第3話

 だけど、ある晩、ぼくは聞いてしまった。2人が話しているのを。

「ねえ、あなた、養子をもう1人迎えるのはどうかしらね?」

「そうだな、最近はサイトで探せるみたいだから、見てみようか」

「いいわね。今度は、女の子はどう? オリエント系の、クリーム色の肌の子」

「それはいいね」


 ぼくは、こっそりとその場を離れた。心臓がバクバク鳴っていた。これはつまり、ぼくが養子であることに周囲が反応しなくなって、だから新しい“ペット”を飼おうというなんだろうか、と思いながら。


       ***


 数日後、ぼくは“パパ”のパソコンの、閲覧履歴をチェックしてみた。それはとても簡単だった。ぼくはママに言ったんだ。

「明日が締切の宿題をやりたいのに、ぼくのパソコン、調子がよくないんだ。1時間くらいで終わるんだけど、パパのパソコンを使わせてもらってもいいかな?」

 ママは言った、パパが帰るまであと2時間はあるから、だいじょうぶよ、と。

「でもちょっと待ってね、アカウントを切り替えるから」


 しばらくして、パパの利用履歴が見られないよう設定したパソコンをママが持ってきてくれた。でも、ママは知らない。そんな設定なんて、ぼくは容易に解除できる、そしてそうと知られることなく元に戻すこともできる、ということを。そう、ぼくはこの分野ではかなり優秀なんだよ。


       ***


 そうしてぼくは、パパのパソコンの調べものの履歴から、里親募集のサイトを探り当てた。幸か不幸か、そのサイトは、絞り込みの履歴が残せるようになっていた。


 最初の絞り込み条件は、年齢:3歳から5歳。

 次に、性別:女の子。

 それから、人種:オリエント系。

 追加項目には、『軽微な身体的障がいを許容』とあった。


 この条件でヒットしたのは、2人の女の子。

 1人は5歳で、ぱっちりとした二重の目を持つ、大人びた子。名前はリアナ。左腕に障がいがあるが、外科的措置で完治可能とあった。

 もう1人は4歳になったばかりで、いかにもオリエント系の細い目の少女。名前はリリィ。左足に麻痺があるが、補助具を装着すればゆっくりながらも自分で歩くことが可能とある。


 もしもこの2人のうちのどちらかを家族に迎えるつもりなら、きっとリリィのほうだろうと、ぼくは確信した。だって、目に浮かぶようようじゃないか。一目で養子と分かる外見を持つ女の子。一家で外出したときには、きっと彼女の歩く速度は遅くて、ぼくたちから遅れ気味になる。パパとママ(そして兄のぼく)は、懸命に歩く娘(妹)を、忍耐強く、励ますように、笑顔を絶やさずに見守りながら待ってやる。

 そんな様子を見て、周囲のみんなが言うだろう。

「ご立派です」「素晴らしいですね」「なかなかできることではありませんよ」

 両親は、慎ましく謙遜の言葉を返しながらも、内心は喜びでいっぱいだろう-。


 …こんなことを考えるぼくの心は、真っ黒だ。きっと。

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