第9話 『夜道の赤子』

仕事が忙しくて帰りが遅くなった。

終電がある時間ほどには遅くはないが、駅からの帰り道はいつもより人通りが

少なく、自然と足早になる。

曇っていて月も出ていない。

道は暗いし、疲れた。


駅前まで差し掛かったが、何かおかしい。

終電までまだ本数はあるはずなのに、いつもより明かりが妙に暗い気がする。

スマホで時刻表を確認しようとした瞬間、ぬるりとした風と一緒に、

「おああ」「おああ」と声がした。


どんどん大きくなる不安の気持ちを抑えながら、足早に駅の方へ歩いていく。

最初はどこから声が聞こえるのかわからなかったが、だんだんと声の内容がはっきりしてきていた。


「かおまね」


完全に聞き取れたと同時に、駅に辿り着いた。

駅舎の中には大勢の人影が、正確には赤子を抱いた老若男女の姿があった。

おくるみに巻かれたどの赤ん坊も、私の顔をしていた。


「ばあ」


赤子は楽しそうに笑った。

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