霊に取り憑かれやすい駐在さんは、町の平和のために手段を選ばない

橘まさと

プロロ―グ

■旧門音小学校 廊下

 

 駐在員である僕は何故か夜の旧門音小学校の中に入っていた。

 普通に不法侵入だし、僕の担当区域外である。

 足を踏み出すほど、大正時代に建てられたという歴史を感じさせるギィギィという音がなった。

 ガタガタッと窓枠が揺れた音に驚いた僕は振り返る。

 懐中電灯等光が目立つものはもっていなかった。

 夜闇に慣れた僕の目だけが全てを知れる。


「誰もいない?」


 小さく呟くも、誰も答えてはくれない。

 ブブブとスマホが揺れる。

 着信を確認すると相棒の女子高生の名前が表示されていた。


「もしもし?」

『ちょっと、一人で先行しないでよ……お兄さんには霊に対する力は何もないんだからっ!』

「それでも僕は一人でやらなくちゃいけないんだ……これだけは、彼女だけは……」

『もしかして、すでに取り込まれて……はやく、そのば……』


 スマホからは声が消えて、ザザザーという砂嵐の様な音だけが聞こえてくる。

 霊感がない僕にもわかった。

 ……と。

 それもとてつもない何かである。

 ゴクリと唾を飲み込んで喉を鳴らした。

 再び、ギイギィとなる廊下を歩き、スマホの画面から発せられる光だけを頼りに歩く。

 廊下を大分歩いたと思ったが、先が見えない。


「見えない……なんておかしい、よね?」

”見えないもののの中にこそ、真実はある……”


 誰かの声が頭に響き、僕は慌てて周囲を見回した。

 汗が頬を垂れて、喉の上を通り胸元へ降りる。

 季節は10月だというのに、熱いくらいだった。

 ハァハァと息があらくなり、苦しい。


「XXXちゃん!」 


 僕は廊下の暗がりの中に見えた白いワンピースを着た女の子の名前を呼んだ。

 でも、それは言葉にならない。

 まるで、その子の存在が消えてしまったかのように……。


「XXXちゃんを離せ!」


 僕はワンピースの女の子の背後の闇が形作るバケモノに向けて、銃を撃った。

 携帯が許されている拳銃ニューナンブに仕込まれているのは、相棒にも黙っている特殊な弾丸。

 今日の様な依頼があった時のために用意したとっておきのものだった。


「グギャォォォゥ!?」


 闇のバケモノは銃弾を胸に受けるともがき苦しみながら消えていく。

 消えていったバケモノの手から逃れたワンピースの女の子が僕の方に近づいてきて、そっと抱きしめてくる。

 

「XX子ちゃん……、よかった。本当に良かった……」


 僕もその子を抱きしめて、これまでのことを思い返した。

 あれは、今年の4月……相棒の女子高生と僕が出会った時から始まる。

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