第41話「なかなか挑発的な表情ね」
道行く人々、誰もが振り返る・・・そんな言葉を、まさに今実感しつつある。
とにかく周囲の視線がすごい、ドレスアップした綾乃様の魅力は絶大だ。
「おお、あれが姫ヶ藤の姫か・・・」
「いや、今年って姫はいないんじゃなかったか?該当者なしだとかで・・・しかし美しい」
「知らないの?二階堂家の綾乃様よ・・・ああもうっ、じろじろ見ては失礼よ」
「ママー、お姫様、お姫様がいるー」
綾乃様の姿が人目を惹くとは思っていたけれど、地域住民始めとする外部の入場者が入ってきてからは、それはより顕著になってきた。
彼らと比べて、学園の生徒達はなんとわきまえていた事か。
ピピピ・・・カシャカシャ
なんかあちこちからスマホやカメラの音が聞こえてくる。
それらが全部、綾乃様に向けられたものではないんだろうけど・・・カメラのいくつかは確実にこちらを狙っているようだ。
いくら綾乃様が綺麗だからって、何の許可もなく撮影するのはやめてほしい。
「もっとこっち向いて、こっちに目線お願いします!」
うわ、図々しいのが・・・綾乃様が怖がっちゃうでしょーが!
「ちょっと、いい加減に・・・」
「はいはーい、許可なく生徒を撮らないでくださいね!」
「これ以上はカメラ没収になりますよ」
そう言って止めに入ってくれたのは、腕章をつけた生徒達2人だ。
風紀委員・・・じゃない、報道って書いてあるからたぶん新聞部の人だ。
「あ、ありがとうございます」
「いいっていいって・・・その代わり、私達には写真を撮らせて貰えると嬉しいんだけど、良いかな?」
そう尋ねてきたのは背の低い女生徒・・・たぶん先輩なんだろうけど、頭1つ分くらい低いので中学生か、はたまた小学生と言っても通用しそうだ。
「え、ええ、構いませんけれど・・・新聞に掲載されるんですか?」
「やった、ありがとう!新聞に載るかはまだ未定だけど、出来れば載せたいと思っているわ・・・八丈、カメラ用意」
「はい」
八丈と呼ばれたもう一人は男子生徒だ。
彼女とは対照的に背が高く・・・言っちゃ悪いけど老け顔だ、教師に混ざっても違和感ないかも知れない。
大きな箱のような物を肩掛けベルトで提げていたんだけれど、それを開けてカメラを取り出した・・・物は知らないけど結構本格的なやつに見える。
「私は新聞部部長の七尾 菜々香(ななお ななか)、あまり時間を取らせては悪いし、さっそく撮らせてもらうわね」
八丈くんがカメラを綾乃様に向けて構える。
あ、私達は邪魔になるから下がっておこう・・・
フラッシュの光を受ける綾乃様はまるでトップモデルのよう。
うんうん、やっぱり綾乃様は絵にな・・・あ、綾乃様?!
「なかなか挑発的な表情ね、やはりそのドレスは来年の姫祭を意識して?」
「え?」
おそらく緊張のせいだろう、今の綾乃様はすっかり悪役顔になってしまっていた。
ドレス姿も相まって、すごい威圧感を生み出している。
これじゃあまるで・・・
「まさに挑戦者求む!って感じ・・・いや、どんな強敵が現れても自分が姫に選ばれて見せる、と言ったところかな・・・」
「そ、そうかしら・・・」
「ええ、綾乃さんのやる気が伝わる1枚になったんじゃないかと・・・せっかくだから来年に向けて何か意気込みとか聞かせてもらえるかしら?」
「え、ええと・・・その・・・」
うわ・・・綾乃様はもう緊張でガッチガチなのに、コメントとか求めてきた。
綾乃様の目が泳いでる・・・が、がんばって綾乃様。
必死に目線で応援するも、綾乃様は緊張したまま。
「あ・・・あ・・・・」
「綾乃さん?ひょっとして気分が?」
綾乃様が壊れたロボットみたいになってきた。
なんとかこの状況を変えないと・・・くっ、こうなったら・・・
「あー、綾乃様ばっかり写真撮ってもらって羨ましいなー、私達も撮ってほしいなー」
「えっ?これは新聞に使う写真だから、そういうのはちょっと・・・」
空気を読まずに私が写真をせがむと、先輩はたちまち嫌そうな顔になった。
そりゃ嫌だろうね、私だって嫌だ。
でもこれで話の流れはスッパリ切れたはず・・・名付けて「めんどくさいお友達作戦」
