バカでも頭は捻らねぇとな
「引っこ抜く?わしらが、この巨体をか?」
ガランバンを見上げながら、ゼフトは肩をすくめてる。
「とてもではないが無理じゃろ。そのような算段が立つぐらいなら、わしらとて既に試しておるわ」
「まぁそうなるだろうな」
腰に手を当ててジジイと肩を並べながら、目の前の巨人を見上げてみる。上半身だけで余裕の10メートル越えとなりゃ、どこぞの大仏なんぞよりも遥かにデカい。
それだけに、ガランバンを引っこ抜くなんてこと自体、一度だって考えなかったはずだ。だが。
「もし引っこ抜けたなら、あんたらとコイツ、両方にとって得になんだぜ」
言い放った後、ちらりと横目でゼフトを見た。興味がある証拠だろう、フサフサの白い眉毛がぐいんと持ち上がってる。
「……聞くだけ聞いてやる」
思わずほくそ笑む。やっぱり食いついてきやがった。
「
「……相変わらず、小賢しい事をぬかしよる」
いちいちろくな口を利かないジジイだが、否定しないってことは図星に違いない。次はガランバンに話を付ける番だ。
「お前はお前で、俺らを『ぶっ潰してこい』って言われた手前、手ぶらじゃ帰れねぇ。ましてや、ここで穴にハマってたなんてのがバレちまったらどうだ」
「え……それ、多分めちゃくちゃ怒られる」
「だろうな。俺が魔王なら、まぁキレ散らかすだろうよ」
ちょっとだけ青ざめたデカいツラを見上げながら、更に続ける。
「お前とジジイ、どっちも手柄を立てなきゃいけねぇ。それでいて、お互い王都や魔王んとこにゃ戻りたくねぇ。そんなら話は簡単だ。どっちも戻んなきゃいい」
「……どういうこと?」
「今から筋書きを伝える。お前らはそれに沿うだけでいい」
ガランバンには今ひとつ意味が分かってないらしい。まぁ確かに、これからするのは、ゼフトとガランバンどっちの想定にもないだろう話だ。
「まずはガランバン。お前はここをぶっ潰そうとしたが、王国軍の反撃に合って失敗しちまった。だが、手ぶらじゃ帰れねぇと思ったお前は、どこかぶっ潰せる街を探しすことにして、王国中をうろつくことにした」
「……あとでもう一回言ってもらっても良いかー?」
「あぁ、構わねぇよ。何度だって説明してやらぁ」
次いで、さも偉そうに腕を組んでるゼフトに目を向ける。
「そんでジジイ。お前らはここに来て、たまたまガランバンと出会っちまった。戦ってどうにか追っ払うことにゃ成功したが、追撃の必要があると踏んで後を追っかけることにした。……これでどうだ」
「……なるほどの」
唸るように呟いたゼフトは、初めて見る顔をしてる。思わず口の端がニンマリ上がっちまった。
「ご納得いただけたみてぇだな」
「確かにその策ならば、わしらもガランバンも戻らずとも問題はない」
「そういうこった。ガランバンはほとぼりが冷めた頃に帰りゃいいし、あんたらも頃合い見て戻ったっていい。それまでどっかで好きなだけのんびりしろよ」
「じゃが、ひとつだけ引っかかるな」
「なんだよ」
そう聞いてみたが、ゼフトは「うむ」だの「その」だのとえらく歯切れが悪い。じわじわイラついてくる。
「なんだよ、残り少ない歯に物挟まったみてぇなよ。なにが気に入らねぇってんだ」
「残り少なくなんぞないわ。いちいちろくな口を利かん若造よ」
ついさっきの俺と同じようなことを口走った後、ゼフトはさも言いにくそうに続ける。
「お前の話でいけば、わしらは四天王の撃退に成功しとる。じゃが、ガランバンは魔王の命令に失敗しとる形じゃ。これでは、その……面子が立たんと言うか、少しばかり哀れに思えての」
もじもじしながらこぼしたゼフトを前に、つい口が開いちまう。
「なんだよジジイ……お前、ガランバンが可哀そうだって思ってんのか」
「か、可哀そうなどとは言っておらん!わしらと平等な形にできんものかと思っただけじゃ!」
