コトバノキョウシツ

@toto14

第1話

 小学校4年の1学期最後の算数テスト、20点だった。


 夏休みのクソ暑い中、厳格な警察官の父が横で週刊誌を丸め、三日三晩、狭い部屋で九九の特訓をしていたことを思い出す。特訓すればなんでも解決するとあの頃は、真剣に思っていた。今、「訓練的支援」なんて使い勝手のよいツールを駆使して働いてる。

 子どもと向き合う職についた自分が、その頃の自分にかける言葉があれば、なんだろうか。

 

「特訓」とは、「特別というより、得する訓練」と伝えるのだろうか。


 あの日、狭い部屋で親父と隣合わせて、この地獄は、いつまで続くのかと目を腫らして落ち込んでいた。満身創痍、僕は、父が疲れ寝床に入り、解放された時に、机に俯した。ふと、親父が丸めてもっていた週刊誌に目が行った。パラパラとページをめくると明らかに、間に折り目がついた、そう、まさにココを切らねば、中身が拝めない。踏み込んではいけない、そう、「聖域。」

 ボクは、「袋閉じ」と遭遇する。

 

 学校の中庭には、県の形をした池があった。長い県の真ん中に噴水があり、その噴水が学校のあるこの町を意味する。

 

 当時、ロサンゼルスオリンピックで、カールルイスが、走って跳んで大活躍だった。

 宇宙服を来た人間が空を飛び、テレビの前で宝石箱のようなキラキラしたアイスを食べながら興奮した。いつかは、カールルイスのように空を飛んでやる。そんなカールに自分はなると言い聞かせていた。


 ついにその日は、やってきた。「特訓」は重ねてきたつもりだった。放課後、1週間、近くを流れる川に通った。点々と水面に浮かぶ大きな石が岸から岸を渡る自分のジャンプ台に見えていた。川幅7メートル、石は5、6個。毎日、靴がビショビショになりながらもやり遂げた。そして、時は来た。


 縦5メートルの池の北側に颯爽とボクは現れた。時は、2時間目が終わった業間休み。小さな一年生が池を覗きこんだり、大きな六年生がふざけ、追いかけっこをしている。

 

 そんな中、僕は飛んだ、いや跳んだ。

跳んだはずだった。





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