こうやって時間を稼いでいるうちに綾乃様に体勢を立て直してもらおうという作戦だ。
「えー、1枚くらい良いじゃないですかー、私1度で良いから、そういう本悪的なカメラで撮られてみたかったんですよー」
「いやそう言われても・・・」
「けちけちしないでくださいよー、部長さんなのに器がちーいーさーいー」
「ちょっと、右子?!」
「綾乃様・・・今のうちに・・・コメント・・・」
「!!」
わけがわからず困惑する綾乃様だったけど、私の狙いを察してくれた左子が耳打ちしてくれた。
さすが左子、双子ならではの以心伝心ってやつだね。
「ああもう!ダメなものはダメって言ってるでしょうが!」
「そこをなんとか!なんとかしてください!」
「なんともならないから、無理ったら無理!いい加減諦めなさいよ!」
「や、無理って言うのは嘘つきの・・・」
「もういいわ右子」
とにかくゴネてゴネまくろうとしていた私の肩を、ぽんと綾乃様の手が叩いた。
振り返ればそこにあるのは穏やかな表情を浮かべた綾乃様・・・よかった、いつもの綾乃様だ。
粘った甲斐あって、綾乃様が立ち直る時間は充分に稼げたようだ。
綾乃様に場所を譲るように、私は後ろへと下がった。
綾乃様にさっきまでの緊張の色はない、この様子なら新聞用のコメントも考えてあるんだろう。
綾乃様は新聞部部長の菜々香さまに向き合うと、ゆっくりと頭を下げた。
「菜々香さま、私からもお願いします・・・1枚だけ、1枚で良いのでこの子達も撮って戴けませんか?」
「え・・・」
「あ、綾乃様・・別に私は写真を撮りたかったわけじゃなくてですね・・・」
ちょっと綾乃様?!
ひょっとしてこれが時間稼ぎだって事が通じてない?綾乃様の中では私の行動は素で、左子がとっさに機転を利かせたみたいな事になってるの?
「わかってるわ右子、私の為に気を使ってくれたのよね?」
「綾乃様・・・」
よかった、コスプレ姿で写真を撮れとゴネてる痛い子に思われてなくて。
じゃあなんで綾乃様はそんな事を・・・
「写真はね、私が撮りたいの・・・菜々香さま、この二人は私にとって欠かせない存在なの・・・もし来年、私が姫に選ばれたとしたら、それはきっとこの二人の支えがあっての事だと思います」
「・・・ふむ」
綾乃様の言葉を受けて、菜々香さまは妙に神妙な顔をしてこちらを見つめてきた。
や、「ふむ」とか言われても・・・なんか怖いんですけど。
「八丈、カメラ貸して」
「え、部長が撮るんですか?!」
菜々香さまはひったくるように八丈くんからカメラを奪うと、こちらに向けて構えた。
その小さな身体に不釣り合いな大きさのカメラは、意外なほど菜々香さまに馴染んで・・・大柄な八丈くんよりも似合っているような気がする。
「ほら、ご希望通り撮ってあげるからもっと寄って・・・このままじゃ3人入りきらないわ」
「え・・・あ、はい」
「まだ遠い、綾乃さん2人の腕取って腕!そう、そのまま引き寄せる感じで・・・」
有無を言わせぬとはこの事か。
菜々香さまに言われるまま、綾乃様に引き寄せられ、私と左子が綾乃様に密着する。
綾乃様を中心に3人で腕を組んだような状態・・・なんか結構窮屈な感じがするんだけど・・・いったいどんな写真を撮るつもりなのか。
「右の人、嫌そうな表情しない!綾乃さんと一緒に撮られるのが嫌みたいに見えるわよ」
「え・・・嫌、なの?」
「いやいや、って・・・嫌って意味じゃないですからね!ちょっと窮屈なだけで・・・って綾乃様、この姿勢つらくないですか?」
「ううん私は大丈夫よ、少し引っ張りすぎたわね、ごめんなさい」
そう言いながら、私の腕をつかんでいた綾乃様の腕が緩められるのを感じた。
体勢的には一番つらそうな状態の綾乃様だけど、表情に出ることはなく・・・むしろその表情はとても・・・
パシャ
「ふぇっ?!」
「良いわ、その表情もらったわよ」
不意打ちのようにシャッターが切られた。
え・・・こういうのって「はいチーズ」的な合図があるものなんじゃ・・・今私どんな表情をしてたっけ・・・
たしかに綾乃様の顔はとても綺麗だったけど、私だけ馬鹿みたいな顔してたりしない?!
