カラスが鳴く日

朝からカラスの鳴き声が印象的な日だった。


その夜、息子が百貨店の催事で一万円ものセレブ買いをしてしまい、やらかした……と落ち込んで帰ってきた。


試食をどんどん進められ、店員のプレッシャーに耐えきれず、買わずには帰れなくなったと言う。最初は5万円分を買わされかけたらしいが、財布の中の有り金は一万円。その有り金全てのグラム数を買わされたというわけだ。


なんという悪徳店員か。見るからに貧乏学生の息子になんたる仕打ちだと、私は憤った。しかし冷静を装い、「これ、私が酒のつまみに買い取るわ」と、一万円を渡しておいた。


まんまと息子は試食の罠にハマってしまったのだ。

買わない意志をハッキリと言えない者がしてはいけない試食行為。

それも一つの勉強ということで笑い話にしながら、私たちはセレブ気分でその一万円もするナッツを頂いた。


夜が深まり、息子が喉が痛いと言い出した。体温を測れば微熱がある。知恵熱か? などと思いながら検査キットをしてみると、コロナ陽性。


私は考えさせられた。


今朝、玄関先で息子を見送る時、「忘れ物はない?」と確認した。息子は「大丈夫!」と自信ありげに玄関を後にした。


しばらくしたら玄関が慌ただしく音を立てた。


「パソコン忘れた!」と言って自身の部屋へと駆け込む息子に、「またかよ! しっかりしてよね!」と言わずにはいられなかった。

息子のパソコン忘れは小学生で言うランドセル忘れに相当するものだ。これで何度目だろうか。パソコン、財布、スマホ、学生証……。あらゆる大切なものをどれか一つ忘れてしまう特殊能力の持ち主だ。


「よく自分で気づけたね。そのままバス乗ってたらターミナルまでパソコン送り届けなきゃならなかった……」


そんな煩わしいことが過去に何度かあった。出勤前の朝の慌ただしさの中での余分な仕事はなるべく避けたいものだ。だからしっかりして欲しい。


「カラスが沢山いてさ、カーカーうるさくて振り返ったら、パソコンの鞄が無いって気付いたんだ。カラスナイス!」


「ほーう。さすがはカラスだね」と返しておく。


カラスは息子に、「ホントに忘れ物ないカ~!? 」と再確認させてくれたようだ。


そして今から思うと、その後の行動に気をつけろという警告であったのかもしれない。

その後息子は催事でカモられ、コロナになった。

なかなかに興味深い。

カラスの第六感って、素晴らしいな。



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