第8話

私が、年長者としてユキに言ってやれることが、いくつあるんだろう?


きっと、ないだろう。

私は、そんなご立派な生き方はしていないからだ。


世の中の価値観での、善悪や尊卑の常識とやらがある。


でも、私はそんなもの信じはしない。

そんなものは、素直で自然で、健全な心が生んだものではないからだ。


もし、こんな私に、人とは違う勘があるとすれば・・・

その人の放つ心の色が、ごく稀に見える事かもしれない。



子供の頃、その勘は、無かった。

勉強をして立派な職に就き、栄誉と富を得る。

それが立派な人間だと、刷り込まれてきたからだ。

だから、虚栄心も自己顕示欲も強かったと思う。


だが当然、才能の無い私は、そのどれにもなれなかった。

とはいえ、職だけはごく平凡な、平均的な仕事に就いた。

それとて、ただ、食うことと、幾ばくかの楽しみを得るための稼ぎの手段だ。


自分の器や分際を知ると、

自分の醜さを自覚したうえで、愚かな行動を取れるようになると



・・・今まで見えなかったものが見えてくる。



初めてユキに会った時、「ほんとうにきれいだな」と感じた。

そして、短い日々で思ったのは、この子には健やかな強さがある、だった。

今、思うのは、正直な尊敬と敬意、そして感謝。


毎日明るく笑って欲しい・・・という、私の身勝手な願いだ。


大丈夫だと思う。

私なぞが、なにもせずとも。


ずいぶんキザな言い回しだが、たぶん真実なので、しかたがないよ。







ごめんね  でも  ありがとう







これがせいいっぱい


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