工具箱の仲間たち

ノーバディ

第1話

 ノコギリや金づち、ドライバーなど、たくさんの工具が仲良く暮らしている工具箱。次の仕事は、大きな家を建てることだと聞いて、みんなはワクワクしていました。

「僕はね、この大きな梁を切ったんだ!」とノコギリが自慢します。「僕はね、この柱をしっかり打ち込んだんだ!」と金づちも負けていません。ドライバーも「僕はね、このネジをぴっちりと締めたんだ!」とアピールします。

 そんな中、新しい仲間が入ってきました。工具箱の仲間たちは初めて見る新入りに興味深々でした。

「君は何ができるんだい?」

「えと、ボクは何が出来るんだろう」

 その子は自分が何者なのか分からないままここに来てしまったのです。

 他の工具たちのように、クギを打ったり、木を切ったり、ネジを回したりすることができません。

「どうして僕は、みんなみたいに役に立てないんだろう……」と、悲しくなって、涙をこぼしました。

 優しい金づちが小さなその子に声をかけます。「大丈夫だよ。みんな最初はできないことばかりだったんだ。僕がクギの打ち方を教えてあげるから、一緒に練習しよう!」

 金づちの言葉に励まされ一生懸命練習を始めました。最初はなかなか上手くいきませんでしたが、毎日少しずつ練習を続けているうちに、ついに1本のクギをまっすぐ打ち込むことができるようになりました。

 そんなある日、おじさんが工具箱を開けて、「あれ?新しく買った包丁がこんなところにあったぞ」

 その子は工具じゃなく包丁だったのです。

「こんなところにあったのか。こんなにボロボロになってしまって、もう料理もできないな……」と、おじさんは残念そうに言いました。

 小さな包丁くんは工具箱から出されてひとりぼっちになってしまいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る