第27話
「ナツメ。電車いつ?」
「後三十分後だよー」
あれから俺たちは寒い中地獄のシャワーを浴びてから着替えて部室でくつろいでいた。
「桜ちゃんはどうする?」
なぜか部室に置いてあるキャンプ用の折りたたみベンチに二人並んで座る清水さんとナツメ。俺は近くの机に座っている。
「私も同じ時間に乗りますよ」
「やった。一緒に帰ろうね」
やはり、彼女は一緒に帰るらしい。なんとなく察してはいたが、こうなるんだなぁ。
「許さん……貴様絶対に覚えとけ……」
更衣室の方から全身が震えるような殺気を感じ取ったが、きっと気のせいだろう。そうだよな、俺の事をずっと睨んでいる誠吾君。
もしかしたら、近いうちに俺は背中を刺されるかもしれない。
などと考えて俺は溜息を吐くのだった。
「誠吾そんじゃねー」
「お疲れ様でした」
「じゃあね二人共ー」
あれから場所が変わり高校の最寄り駅。俺達は駅までついて来た誠吾を見送っていた。
「じゃあな誠吾」
「くたばれ!!」
なんか俺だけ対応違くないか。
俺を睨みつけてから自転車に乗って走り去る誠吾を眺めながら苦笑する。
「なぜか怒らせてしまいましたね。大丈夫でしょうか?」
「いーのいーの。いつもあれだから」
裏で女神様が心配していたが、ナツメが呆れたように笑っていた。俺達の普段を見ているナツメからすれば心配するようなことではないのだろう。
「それにしても、男子達面白かったねー」
「みんな女神様見すぎ。練習してくれ」
「あはは、なんかすみません」
申し訳なさそうに笑う彼女だが、清水さんが申し訳なく思う必要は無い。なぜなら集中していない獣達が悪いのだから。
ホームに入ると、すぐに電車が迎えに来てくれた。日本の電車は素晴らしいな。
「でも桃はいつもより集中してたね?」
ニヤついた笑みを浮かべるナツメにチョップをかましながら電車に乗り込む。
「マネがいると楽だな。やっぱ」
部活終わりだとある程度空いているため、俺達は揃って椅子に座ることが出来た。
「だからいつもマネさん付けなって言ってるのに。頑固野郎」
「言い過ぎちゃう?」
たしかに普段から俺はマネを付けないようにしているため、今日みたいに練習内容に集中できるときは稀だ。
「普段マネージャー付けないんですか?」
俺たちの会話に驚きの表情を浮かべながら参加する女神様。そんなに意外だったのか?
「この人、いつも『頼むの気まずいからヤダ』って言って付けないんだよー」
普段は誠吾が同じレーンで泳いでいるため孤独を感じることもないし、申し訳ないから頼みづらいしな。
「でも女神様をマネージャーにするとは意外だつたなー。もしかして狙ってる?」
「んなわけ」
「だよねー」
清水さんにマネージャーをお願いしたのは、シンプルに彼女の暇つぶしのためだ。それ以外に深い理由はない。
「それよりさ。それよりさ!」
ナツメは好奇心全開の表情で俺と清水さんを交互に見る。その顔を見て俺は危機感と嫌な予感を感じてしまった。
「お二人さんってクラスメイトなんだよね。なんでそんな仲良しなの?」
「仲良し……ですか?」
「うん。桃の性格的に関わらないタイプの人だろうからさ。気になっちゃって」
俺はポーカーフェイスを貫いているが、その内では冷や汗だらだらだった。多分だが、女神様も同じ状況だろう。
「クラスメイトは流石に話せるからな?」
嘘だ。クラスメイトだとしても女子、特に学校で最も有名な人間となんて関わりたくないし、相当な事がなければ挨拶くらいでちゃんと話すことなんてない。
「そーかなー。桃の場合あれほど仲良く話すとは思えないんだけど」
「そりゃ女神様がお優しいからな。人見知りの俺にも話しかけてくださるんだよ」
これは紛れもない事実だ。毎回話題を提供してくれるのは彼女で、俺は基本的に相槌を打って少しだけ会話する程度。
「辞めてくださいよ。恥ずかしいです」
俺が彼女に視線を送ると、とても恥ずかしそうにしていた。その姿を見て俺はそこまで恥ずかしがることか、と思って笑みを零す。
「まあ桜ちゃんは優しいからねー」
どうやら納得してくれたらしい。ナツメはうんうんと頷いていた。そんな彼女を見ていて俺はひとつの疑問が浮かび上がってきた。
「ナツメ、女神様と関わりあったの?」
俺は同じクラスだから女神様の周囲の人間もたまに見ているのだが、その中にナツメは居なかったはずだ。女神様の近くで彼女を見た記憶が無い。
「一応あるよ。ねー桜ちゃん」
「はい。何度か」
彼女がナツメと関わっているのは意外だった。人間誰がどこで関わっているのか分からないものだな。
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