海鳴りの寺

古野愁人

A氏の証言

こんな風に録音とかされたことないんで上手くしゃべれないと思いますけど、その辺はそっちの方でいい感じにまとめてもらえれば。


んー、どっからしゃべればいいのかな。まあ思いつくままに話してくんで、順番とかもわかりやすいようにそっちでやってください。


で、そもそもの原因というか悪いのはBのやつなんですけど、おれとBは中学からツレで、クラスは一度も同じになったことなかったけど部活が一緒だったんで一年の頃からずっと連んでたんですよね。


Bはおれと違って頭良かったんで高校は別のところに行きましたけど、すかしたやつらばっかで連んでも楽しくないって卒業してからもしょっちゅう一緒に遊んでました。多分、友達らしい友達はおれらくらいしかいなかったんじゃないですかね。頭いいっつっても勉強が得意なだけで、普段からおれらでもやらないような馬鹿みたいな真似ばっかしてましたから。学校では浮いてたんだと思います。


あ、すいません、おれらってのはBとおれとCとDのことです。Cも中学のときからのツレなんですけど、Bとは逆で部活は違うけど一年からクラスが同じだったんでずっと連んでました。Dは現場の同僚ですね。ほら、おれは中学出てそのまま働きだしたんで。Dはおれと違って高校に行ってたけど一ヶ月くらいで退学になったらしくて、しばらくぶらぶらしてたら親にめちゃくちゃ怒られたから仕方なく働きはじめたって言ってました。仕事ではおれが半年くらい先輩ですけど、歳は一緒なんですぐ仲良くなりましたね。


そんで、たしか中学を卒業して一年くらいしたときだったと思うんですけど、おれとBとCの三人で連んでたときに久しぶりに麻雀やろうぜって話になって、じゃあもう一人いた方がいいだろってなってDを誘ったのが四人で集まった最初だったと思います。BもCもDも明るいやつなんですぐに意気投合して。それからしょっちゅう四人で遊ぶようになりました。そんで、あの騒ぎです。


そんときはみんな次の日が休みだったんで、夕方くらいからうちに集まって麻雀してたんですよ。BもCもDもみんな実家暮らしなんで自然とうちが溜まり場になったって感じです。


いつもみたいに夕方からぶっ通しで麻雀をやって、日付が変わった頃でしたね。Bのやつが酔い覚ましに散歩しようって言い出したんです。あいつ、その日は珍しくボロ負けしてたんで、酔い覚ましってのは言い訳で単に負けをごまかすつもりだったんだと思います。いや、でもあいつがそんな負けたことってこれまでなかったから、ほんとに酔ってたのかもしんないですね。さっきも言いましたけど勉強はできるやつだったし、なんだかんだおれらの中ではズバ抜けて頭良かったんだろうな。まあ今となってはどうでもいいですけど。


で、酔い覚ましっつっても目的もなくその辺を歩きまわってもつまんないっていうんで、どっか行き先を決めようってことになったんですよ。誰が言ったかは忘れましたけど、おれはそんなこと言った覚えないし、Bでもなかったと思うんで、きっとCかDのどっちかですね。


そんならコンビニでも行くかってまとまりかけたときに、●●寺に行くぞって言い出したんですよ、Bのやつが。


知ってると思いますけど、●●寺って海沿いにあるから歩いてくとうちから一時間近くかかるんですよね。なんで、酔い覚ましには遠すぎるだろっつってみんなで反対したんですけど、そしたらBがじゃあ車で行くぞって。あいつが酔い覚ましに散歩したいって言い出したのに、おかしいですよね。でも、そんときはおれもCもDも、そんならいいかって。いま考えると変な話なんですけど、あんときはみんな酔ってましたから。まあ退屈してたんですよ、おれたちみんな。で、おれの車で●●寺に行くことになりました。あ、おれは飲んでなかったですからね。念のため。


そんなわけでおれの運転で●●寺に向かってたら、途中で道に迷っちゃって。おれは●●寺に行ったことなかったんですけど、××ら辺にあるってことは噂で知ってたんで、とりあえずバイパスのってそっち方面に向かったんですね。んで、そろそろかなってところでBに道案内しろっつったら、行ったことないからわかんないって。ハァって感じですよ。訊いたら、Bも含めて●●寺の場所なんて誰も知らなくて。


ここで引き返せばよかったんですけど、もう十五分以上は走ってたし、おれらもなんだかんだテンション上がってたんで、せっかくだから●●寺の場所を特定しようってことになったんです。ほら、●●寺ってみんなそう呼んでますけど、実際には寺でも神社でもなんでもないただの民家というか廃墟だから、地図とかナビには載ってないじゃないですか。


おれは××地区にある白い外観のデカい建物ってことしか知らなかったんですけど、BがKマート跡地の横の砂利道を進んだ先にあるらしいって言い出したんで、まずはKマートを探そうってことになりました。Kマートはコンビニとスーパーの中間くらいの商店で、昔はうちの近所にもあったんでよく親父にタバコを買いに行かされてました。ずいぶん前に潰れちゃいましたけど。すいません、関係ないですね。


で、探してみたらそれっぽいのがあっさり見つかって。潰れてからだいぶ経ってるみたいで看板とかはなくなってましたけど、建物の大きさとか雰囲気的に間違いない感じでした。Bのやつが言ったとおり、すぐ側に砂利道もあったし。ただ両側が森みたいになって道がかなり狭かったのと、なによりどこに続いてるかわかんないところに車を入れたくなかったんで、Kマートの跡地に駐車して、そっから先は歩いて行くことにしました。


そしたら、ほんとにあったんですよ。白い建物が。なんでKマートを見つけたときに気づかなかったかというと、その砂利道ってかなり急な坂なんですね。●●寺は海岸沿いに建ってるんですけど、海岸に向かって急な下り坂になってるから、Kマートの方からは見えなかったんですよ。


そんで、いま考えても不思議なんですけど、おれ、●●寺を見た瞬間にすげえテンション下がっちゃって。いや、テンション下がったっつーより、正気に返ったって感じですかね。


●●寺って、ヨーロッパあたりの金持ちが住んでそうな、いかにも外国っぽい雰囲気の建物なんですよ。なんでこれが●●寺って呼ばれてんのっていう。


噂だと夜な夜なお経が聞こえるから●●寺って名前がついたって話ですけど、それだけでこの建物をお寺呼ばわりするのって不自然だと思うんですよね。あと、●●寺って海岸スレスレのところに建ってるから波の音がとにかくうるさくて。こんな状況でお経の声なんて聞こえるはずないんですよ、普通に考えて。


あと、さっきも言いましたけど●●寺ってKマート側からは見えないようになってるんですよ。これも偶然とは思えないっていうか、多分なんか隠そうとしてるんじゃないですかね。


なんで、おれはもう帰ろうって言ったんです。●●寺の場所は特定できたし、目的は達成しただろって。CとDは賛成してくれました。きっとあいつらもおれと同じでビビってたんだと思います。


でもBはせっかくここまで来たんだから中に入ろうってきかなかったんですよ。おれとCとDで、Bのやつを説得したけど駄目で。置いてくぞっつったら、じゃあひとりで行くって言うし。力づくで連れて帰るにも、あいつを抱えて急な坂道を登るのは三人がかりでもキツいですから。


だから、Bのやつを置いて帰ったんですよ。おれたち三人で。言っときますけど、おれらはちゃんとあいつを引き止めましたし、ひとりで行くっつったのはあいつ自身ですからね。そもそも、●●寺に行こうって言い出したのはBなんですよ。なのに、なんでおれが責められなきゃなんないんですか?


Bのやつだって、どっかで生きてるかもしれないじゃないですか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る