第10話
昼間は、冴えないサラリーマンのようなことをして稼いでいる。
その時の私は、気楽でテキトーで陽気な男だと言われることが多い。
まぁ、確かに女性の多い職場だが、確かにあまり抵抗なく接しているかもしれない。彼女たちも、ありがたいことに私のバカさ加減をあきらめて、それなりに親切に接してくれる。
ただ、本来の自分は、女性との接し方は下手だと分かっている。
それでも陽気に振舞えるのは、特段、誰にも好かれたり愛されずとも良いという、私本来が持つ少々暗い諦観ゆえなのだと思っている。
職場の飲み会などが催されても、基本私は出ない。
ああいう場は、私にとって居心地が悪いのだ。
とはいえ、断る際、
「あ~、今回は地底から地底人が出てきて・・・」
などという、ふざけた理由を口にすることが多い。
そのせいか、
「なんで?お祭り男じゃない?」
と、誤解する女性もいる。
職場では、本来の姿を見せたことがないから・・・なのだろう。
確かに、無理に明るく振舞っている訳ではない。
自然と、そういう態度が出るのだから、明るく見える面も私にはあるのだろう。
だが、こうやって少し暗い語り口で、ボソボソと言葉を紡ぐ時の私が、多分私の本性だ。
ユキは、私がこうやって、自分のためだけの趣味として書く、面白くもない文章のため、資料収集や整理の手伝いとして、知り合いから紹介され、何日かそれを手伝ってもらった。
最初、その美しい容姿に驚いたが、それ以上にかなり優秀で、安いバイト代で随分と働いてくれた。万が一、私が大金持ちなら、専属の秘書で雇いたいくらいだったが、無論、そんな甲斐性は私には無い。そもそも私程度には相応しくないだろう。ありゃ、高嶺の花だ。
別に、相性抜群ですぐに打ち解け、話が盛り上がった訳ではないが、私の要領を得ない指示をすぐ理解してくれたし、何か楽しく盛り上がるのとは違う意味で、話しやすさがあったのは事実だ。
だから、無理に明るく振舞う必要も無かった。
それ故か、今まで他人には決して話すことの無かったことを、スッと話すことが出来たりもした。あれは、今思っても不思議なことだ。
ほんとうにありがたかった。
短期アルバイトを終え、ユキは、少し落ち着いたら別のアルバイトに就くと言う。
一応、連絡先だけは交換させてもらった。
短期間のしかも安い報酬でのアルバイトだ。
ユキには何の義理も無いはずだが、結構気軽にメールをくれる。
最初、バイトを終えた時、「いろいろごくろうさま」という気持ちだったが、この美しい女と別れがたい・・・などという、湿っぽい気持ちはなかった。
むしろ、元気でやれよ!といった気分だったはずが、翌朝随分と気持ちが沈んでいたのが意外だった。だから、ユキからのメールが来た時、情けないことに、本当に救われた。
何気ない、普通の言葉・・・それがとてもよかった。
多分、私の返信の
ユキと私の相性が良いなどと思いあがったことは考えてはいない。
気さくで、誰に対しても、そういう風に振舞っているのだろう。
別に、自分のためにユキの自由を束縛したいなどとは思わない。彼女は、彼女がやりたいようにやって、時折気軽に話しかけてくれればいい。
それがとても心地よい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます