海鳴りの寺

近隣住民への取材：２

いいや。このあたりにそんな寺はねえな。●●神社ならあったけどな。

だから寺じゃなくて神社だよ。●●神社。

あそこにあったんだ、海岸沿いの。そうそう、白くてでっかいお屋敷が建ってるとこ。あれは●●神社を潰してできたんだよ。

罰当たりなことをするもんだってみんな言ってたけど、特にこれといった罰みてえなもんはなかったみてえだな。ほんとのところはわかんねえけどな。

多分、五十年は経ってねえんじゃねえか。持ち主は見たことねえけど、たまに使ってはいるみてえだよ。あんた、あそこ見たことあるか？

じゃあわかるだろ。誰も使ってねえんなら、あんな小綺麗なわけねえだろうよ。

おれはそんときちょうど東京に出てたから詳しいことはわかんねえんだけど、宮司の一家が急にいなくなったんだよ。かなりの騒ぎになったけど結局ひとりも見つかんなくて、そのまま潰れっちまったって。

なんでも神社庁だかなんだかっていうのに所属してなかったから、代わりも来なかったんだと。そんで潰れたんだ。潰れるって言い方があってんのかはわかんねえけどな。

お祭りをするわけでもねえし、後になって考えてみっとよくわかんねえ神社だったな。おれらは●●神社って呼んでたけど、ほんとに神社だったかどうかも怪しいかもしんねえな。

へえ、だから●●寺って呼ばれてんのか。でもそれ、ほんとにお経か？

寺でも神社でもねえんなら、あそこにあったのは一体なんだったんだろうな。