第80話
ユキは、私が本当に欲しいものを与えてくれる。
ユキは、驚くほど美しい女だ。
男なら、誰だって己をリスクに晒してでも手に入れたいと欲するだろう。
そういう男同士の戦いならば、真っ先に私程度の男など脱落する。
戦いに打ち勝った男は、ユキの何を求めるのか?
無論、その美貌だろう。
だが、それだけか?
私は違う。
私もまた、ユキの美貌に惹かれた愚か者の一人だ。
だが、うつくしい心の色も同時に感じた。
ユキは愚かな私の話を聴いてくれた、そしてしっかりと受け止め、本当に優しい言葉をくれた。大切な自分の時間を削ってまで、自然で心優しい言葉をくれる。
私は気がついた。
私が欲しかったのは、ユキが楽し気に話す、何気ないこと。
その時その時、「ユキは、今楽しいんだなぁ」と感じられること。
私は日々の、そういうユキの心の色が輝く瞬間を感じたい。
・・・そう、私はこの世で最も強欲な男だ。
美しいユキの、美しい心の色をずっと感じていたいのだから。
だから、ユキが辛いときは自分勝手な考えだが、それを半分背負う気持ちでいたい。
ユキが、それを知らずとも。
だからこそ、己の醜さや欺瞞を曝け出し、他者に嗤われながらも、可能な限り向き合い、失敗し、後悔し、それでも余計な心の荷を下ろした、本当に素直な気持ちでユキに向き合う努力を続けようと決めた。
・・・こんな、生きる力を失いかけた初老の冴えないオッサンのどこに、こんなエネルギーがあったのか不思議だ。
きっと、それはユキの生命の輝きが、私を照らしてくれるからだ。
昨日が在って、今日が去り、明日へ続く。
生きていく事は、夢のような出来事ばかりではない。
だが、それが続く限り、私は私のやるべきことをやらねばなるまい。
これは、私にとって、毎日、心新たに決意すべきことだと思う。
そして、決して悲壮な覚悟などではない。
優しくなれれば、心は軽やかになるのだから。
それを、ユキは与えてくれた。
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