「おぉ、そうかそうか」
顔を真っ赤にした反論を、ヘラヘラと半笑いで受け流す。
巨人見て孫を思い出しちまうような爺さんだ、基本的にひねくれちゃいるが、なんだかんだゼフトも性根が悪いってわけじゃない。
「だそうだが……お前本人はどうなんだよ」
「俺は特になぁんにもー。怒られるのはちょっとイヤだけど、いっつも怒られてるし」
「だそうだ。決まりだな」
そういや……と、ふと思い出す。
「なぁ、ガランバン。なんだってわざわざ地面の下から出てきたんだよ」
俺の疑問に、ガランバンは嬉しそうな顔でちょっとだけ胸を張る。
「なんで……って、びっくりするだろ?地面からでっかいの出てきたら」
「サプライズで身動き取れなくなってんじゃねぇよ」
思わずぼやいちまったが、流れとしちゃ悪くない。後は、コイツをとにかく引っ張り出しちまうだけだ。
「やっぱり、ここは『大きなカブ』方式じゃないかと思うんですよね」
俺らにゼフト、そしてガランバン。輪になった話し合いが始まって早々、カツが懲りずに人差し指を立てやがる。
そういえば、そんな童話だったか昔話だったかがあったな……おぼろげな記憶をひっくり返す。
「大きなカブ……ってあれか、爺さんが婆さん引っ張って、婆さんが犬引っ張るアレか」
「それ、ただ犬がしんどいだけですね」
「確かにな……おい、カブどこ行ったんだよ」
「今の話に出てきてませんよ」
まさかカツに突っ込まれるとは思ってもみなかったが、まぁ大体の話は分かった。
「つまりあれだろ、人海戦術ってヤツで一気に引っ張りゃいいんだな」
「そういうことです。まぁシンプルな話ですよ」
「ですが、少しばかり難しい話には思えますね」
まず意見を挟んできたのはリデリンドだ。
「ガランバン様のどこを引っ張ればいいのでしょうか」
「ふむ……確かに、腕を引っ張ったところで抜けるとも思えんの」
腕を組んでるボージーの隣で、ガランバンを見上げてみる。
今、地面から上に出てるのはガランバンの胸までだ。つまり、大体六割は地中に埋まったまま。腕やら頭やらを引っ張ったところで、うまいこと地中から抜けるとは思えない。
「となると、力づくで引っこ抜くってのは難しそうだな」
「周囲の地面を掘ってみるのはどうでしょう。身体との間に隙間ができたら、自力で抜け出せるかもしれませんよ」
「まぁ……そりゃそうだがよ」
飛田のおっさんの言いたいことは良く分かる。理屈だってきちんと通ってる。
だが、そのやり方だとあと何日かかるか分からない。そうなりゃゼフトたち王国軍もガランバンも、まだまだここに滞在する羽目になっちまう。
不眠でぶっ倒れるヤツが出ないうちに、両陣営にはとっとと立ち去ってもらわなきゃならない。
「引っこ抜くって
「そうだろうねー……ダコイーンだってニジンーンだって、やっぱり抜く時には上の葉っぱ持って抜くでしょ?あれと同じってことだもん」
「……大根とニンジンってことでいいんだよな、今の」
「ニジンーンの語呂の悪さ、半端ないですね」
フェリダの口から久々に謎野菜の名前が出たのはともかく、ゼニンも含めた二人のやり方が、普通に考えれば一番まともだ。
ただ当然だが、ガランバンがクソほどデカいってところがとにかく問題になってくる。10メートル以上もあるアイツを、更に上から引っこ抜く手段を考えなきゃならない。
「そんな都合のいい支度があるもんかよ」
ちっとも進まない話にイラ立ちながら、ぼんやり辺りを見回してみる。
だだっ広い平原、向こうの方に見える小さい森、振り返れば
「待てよ……あるじゃねぇか」
思わず口角が上がっちまった。珍しく今日の俺は冴えてる。
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