D氏の証言

話をする前にちょっと確認しときたいんですけど、Aくんからはどこまで聞いてます?


そうですか。たしかにAくんは●●寺の中には入ってないし、そうなりますよね。


いや、おれは入りましたよ。入ってないのはAくんだけです。


はあ? いやいや、そんなわけないですよ。え、Aくんそんなこと言ってたんですか?


マジか、なんだよあいつ、ふざけやがって。すいません、どんな話を聞いたのかは知らないですけど、Aくんが言ってたのは嘘ばっかだと思うんで、おれがほんとのことを話します。


ええ、AくんとBとCと四人で麻雀をやってたってのは本当です。そのあと、詳しい時間は忘れましたけど、夜中くらいにBが気分転換に散歩しようって言い出して、なんでか車で近くのコンビニに行くことになったんですよ。


みんな近くに住んでたから歩いてAくんちに集まってたんで、Aくんの車に乗っていきました。Bは散歩したいって言ってるのになんで車なんだよと思ったけど、免許を取ったばっかで運転したいんだろうなと思ってみんな黙ってました。車のこともやたらと自慢してましたし。先輩に無理やり買わされたボロっちい軽なんですけどね。


コンビニに着いて酒とかお菓子を買いこんでAくんちに戻るのかと思ったら、そのままAくんちを通りすぎちゃって。おいおいAくん酔いすぎだろと思って文句言ったら、ニヤニヤ笑いながら、●●寺行くぞって言うんですよ。


正直おれは乗り気じゃなかったんですけど、BとCが盛り上がっちゃって。おれひとりが反対したところで聞いてもらえるはずもないし、空気を壊すのもアレなんで、諦めておれも乗り気のふりをしときました。おれだけ付き合いが短かったせいか、温度差を感じることは結構ありましたね。


●●寺にはたしか十五分くらいで着いたと思います。●●寺というか近くのKマートですね。Aくんは●●寺に何度か来たことがあるみたいで、道もばっちりでしたし、慣れてるような感じでした。


みんなで車から降りて、そこから横の砂利道を下っていったとこに●●寺があったんですけど、それがすごい異様な雰囲気で。想像以上に馬鹿デカいし、波の音がうるさいのに、なんかしーんとしてるんですよ。時間が止まってるっていうか。


おれはアホみたいに何秒かぼーっと突っ立ってたんだと思います。そしたらAくんが、おまえらで行ってこいって懐中電灯を渡してきて。おれはもちろん文句言いましたよ。Cも同じです。乗り気だったのはBだけでしたから。おれがAくんも一緒に来いって言ったら、おれは車が心配だから待機しとくって。


後から思い出すと腹立つけど、そんときは納得しちゃったんですよね。大事な愛車だし仕方ないよなって。その時点でちょっとテンパってたんだと思います。


おれは気乗りしませんでしたけど、さすがにBをひとりで行かすわけにはいかないんで、BとCと三人で●●寺に入ってくことになりました。でも正門っぽいところには学校の校門にあるような頑丈そうな門扉?がついてるし、どこから入ればいいのか考えてたら、Aくんがあっちに裏口があるって教えてくれて。


そっちの方に行ってみたら、なんていうのかな、ペットを飼ってる人って家のドアの下の方に猫とか犬用の小さな扉があったりするじゃないですか。それの人間サイズみたいのが石の塀についてるんですよ。なんだこれって感じで気持ち悪いなって思ったんですけど、それを見たBが躊躇なく潜っていって。それでおれとCも仕方なく後についていきました。そしたらAがじゃあおれは車で待ってるからなって。あー、思い出したら腹立ってきたな。


●●寺って噂じゃ廃墟だって言われてますけど、そうとは思えないくらい綺麗でした。おれらが入った裏口のところは草ぼうぼうなのに、正門から建物までは手入れされてそうな感じだったし。それを言ったら、Cもそうだよなって。おれとCはヤバそうだから引き返そうってなったんですけど、気付いたらBがいないんですよ。


Aくんにもらった懐中電灯を持ってたんで、それで周りを照らしてみたんですけど、Bの姿は見えませんでした。大声でBの名前を叫んでもなんの反応もなくて。


洋館に入ってったのかなと思って探したけど、どの窓もしっかり施錠されてて中に入れそうなとこはどこにもありませんでした。これっておかしいんですよ。廃墟っておれらみたいに侵入してくるやつが必ずいるから、どっかしら中に入れるとこがあるんです。なのに、開いてるドアどころか割れてる窓すらなかったんですから。


それで、建物に入れないなら外にいるはずだし、もっかい外を探してみようと思ったとき、中から急にお経みたいな声が聞こえてきたんですよ。ひとりじゃない、大勢の声です。何十人もの人たちが一斉に叫んでるような大音量でした。


お経のことはよく知らないですけど、聞き覚えがあるような感じじゃなかったですね。般若心経とかではないと思います。もっと外国っぽいような。いや、お経も外国か。なんていうか、今までに聞いたことのない、知らない国の呪文って感じの雰囲気でしたね。


急いでCと裏口から逃げて、Aくんの車のとこまで戻りました。お経みたいな声はもう聞こえなくなってたんですけど、そんときはまだめちゃくちゃビビってて。


いま考えると、●●寺に探しに戻るのは無理だとしてもBの帰りを車で待っても良かったと思うんですけど、●●寺というか海の方からヤバいやつが迫ってきているような気配がしてたんで、それでAくんに頼んですぐ車を出してもらいました。


帰り道はみんな無言だったと思います。Bがいなくなってるのに、Aくんもなにも聞いてこなくて。そのままAくんちに戻って解散しました。AくんともCともその後は一度も会ってません。


おれは警察には行ってないですよ。行くとしたらAくんかCでしょ。あのふたりの方がおれよりずっと付き合い長いんだし。それに、おれだって被害者みたいなもんですから。

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