに寄った。手紙の内容を聞いてから、恭は何も考えられなくなった。

ここに来てから離れることをしなかった凪がここにいない。

もう会えない。それが考えられなかった。

(もう……凪はいない。嘘だろ? いつも僕のそばにいたのに。……僕たちを守るためにいなくなった。こんなの嘘だ。)

 誰にあてることができない怒りがわき起こってきた。

「嘘だ。こんなの。いなくなるなんて。」

「恭様。しかし、手紙から察するにもう…凪様は。」

「なんで凪が責任を取る。なんでつらいことだけを凪に背負わせるんだ。」

 恭は叫んだ。怒りからの叫びなのか、もどかしいさからなのかわからなかった。そして無言で歩き始めた。

「恭様。どちらに行かれるのですか?」

「凪を探しに行く。そんなに遠くには行っていないと思うから。」

 恭の目にはもう怒りでいっぱいであった。外に行こうとしようとする恭を茜が止めた。

「恭? 待って。」

「離して。止めても行く。もう許せないんだ。」

 茜を振り払っては進もうとしたが、それでも茜は止めた。

「貴方はいずれ彰の跡……総帥の座を継がないといけないのよ。総帥の座を継承しないといけないの。これは掟でも定められているのよ。」

「他の一家に任せれば……あ。」

 恭は思い出した。総帥になれるのは著名階級の一家の者でなければなれないことを。

その著名階級にある一家は陰城と玖條しかいない。しかし、玖條家は保の事件により全ての権限を放棄している。またその一家の生き残りである凪がいない。ということは明らかに総帥の座に置かれるのはもう恭しかいない。

「お願い。恭。もうあなたしかいないの。愁もいなくなってからもう五年以上も経った。総帥がいなければ、この社会は乱れることになる。」

 茜の言葉を聞き、自分が生まれたときから置かれている状況を思い出した。

「凪ちゃんへの気持ちはとてもわかる。だが、凪ちゃんは何よりも私たちの立場を考えてくれたんだ。凪ちゃんの行方は今後も継続して行うから。頼む。分かってくれ。」

 彰も懇願するように恭に言った。

置かれた立場。

必ずいなくてはならない地位。

常に狙われる地位に立ち続けなければならない。

それなのに一つも守ることができない。

「くっそう。……凪。凪………なぎ―――。」

 恭は何度も凪の名を口にし、叫んだ。そして何もできない自分を睨んだ。

そして、誓ったのだった。凪が望んでいなくても報復することを。

その日のうちに凪が行方不明になったことを公表した。この公表で多くの一家から戸惑いの声が上がった。誰もこのような事態を予測していなかったのだろう。

これを機に硬は機関を辞退した。

                  

                    *

 噂は自然となくなり、騒ぎは静まった。まるで何もなかったかのような日常が流れた。

ほとんどの者がそんなことがあったことを忘れている。

凪が行方不明になってから数週間後に玖條家の屋敷で火事が起こった。捜査機関は放火として原因を調べるが、現場から一つの鍵が発見された。その鍵は屋敷のものであることが判明した。この火事を極秘団体は何かを隠すために凪自身が火をつけたのではないかと推測し、行方を捜査した。しかし、いくら調べても行方に関する手掛かりは見つからない。

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影と闇の術師 @miharuka

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