シリウス
伊香輪 心陽
第1話
いつからだろう。貴女の表情がよく分からなくなったのは。
貴女と話す時に息が詰まってしまうのは緊張しているのだろうか。
こんなにも貴女との距離を感じてしまうのは一体、何故だろう。
私の記憶の中で最も古い貴女との記憶は、貴女の部屋で、その時ハマっていた化粧品の話をしていた時だ。貴女はまだ幼い私が「これなぁに?」
と尋ねると、笑って「これはね、」と話してくれた。この時は私のことを妹のような存在か、もしくはただの従姉妹とばかり思っていたと思う。
その後、しばらく会えなくなって、久しぶりに会ったと思えば、貴女は芸能界に興味があると言っていた、というか母から聞いた。
わたしの憧れていた世界だった。母に「アンタには無理ね。」と言われていた世界に貴女は私にだけ言わず、飛び込もうとしていた。
周りは皆、貴女に「才能がある」「美人でスタイルもいいし、完璧だ」と声をかけていた。
初めて、貴女に腹が立った。
とあるオーディションを受けてから、貴女は一躍有名人になった。テレビで特集が組まれていたり、雑誌やテレビ、SNSでよく見る人となっていた。
私はいわゆる、『有名人の親戚』というポジションになった。仲の良い友達に少し話すと、瞬く間に噂が広がり、クラスメイト達には羨ましい、とよく言われた。
それはあまりいい気がしなかった。
それからまた数ヶ月が経ち、母にもう一度だけ、私もオーディションを受けて見たいと話した。返ってきた返事は似たようなものだった。
「何?またあの子がデビューしたから、影響されちゃった?アンタは華のある顔じゃないし、受けてもどうせ、書類落ちするわよ。」
と鼻で笑われた。
その時、産まれて初めて、母の頬を叩いた。
貴女の今まで努力があって、今その道を歩んでいるのは分かっているし、夢を掴んだ今、人前に初めて立って精神的にやられているのも知っている。従姉妹として、普段の貴女を知る人として体調を壊さないか、気を病んでしまわないかと心配だ。
でも、この泣きたくなる気持ちはなんだろう。貴女の顔を見たくないと顔を背けたくなるのは、話す時に私にだけ冷たいと感じてしまうのは何故だろう。
それはきっと焦りだ。嫉妬だ。もっと表現できない気持ちも中にはある。いろんな気持ちが渦巻く中、私はまた深夜のリビングで、泣いた。
そして、YouTubeをつける。貴女の声がする、流行りの曲を聞いて、歌って踊る。誰も見ていない、電気のついていないリビングで、YouTubeの画面だけが小さく光っていた。
時刻は26時14分だった。
シリウス 伊香輪 心陽 @koharu-1127
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