噓つきはどちら

Storie(Green back)

第1話 私の天職

バシャっ


派手に水のかかる音がした。視界で自分よりずいぶん年上のこの街に似合わない女が、こちらの向けてまぁ怖い目を向けている。ポタリと染めたばかりの前髪から、一粒しずくが落ちた。


「この、悪女が」



「うわーまた派手にやられたねぇ」


店長がかいがいしくタオルを渡してくる。髪が痛まないように、ゆっくりふき取ると仕事の卓に向かって歩き出した。客が待っている。そんな私を止めることもなく、店長はひらひらと手を振った。


「やられたからにはしっかり金巻き上げろー」


「当たり前でしょ、この服高かったんだから。倍は貢がせますよ」


ナンバーワンキャバ嬢美紅ちゃんの仮面を張り付けた私は、好きでもなんでもない男のもとへ値段が付く笑顔で向かう。疲れたにおいのする男の横に腰かけた。


「ごめんね、周作さん。ちょっとお呼び出しされちゃったんです」

「いいよー、あれ髪濡れてない?大丈夫?」

「ちょっとー触ったらだめですよー」


鼻の下をデレデレと伸ばす、嫁子持ちのこの男に、角度もすべて完璧な私の笑顔。

この人の嫁の顔が浮かぶ。何歳になっても男の勝手に振り回されるのは女だ。

女を鬼にするのは、男だけだ。


「悪女ねぇ」

「ん?何か言った?」

「ん?なんでもないよ。それより今日のスーツカッコいいねぇ」


どこの誰?そんなの私の人生に関係ない。

家で嫁が待ってる?そうですか、こっちは生活がかかってんだわ。

家に帰れなんて言ってやんない。なんでかって、こいつらの人生は私には関係ない。

俗世と離れた夢の街、それが歌舞伎町だ。


一人で生きていく。そう決めた。

私は私のために生きる。誰かのために、心を使ったりなんてしない。

この目の前にいる男に情なんてわかない。その家にも、その生活にも興味はない。


そう私は悪女だ。

誰かの幸せを食って、金に換えて、誰かの涙を、この綺麗な服変えている悪女。

でもそれが私の生き方。これが私の天職。

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