オールドファッション

掃き溜めに駄犬

第1話 僕は女神様に出逢った?

 「今日も駄目か…」あ


 時刻は午後9時をまわっていた、ひとり暮らしのアパート周辺から大学の周りでも探してはみたが軒並み不合格通知で今に至る…新入生が大挙して上京してくるはどこもかしこも既に定員オーバーらしい。

 4月に入り衣食住の住は問題無かった、大学から徒歩で20分と手頃な上に1LDKとひとり暮らしには広さも申し分無い、問題が有るとしたら築何十年だろうと考えてしまう木造2階建て位かな。

 家賃は当初から安くて五万円だったのだが大家さんがお年寄りと言う事もあって敷地内の草むしりと簡単な補修なら請け負うと約束した事で家賃は三万五千円に値引いて貰えた、準管理人と言ったところだ。

 だが残りの衣と食が問題だった…

 実家はが付くほどの田舎だけど両親は共働きの地方公務員だから仕送りが無い訳ではない、むしろ平均より多い位なんだけど働かずにやっていける程に東京の物価は優しくないから…

 今日は少しエリアを拡げて銀座まできた…男でもウェイター等の募集があったからだ…

 まぁダメだったけどね…原因は解っているよ、まだ成人していないってのもあるけど一番の理由は…やっぱ見る人が見れば判るんだろうな…面接時にどれだけ明るく努めても(コイツ根暗で使いにくそうだ)って…

 夜も更けてきたって言うのにの人通りが多過ぎるよ…歩道の幅も田舎に比べれば充分広いのに週末と言う事もあってかラッシュアワー並みの人混みに酔いそうだ…

 

「鮫島様今夜はありがとう御座いました、またのお越しをお待ちしております」


 だだっ広い間口に大きなエントランス、その前に客を見送るホステスらしき女の声が耳に入ってきた。

 裾を引きずる位の赤いロングドレスに赤い髪それに…(凄っいバ●乳!)反則でしょそれ!

 やっぱり都会の…いや!銀座のホステスさんは眩さが段違いだ…「良いよな…女の人は見た目だけで…」

 こんな事口にしたら色んな団体から「性差別だ」とか「セクハラ発言反対」なんて言われかねないから心の中だけで終わらせとく…「あ〜なんか只々虚しい」


『ドンッ』

「あ!スイマセン…」


 肩が当たったみたいだ、ここは一言謝ったから良いだろうとやり過ごすと…


「痛ってー!肩外れた!」

「おい!兄ちゃん待てや!」


 肩のあたった男が痛がり連れの男が凄い形相で睨みながら肩を掴んできた、昭和のヤクザじゃあるまいし勘弁してくれよ…

 

「おい!どうしてくれんだよ!」

「いや…スイマセン…」

 

 こんなに大声で叫ぶ人が居るのに周りの通行人は我関せずでチラ見はするが通り過ぎてゆく。

 (でもその見てないフリして見てる視線が痛いんだよ…)僕は中学高校と半引籠りだった…虐めが原因だよ、でも家族や先生に恵まれてギリギリ卒業させて貰えた、その頃のトラウマで他人の視線と言うものが苦手だ。


「てめぇ聞いてんのか!」


 男が僕の胸ぐらを掴んでグイッと引き寄せられると見たくも無い男の顔が近くなる、(あ〜死んだ…)こんな所で…痛いんだろうな…僕は力無く肩を落として項垂れた。


「大の男が寄って集ってみっともないね〜」


 声のした方に視線を送ると先程のバ●乳様が目の前に居た、間近で見ると僕の目には周りに星を散りばめた様にキラキラ光って益々眩しい。

 

「関係ない奴は…て!姉ちゃんスゲェ胸してんな!」

「じゃあコイツの代わりに姉ちゃんが俺達の相手してくれよ!」


 あ〜…一瞬女神降臨かと喜んだのも束の間…益々ややこしい事態になりそうな予感…

 女神様の方も一歩も引かない様子でお互い喧嘩口調になってますけど…(ヤバイヨヤバイヨ)って某芸人さんの口癖が頭の中でリフレインする。

 周りの聴衆の目もあって男の方も引くに引けない泥沼状態…


「てめぇ大人しく聴いてりゃ!」

(あっ!やばいぞ!)


 僕の胸ぐらを掴んでいた男の手がパッと離されるとその右拳が振り被られたあと女神様の方へと放たれる…女神様へと徐々に近付くその拳は僕にはスローモーションの様に見えて…

 僕は引籠りだったから日がな一日漫画や小説を読みふけって知識だけは豊富だと自負する、この様な場面シュチュエーションで僕のような男の取る行動はひとつ!

 奴の前に立ちふさがり男の渾身の一撃を左手一つで難なく受けとめニヒルに笑う…はずだったのに…

 男の拳は僕の後頭部を直撃した(向き合う方向が逆じゃん!!)…どうやら僕は男と彼女の間に割って入れたのだが男の方に振り向くまでは至らなかった…

 ここで幸と不幸がひとつずつ突然重なって起こっていました!

 彼女を覆い被さるように庇う僕の頭部は後頭部を殴られた勢い余って徐々に女神様の顔面に近付く…本日2度目のスローモーションが始まる…女神様はユックリと瞼を閉じる(あ〜彼女のフローラルな香りが僕の鼻腔をくすぐる、キスする時って相手の顔がこんな風に映るんだ…女神様!罰当たりな僕をお許しください!)

 つい最近ネットで少年とモフモフ神様が恋に堕ちる小説を読んだんだ、良いじゃん!僕だって一か八か?百歩譲って?万が一にか!此れをキッカケに女神と恋に堕ちたって!


 僕と女神様の距離は彼女の呼吸を…息遣いを…感じる程に近づいていた…

 

 

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