今の写真で満足したのか、元々1枚しか撮る気がなかったのか・・・菜々香さまはカメラを八丈くんに返してしまった。
「一応確認するけど、綾乃さん、今撮った写真を新聞に掲載しても良いかしら?」
「うぇぇ?!」
よほど今の写真が気に入ったのか、菜々香さまはそんなことを言ってきた。
どんな馬鹿顔を晒してしまうかわからない私としては、勘弁願いたいんだけど・・・
なんとか断ってほしい、という私の願いは綾乃様に届くことはなく・・・
「ええ、構いません」
「ありがとう、仕上がりを楽しみに・・・ああもうこんな時間だわ!八丈、動ける?」
「はい、いけます」
時計が目に入ったのか、菜々香さまは急に慌てだした。
やはり姫祭ともなれば取材するものが多いのんだろう、新聞部の活動は忙しそうだ。
ケースにカメラを仕舞い終えたらしい八丈くんが立ち上がるのを待つのももどかしそうだ。
「お忙しい中引き留めてしまってごめんなさい」
「気にしないで、その分良いの撮れたから・・・じゃ私達はこれで!」
「失礼します」
次の目的地へ駆けだしていく菜々香さま。
八丈くんはぺこりと一礼してその後に続いていく。
後に残された私達3人は腕を組んだままそれを見送って・・・あれ、撮影は終わってるんだけど・・・
なんかさっきよりも周囲の注目を集めているような気が・・・
「あ、綾乃様・・・そろそろ手を放してもらっても良いですか?」
「あっ、ごめんなさい」
「・・・むー」
言われてようやく気付いたらしく、綾乃様が慌てて腕を離した・・・なんか左子が不満そうな顔してるけど、こういうのはダメだからね、綾乃様の品位とか品格に関わるんだから。
綾乃様も恥ずかしさで頬を赤くしているし・・・とりあずこの場からは離れた方が良さそうだ。
「綾乃様、お昼にはちょっと早いですが、うちのクラスに行きませんか?」
「2人のクラスはたしかハンバーグのお店なのよね?どっきりビッキーみたいな」
「ん・・・綾乃様に最高のハンバーグを・・・焼いてあげる」
「左子、そんな事したら借り物のドレスを汚しちゃうでしょ」
「むー」
綾乃様のためにやる気を出す左子を窘める。
その気持ちはよくわかるんだけど、今は我慢してもらうしかない。
「そもそも今日の私達はお休みなんだからね、ここは流也さまやクラスの皆を信じて任せるべきよ」
「ん・・・姉さんがそう言うなら・・・」
しぶしぶながらも承諾してくれたようだ。
調理班がヘマをしないように祈るばかり・・・まぁ流也さまがうまくやってくれると思うけど。
ゲームでの逆メイド喫茶も、一見傍若無人な俺様的出し物に見えるけれど、流也さまが器用に立ち回ってお客さんを満足させちゃうんだよ。
今回流也さまが執事役として綾乃様にどう接するのか・・・個人的にすごく気になっている。
あの流也さまが綾乃様にかしづく姿とか、この機会を逃したら二度と見れないんじゃなかろうか。
執事役の演技のつもりが本気で綾乃様にお仕えしたくなったりして・・・ふふ、その時は私と左子でみっちりと指導してあげないと・・・
「さぁ綾乃様、こちらです」
「もう右子ったら、教室には前にも行った事あるわよ」
「ふふ、気分の問題です」
こうしてドレス姿の綾乃様の手を引いていると、お姫様をエスコートする王子にでもなったような気分だ。
まぁ私なんて王子とはほど遠い存在もいいところなんだけどね、その辺は相応しいイケメン達がおりますので。
「ほらあれです、あれが私達クラスのお店で・・・??」
たどり着いた教室には微妙な違和感が・・・なんだろう。
「どうしたの右子」
「や、なんとなく昨日と何かが違うような気がして・・・」
「・・・肉がない」
「ああそれか」
左子の言う通り店先に昨日あった巨大な肉がない・・・昨日食べちゃったから当然っちゃ当然なんだけど。
違和感の原因はそれ、なのかなぁ・・・それだけあの肉のインパクトが大きかったということなのか。
ちょっと違うような気がするけど、まぁいいや。
