第2話  クーリングオフは出来ない

「聞いてない。」

人生には想定外の事が多くあるが、一つだけ言えることがあるとするならば契約書はしっかりと読むべきだと言うことだ。少なくともスマホのアプリではないのだから、婚約者をするための契約書はしっかりと読むべきだった。


「契約書には書いてましたよ。先輩」


「……小さい、詐欺じゃん」

極悪商品だったらしい。いろいろな物が小さく書かれていた、よく読むといろいろ言いたいところがあるが、ひとまず、目の前の事象から文句を言おう。


「そもそも何が嫌なんですか?美少女と同棲ですよ。嫌な理由があるなら教えてください。」

僕は彼女と同棲しなければならないらしい。紆余曲折いろいろな感情を考えた結果。めんどくさいということになった。


「嫌な理由はとりあえず3つある。」


「多くないですか?先輩」


「一つ目は、学校が遠くなる。朝起きるのがはやくなる。」

ここは、今の家よりも遠い。寝る時間が減るのが苦痛だ。


「……」

彼女は、無表情でこっちを見ていた。


「2つ目は、この家事の分担表が不公平。」

契約書には家事の分担内容があった。内容は、日米修好通商条約ぐらい不平等だった。


「……」


「3つ目は、良い家過ぎて緊張する。これをどうにか出来ない限り、婚約の契約のクーリングオフをしたい。」

こんないい家に住むのは何か気が引けた。家賃と食費が要らないと書いてあるのが逆に申し訳なかった。多少なら喜ぶが、多分1ヶ月は続くだろうから、凄く罪悪感を感じる。


「無理です。契約書には書いてあるので。それに、お父さんの条件なので。」


彼女の父親は何を考えているのか良く分からない。まあ流石にそんなことは言えないので我慢しつつ話を変えた。

「それにさ、婚約契約はそのうち破棄するんでしょ。だとしたらさ、戻るとき僕はどういう顔をして戻れば良いの?」

まあ、こういう問題もある。なんかうん、気まずい。


「……その時は、私が一緒に事情を説明に行きますから。めんどくさいですね。それに、先輩、しばらくは戻れないと思いますよ。」


「何で?まだ荷物も何も運んでないから。」


「……運ばれてますよ。」


「うん?いつ?」

シンプルに意味が分からなかった。


「先輩が、高級料理を人の金で食べれるってお見合い会場ではしゃいでた時です。」

それには語弊があるが、折角の料理だからって食べてた時か。あの時か、なるほど、やられたな。


「……なんで黙ってたの?」


「だっていったら先輩は反対するから、私は父の頼みは成るべくききたいので。余命も僅かですし。」


「……そう。」

これ以上。何かを言えるわけが無かった。


「ということで、先輩よろしくお願いします。」


「どういうこと。」


「とりあえず、先輩、今から、掃除と洗濯と料理をお願いします。」

彼女はそう言ってニコニコ笑っていた。


「……おい。」


「もう、冗談です。流石に一緒にしましょ。」


「……」

家事苦手なんだよな。テンションを少し下げつつ、彼女の後を付いていくことにした。


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不思議でウザい後輩と婚約者のフリをすることになった 岡 あこ @dennki

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