アオハルトランペット!

音心みら🫧

音符に恋して!

「うぅ…やっぱりまた失敗した…」


校舎の3階にある音楽室から響き渡るのは、天野咲良あまのさくらの嘆き声。彼女は中学2年生の吹奏楽部員で、担当はトランペット。明るく元気な性格だけど、楽器の腕前は…ちょっと微妙?吹奏楽部では練習熱心だが、音が外れまくり、同じ部員からは「天才的な音痴」と愛を込めて呼ばれている。


「咲良~、大丈夫?今の音、トランペットじゃなくて何かの警報かと思ったよ!」


隣の席でフルートを吹いていた菜々子が笑いながら声をかける。彼女は咲良の親友で、部内ではお姉さん的存在だ。普段はしっかり者だが、ちょっとだけイタズラ好きな一面もあり、時々咲良をからかうのが楽しいらしい。


「うぅ…もう恥ずかしい…どうやったら上手くなるんだろう?」

咲良は机に顔を伏せながら、絶望感に浸っている。


「大丈夫だって!最初はみんなそんなもんだよ。ほら、私も最初は全然音が出なくてさ、顧問の田中先生に『あれは何の音ですか?』って真顔で聞かれたし!」


菜々子はそう言って励ましたが、咲良にはあまり響いていない様子だ。


「それでも、菜々子はすぐに上手くなったじゃん…私、ほんとに才能ないのかも…」

咲良は弱々しく答えた。


すると、そこへ顧問の田中先生が現れた。


「咲良、お前のトランペットは独特だからな、ある意味才能かもしれんぞ。なに、個性が大事なんだ、個性が。」


先生の一言に、咲良と菜々子は顔を見合わせて笑ってしまった。そんなことを真顔で言ってしまう田中先生は、部員からちょっとした名物キャラとして親しまれている。




そんな和やかな空気の中、部室のドアが開き、田中先生が新しい顔ぶれを連れてきた。


「みんな、紹介するね。彼は青山翔太あおやましょうた君、転校生で今日からこの学校の生徒だ。音楽の成績も抜群らしいぞ!」


咲良は顔を上げて目を丸くした。翔太は背が高く、爽やかな笑顔を浮かべて立っている。なんだかまるで王子様のような雰囲気だ。


「え…この子が、部に入るの?」


「そのつもりだよ。楽器は、トランペットだ。」と、田中先生がにこやかに答える。


咲良は一瞬凍りついた。トランペット!?同じ楽器の新人が来るなんて、しかもあの完璧そうな雰囲気の男の子が…。


「よろしくお願いします!」翔太は咲良に向かって微笑み、思わず咲良は自分がドキドキしていることに気づいた。


「こ、こちらこそ…」

しどろもどろに挨拶を返す咲良の様子を見て、菜々子はすかさず耳元で囁く。


「ほら、見てよ!王子様登場じゃない!まさかのラブ展開!?」

「そんなわけないでしょ…」

咲良は赤くなりながら小声で返すが、心の中では菜々子の言葉が気になっていた。




翌日、放課後の部活動が始まると、さっそく練習がスタート。翔太のトランペットの腕前は本当に見事で、顧問の田中先生も驚いていた。咲良はその技術に見とれてしまうが、同時に自分との圧倒的な差に落ち込んでしまう。


「はぁ…私なんかが同じ楽器を吹いていいのかな…」

そんなことを思っていると、不意に翔太が話しかけてきた。


「天野さん、今日は一緒に練習してみない?」

彼の言葉に驚く咲良。


「え、わ、私と?でも、私、まだ全然上手くないし…」


「大丈夫だよ!一緒にやればきっと上手くなるさ!」

翔太は前向きに微笑んで、トランペットを構える。


咲良も不安そうにしながら、自分のトランペットを手に取った。そして二人で曲の練習を始めるが、咲良の音は相変わらず外れまくり!


「あ…ごめんね…また外しちゃった…」

咲良は頭を抱えるが、翔太は少しも気にした様子はない。


「今のところ、ちょっとリズム感が斬新だったけど、それはそれで面白いかも。」

翔太は真剣な顔でそう言った。


「斬新って、それフォローになってないから!」

咲良は思わずツッコんでしまったが、翔太の優しさに心が温まっていた。彼の言葉に励まされ、少しずつ自信を持ち始める咲良。しかし、その気持ちが芽生えた瞬間、別の不安が彼女の胸に浮かぶ。


(でも…私、翔太くんみたいに上手く吹けるようになるのかな…)




吹奏楽部では、しばしば笑いが絶えない出来事が起こる。顧問の田中先生はユニークなキャラクターで、部員たちに時折珍妙なアドバイスをすることでも有名だ。


「咲良、お前のトランペットはちょっと斬新だからな。個性をもっと出していけ!例えば、ジャズとかどうだ?」

「先生、それ本気で言ってます?」

「おぉ、斬新でいいぞ。次のコンクールで試してみようじゃないか!」

「や、やめてください!」


咲良が全力で止める中、部員たちはみんな笑いながらそのやりとりを見守っている。田中先生の突拍子もない発言に対する咲良の反応が、日々の部活に欠かせない笑いの素になっていた。




1週間後、学校の近くで行われる夏祭りの日。咲良と菜々子は浴衣姿で楽しんでいた。金魚すくいや焼きそばの屋台が立ち並び、夜空には色鮮やかな花火が打ち上がる。


「お祭りって楽しいね!屋台もいっぱいあるし!」

菜々子が金魚すくいをしながら笑顔で言う。


「あ、見て見て、翔太がいる!」

咲良が指差した先には、浴衣姿の翔太が友達と歩いていた。


「わあ、カッコいい…」

つい見とれてしまう咲良。


その瞬間、翔太がこちらに気づき、手を振ってくる。「咲良、菜々子、こっちおいでよ!」という声に、二人は慌てて駆け寄った。


そして、みんなで楽しく歩いていたとき、突然夜空に打ち上げ花火が広がった。


「わあ、綺麗!」

咲良が歓声を上げると、翔太がそっと隣に立ち、言った。


「天野さん、これからも一緒に練習頑張ろうね。君の音、僕は好きだよ。もっと自信を持っていいと思う。」


その言葉に、咲良の胸はいっぱいになった。彼女の頬はほんのり赤くなり、花火の光に照らされていた。




文化祭が終わると、吹奏楽部は大きなコンクールに向けて本格的な練習が始まる。咲良も一生懸命練習し、以前よりも少しずつ音が安定してきた。しかし、プレッシャーが大きくなるにつれて、自信を失いかけてしまう。


「咲良、大丈夫!君なら絶対できるよ。」

翔太の言葉が、咲良を支えていた。




コンクールの当日、咲良は緊張しながらも、翔太と目を合わせる。そして、彼女の吹くトランペットの音は、かつてないほどに美しく響き渡った。


「これが…私の音だ!」咲良は心の中でそう思い、晴れやかな笑顔を見せた。


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