第37話

私だけ、なのかもしれないが、

人間というものは、ほとほと欲望の強い生き物だ。

一つが満たされれば、それはすぐさま次の獲物を狙う。


単に生きる為なら、食って寝られればいい。

でも、それだけでは物足りない。


そういう欲とエネルギーが、良い方向に向いているのが成功者、ロクなことに向かないのが私のような冴えないオッサンだ。


そもそも、昔から欲望は強いのに、粘り強いエネルギーが枯渇気味だ。もともとあまりチャレンジ精神などなく、怠惰な生き方をしていたせいもある。


こうして冷静に考えてみると、なぜ今私がこんな程度の男なのか、スッと腑に落ちる。



とはいえ、いまさら取り立てて向上心などもない。

私はできるだけ軽やかに、楽ちんに、時を過ごしたいだけなのだ。


本当の自分を偽って、取り繕うと葛藤が生まれる。

それは、アクセルとブレーキを同時に踏み込んでいるようなものだ。


だから、ユキという、偶然出会った最高の女性に、できるだけ本当の心と姿を見せようと思った・・・できればしたくないが、失敗も含めて。


そうすることで、私が少しでも軽やかになれるなら、いずれユキにも「こういう方法もあるんだよ」と教えてやりたい。


・・・反面教師になる可能性の方が、ものすごく高いけど。








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