Transparent ─トランスペアレント─

高那りょう

第1話「楽な生き方を見つけた。」

あれは中学の頃。


小学校からずっと仲良しだった友達と喧嘩した。いや、喧嘩というより僕がやらかしてしまっただけだ。


僕は普通に会話をしてただけだと思っていたけど、気づかない間に言っちゃいけないことを言ってしまったらしい。


あの時の友達の表情は忘れない。笑顔が一瞬にして怒りへ変わった。


僕はすぐに謝った。でもそんな簡単に許してはくれなかった。当たり前だ。


だけど僕は心から反省している。もう一生こんなことにはしたくない。もっと人の気持ちを考えるべきだ。


僕はとにかく謝り続けた。


そして数週間経ったとき「分かったよ。でも次からは気をつけて」と返事をしてくれた。僕は嬉しかった。


これで前みたいに仲良くできると思った。楽しい日々を送れると思った。


でもそう上手くはいかなかった。


『あいつ、やばいらしいよ』


『なにそれ、怖すぎ』


『同じクラスとか最悪』


気づけば色んな噂が広まっていた。最初は僕が友達に言ってしまった事実だけが広まった。それに関しては僕も反省してるし、友達からも許してもらったから大丈夫。


でも今度は、僕がやってないことまで噂として学校中に流れ始めた。


『友達を殴った』『暴言を吐き散らかしている』『小学校の頃は問題児だった』


これでもかというくらい噂が流れた。しかもほとんどの人がその噂を嘘だと思っていなかった。


一応、一部の人は「本当かどうかは分からない」だとか「噂を広めるのはやめよう」とか言ってくれた。でも結局、噂は広がり続けた。人から人へ、まるで感染症のようだ。


「……あの」


それからは声をかけても無視、無視、無視。


声をかけても相手にされず、周りからは人がいなくなった。


ただそんな中でも、和解した友達なら分かってくれると思った。どこまでが本当で、どこまでが嘘か分かっているはずだから。


しかし、言われた言葉は求めていたのと全く違うものだった。


「ざまぁみろ」


そう吐き捨てられた時、僕は何もかもを諦めた。


『もう僕は誰にも必要とされていない』


学校では無視されて、まるで透明人間のような気分だった。友達も失って頼れるものは何もなくなり、僕はただ『生きる』ことだけを考えた。


といっても何のために生きてるのかも分からなくなってたけれど。




そして気づけば僕は高校生になっていた。高校は中学の人と一緒になりたくなかったから、遠い学校を選んだ。


これでやっと地獄のような日々から解放される。


やっと透明人間にならなくて済むんだ。そう思った。


でも初日に気づいた。結局何も変わらないのだということに。


周りは仲良しだった友達とグループを組み始めた。当たり前だ。わざわざ僕みたいに知っている人がいない学校に来るはずがない。


本当は声をかければ良かったんだ。適当に自己紹介でもして『これからよろしく』って言えば良かった。


でも中学であんなことがあった僕には無理なんだ。


だって『人が怖い』から。


結局、僕は友達が欲しいとか思いながらも自分では何もしない意気地なしだ。


「もう、一人で生きていこう」


そのとき僕は、改めて『透明人間』として生きていくことを決めた。


誰にも相手にされず、誰にも見られない。


逆に僕は誰のことも見ないし、誰とも向き合わない。




なんだかんだこれが一番楽な生き方なのかもしれない。

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