思い出の味

第08話 やっぱり違う

 ありがたいことに、喫茶 めいどには今日もたくさんのお客さんが入っている。


 今は夜ご飯としてちゃんとした料理を注文する人が多い。


「次それお願いね。カウンター席のお客さん」


 みな先輩がフライパンから目を離さずそう言った。

 いとか先輩は洗い物をしている。


 私は「わかりました」と返事をして、オムライスと卵サンドを手に取る。



 喫茶 めいどには厨房が2つある。

 コーヒーや紅茶を淹れるカウンターを面している厨房。


 そして、カウンター内の奥にある本格的な調理をする用の厨房。

 調理用の厨房はお客さんからは見えない間取りになっている。



 調理厨房から料理をもってカウンター内に戻る。

 注文を待っているのは親子らしき2人。


 私は「お待たせしました。ご注文のオムライスと卵サンドです」と言いながら、料理を親子の前に置く。


 オムライスが母親らしき人、卵サンドは娘さんだったらしい。


 娘さんと言っても、多分私より年上。

 もう就職してそうな雰囲気のお姉さんだけど。



 私の年齢は死んだときで止まってるけど。

 だから私は永遠の高校生。


 ……


「ご注文は以上でお揃いでしょうか」


 私がそう聞くと2人は「大丈夫です」と返事をしてくれた。


 さて、じゃあ次は…。

 そう考えながら調理厨房に戻ろうとしたとき。

 「お会計お願いしま~す!」という声が聞こえた。


 私は「は~い!」と返事をしながら、お店の出入り口近くにあるのレジに移動する。


 その途中、さっきの親子の会話が耳に入った。


「お母さん、またオムライス頼んだの?」

「だって気になるのよ」


 ……どういう意味だろう。

 まぁ店員の私には関係ない。


 そう思いながらレジにたどり着いた。

 カップルらしき男女が私を待っている。


 私はテキパキとレジ対応をする。

 注文の品を打ち込んで、金額を出す。

 そしてお金を受け取って、清算して、お釣りを返す。


「「ご馳走様でした」」


 2人の男女はそう言いながらお店から出ていった。


 私はその背中に「またのご来店お待ちしてます」と声をかける。


 扉が閉まった。



 ふと時計を見ると、ラストオーダーの時間を過ぎていた。

 もうこれ以上お客さんは増えないはず。


 私はさっきのカップルが座っていたテーブルの掃除に向かう。

 まずは食器類を纏めて調理厨房に運ぶ。


 いとか先輩はまだ洗い場を使っていた。

 …閉店準備も始めてるのだろうか。


 とりあえず私は隣まで来て声をかける。


「いとか先輩、これお願いしてもいいですか」

「ん。置いといて」

「ありがとうございます。お願いします」


 私はそう言いながら、テーブル用の布巾を持って厨房を出る。


 そして、さっきのテーブルに戻ってテーブルを拭く。


 流石にホールはまだお客さんがいるから片付けれない。

 とりあえず厨房に戻ろう。


 私は布巾を持って厨房に戻る。


 カウンター席の近くまで来たとき、さっきの親子の会話が聞こえてきた。


「やっぱり違うわね…」

「いや、お母さん。もういいから」

「でも私も気になるのよ」


 女性の手元を見るとオムライスは半分ほど食べている。


 …何か不味かったのかな。


 その言葉の意味が気になってしまった私は「あの…何か不備がありましたでしょうか」と声をかけた。


 店員からの突然の声掛けに2人の女性は固まってしまった。

 私は続けて言葉を発する。


「すみません。盗み聞くつもりはなかったんですけど、気になってしまって。

 オムライスに何か不備などありましたでしょうか」


 私がそう聞くと、親子は少し気まずそうな声を出しながら顔を見合わせる。


 先に口を開いたのは母親らしき人。


「すみません。オムライスは美味しいです。

 ただ…ちょっと探してる味じゃないなって話をしてたんです」

「探してる…味?」

「これはうちの家族の話なんで、お姉さんは気にしないでください」


 娘さんらしき人がそう言った。


 そう言われるとこれ以上は聞きづらい。

 そう思ったとき、調理厨房から声が飛んできた。


「せっかくなんで聞かせて頂けませんか?

 もうすぐ閉店時間で、他のお客様はいなくなるので」

「そうそう。うち、ちょっとしたお悩み相談的なことも受け付けてますので

 まぁ…聞くだけになるかもしれないですけど」


 みな先輩といとか先輩がそう言いながら調理厨房から出てきた。


「じゃあ…聞いてもらおうかしら」

「お母さん!?」

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