家族はホワイト、ぼくはブラック またはエキゾチックアニマルなペット
はがね
第1話
ぼくの祖先は、南の大陸のどこかの、暑い土地で暮らしていた。たぶん。だから、その環境に適応するべく黒い肌と縮れた髪の毛を獲得した。実に合理的だ。
だけど、ここみたいな北方の国に移れば、その色と形質とは合理性を失う。ただ、黒人という区分だけが残る。それがぼくだ。この国で生まれ育ったけれど、その区分から逃れられることは決してなかったし、これからも決してない。たぶん。
ぼくの“両親”は白人だ。陽光の貴重なこの土地に見合う、白い肌と、薄い色の瞳と髪を持つ。ぼくは7年前、3歳のときに、彼らの養子になった。
ある土曜日の昼下がり、ぼくがいた養護院にやって来た彼らは、そこに暮す大勢の子どもたちを見て回り、唯一黒い肌を持つぼくのところにやって来て言った。
こんにちは、可愛い坊や。今日から私たちが、あなたのパパとママになるよ、本当の親だと思ってね。愛している、と。
***
実際、“パパ”と“ママ”は、ぼくの面倒を実によく見てくれた。新品の服に靴、自分だけの文房具やサッカーボールも与えてくれた。どれも養護院では手に入れるべくもなかったものばかり。週末や長期休みには、遊びに連れて行ってくれる。それは今も変わらない。
そして、そうして出かける先々で、両親は知り合いはもちろん見知らぬ人からも、話しかけられた。
あら、その坊やは?と。
そのたびに彼らは応える。
「養子にしたんですよ。実の親を知らない可哀そうな子でしてね、だから私たちが、精いっぱいの愛情を注いで育てようと決めたんですよ」
相手は、必ず異口同音に2人に言う。「ご立派です」「素晴らしいです」「なかなかできることではありません」。それからぼくに向かって言う、「あなたは幸せ」「運がよかった」「いい子にして、うんと恩返しをしなくちゃね」—。
そんな彼らを、“両親”はにこにこしながら見ている。ときどき、「いえ、そんな、たいしたことではありません」「これはまあ、私たちのような恵まれた立場の者の、いわば当然の務めなのだと思っているんですよ」、などと言いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます