四畳半の暮らし
noi
第1話 田舎の小さな町に住む一国一城の主
私は、273cm×273cmほどの部屋で暮らしている。所謂四畳半のワンルームだ。部屋には布団と炬燵と本棚しかない。これ以外の物は無い。なぜなら、他の物は物理的に置くことができないからである。この狭い空間の貴重なスペースにわざわざ本棚を置くなよと思う人もいるだろうが、これにはとてつもなく深い理由があるので一旦落ち着いてほしい。
トイレ、キッチンは他の住民との共有スペースにしかなく、風呂は近所の銭湯に行かねばならない。隣の部屋で人間が歩き、笑い、屁をこけば音も振動も伝わってくる。このように生活音が丸聞こえのアパートの一室が私の家であり、城である。
部屋を出て町に目を向けてみよう。この町を一言で言い表すと、「絶妙な田舎」である。なぜなら、古く、手入れもされていないボロボロな放置されている家屋があると思えば、新しく、幸せそうな親子が住んでいる綺麗な一軒家が混ざり合っている。さらに、小さな住宅街を抜けると、一面に田んぼや畑が広がっており、その景色の数キロ先にはいくつかのビルがうっすらと見えているだけの町だからである。
この「絶妙な田舎」では電車もバスも一時間に一本程度しか走らず、さらに、終電は二十二時時台ときたものだ。もちろんタクシーもほとんど通ることはない。そのような細い裏道や農道の多い町で、しかも、金銭的に余裕のない自分にとって一番頼りになる移動手段は数年前に中古で購入した原付だ。薄汚れた白色の車体をした何の変哲もない排気量50ccのこいつは思っていたよりも頑丈で野ざらしの状態で停めておいても故障もしないほどだ。しかも、少しばかり雑に駐車していたとしても盗まれる心配もない。この一台は私の自慢の愛車だ。
この愛車さえあれば、銭湯でもコンビニでも本屋でもどこへでも行ける。なんなら、市内で有名なデートスポットでさえも簡単に行くことができる。ただ、私に、そのような場所に一緒に行ってくれるような間柄の人間がいないのことが少しばかり寂しい気がする。しかし、開き直って考えると、誰の意見に左右されることも無く、自由に好きなところへ気ままなツーリングができると考えれば一人であることがメリットになるだろう。(そう思い込みたい)。
私が住んでいる町についてはある程度知ってもらえたと思う。まだまだ紹介したい場所はあるが、詳しい街の様子はこれから語りたいと思うので、今からは少しだけ私自身のことを知ってもらいたい。
私は、おおよそ二十歳の男の学生だ。そう、一国一城の主と言っていたが、その城は自分の力では無く、親の力によって維持されているものだ。あまりにも情けない主の姿かもしれないが、そのあたりの見栄についてはご容赦願いたい。
もう少し本題に入ろう。私の趣味は、小説や漫画を読み、アニメを観てグッズを買いあさることや友人とするゲームやスキー旅行くらいである。初めの方で言っていた本棚を設置するとてつもなく深い理由とはこの趣味と関係する。私は個人的に小説や漫画はできるだけ紙媒体で手に入れたいという意地のようなものがあるので四畳半しかない狭い部屋の空間を圧迫してでも無理やり本棚を設置していたのである。「小説と漫画は紙媒体で収集する」これだけは、私の生活において決して譲ることのできない条件である。もう一度言わせてもらうが、「どんなに部屋が狭くとも、書籍は紙媒体で収集する」これだけが私の人生において唯一と言っても過言ではないこだわりであり、意地である。
これらのほかに、最近は近所の銭湯とは別の少し離れた場所にある温泉に行き、温泉とサウナを楽しむこともある。このことも一応は趣味といえるかもしれない。もちろん愛車の原付で行くので季節によっては帰り道に無駄な汗をかいたり、逆に湯冷めして風邪をひきそうになることがちょっとした悩みの種ではあるが。
学業の方はというと、ごくごく一般的な一人暮らしをしている大学生である。ある程度のアルバイトをしながら、将来働きたくないなと思いながら授業を受け、課題を提出して単位を取り、休みの日には先ほど言ったような趣味を楽しみながら暮らしている。それだけであり、特に面白い日々を過ごしている人間ではない。
こんな私でも一応の夢はある。その夢とは、将来、結婚してようがしていまいが、穏やかな土地に一軒家を建てて静かに暮らすことだ。しかし、若い間は、物価が高いとしても東京のような都会に住んでみたいという思いもある。
【このように物語のようなものを書くことが初めてということもあり、右も左もわからない不慣れな状態ですが、これから、四畳半の部屋に住む「私」のありふれた日々の暮らしを短編集のように書いていこうと思っています。もし、この話を読んでくださった時点で次の話が投稿されていましたら、そちらの話も読んでくださるとうれしいです。】
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