「あ、メイド長に左子さん・・・そちらは綾乃さまですね、ご機嫌麗しゅう」
入り口付近にいたのは美咲さんだ。
さすが演劇部なだけあって華がある、所作にも隙がない・・・なんかこの子の方がメイド長に相応しいような気が・・・いやいや、こんな存在感放っちゃいけない、メイドたるもの主を立てないとね。
お手本とばかりに綾乃様の後ろに控えて一礼する。
左子にも追従するように目配せ・・・するまでもなく同じ動きをしてくれてた。
「おお・・・」
たちまちクラス中の視線が集まってくる。
お客さんの方からも感嘆の吐息、声に出てる人もいる・・・綾乃様のドレス姿が全面に押し出された形になったからね、当然の反応だ。
「席は空いているかしら?」
「はいお嬢様、一番良いお席へご案内いたします」
毅然とした態度で尋ねる綾乃様に恭しく礼をして応える美咲さん・・・なんて理想的なメイドの姿、このままでは私の立場が・・・
「さぁ、こちらですお嬢様」
そう言って美咲さんは綾乃様の手を取って窓際の席へ・・・カーテンの隙間からうっすらと陽が差し込んできてまるで絵画のよう。
陽の光を受けて、金色の髪がきらきらと・・・
「どうしたの右子?」
「あ、ごめんなさい、つい・・・」
つい、見とれてしまっていた。
いつものように綾乃様の右隣、左子の反対側の席につく。
「・・・姉さん・・・おなかすいた」
「ごめんごめん・・・綾乃様、何にしますか?」
と言ってもハンバーグだけなんだけど、ソースとかトッピングとかあるからね。
私のお勧めはトリュフソース、流也さまがホテルから取り寄せた逸品で、上品な香りがハンバーグの味を・・・
「こちらがメニューですお嬢様、本日はトリュフソースをお勧めいたしますわ」
ほら、美咲さんもお勧めしてきた。
実際美味しいからね、うちのクラスの間でも人気のメニューだ。
「ではそちらを・・・2人はどうする?」
「私も同じものを・・・左子は?」
「・・・同じのでいい」
「え、いいの?」
お腹お空かせていた左子にしては、ずいぶんとおとなしいオーダーだ。
それこそハンバーグ3枚重ねにトッピング増し増しくらいはしてきてもおかしくないと思ったんだけど・・・
「まだ・・・あの子達には難しいから」
そう言いながら左子が見つめる先には、3枚のハンバーグに四苦八苦する調理班の姿が。
なるほど、彼らが失敗しないように手加減した注文だったのか・・・
「やっぱりまだ・・・練度が足りない」
「そ、そうかな・・・皆がんばってると思う・・・よ?」
左子のじと目が、いつもより鋭い・・・いやいや、学園祭にそこまでのレベルを求めては彼らがかわいそうだ。
「!!」
こちらの視線を感じとったのか、彼らの動きがぎこちないものに・・・だから左子、睨まないであげなよ。
「そういえば、流也さまはいらっしゃらないのね」
「あ、たしかに・・・どこにいったんだろう」
そうだ、ここで綾乃様に引き合わせるはずの流也さまの姿が見あたらない。
いったいどこに出掛けてしまったのか・・・このままでは綾乃様のドレス姿で好感度を稼ごうという作戦が台無しだ。
「お待たせいたしました」
トリュフソースの香りと共に、焼きあがったハンバーグを乗せたワゴンが運ばれてくる。
運んできたのは美咲さんだ、やっぱり流也さまの姿は見あたらない。
「ありがとう、いい香りだわ」
「・・・3枚とも焼き加減がばらばら・・・後で言い聞かせないと・・・」
それぞれに感想おもらす2人をよそに、私は美咲さんに尋ねる。
「ねぇ美咲さん、流也さまはどちらに?」
「流也さまでしたら、今は外に出ておられます」
「えっ、外に?」
「この俺が客を連れてきてやる、と仰って・・・呼び戻しますか?」
ああ、そういうことか。
たしかに、流也さまが呼び込みをすればその効果はてきめんだろう。
この姫ヶ藤きってのイケメンだ、特に何もしなくても女の子達が寄ってくるに違いない。
むしろ今回の場合は、集まり過ぎて身動きが取れなくなる可能性を心配すべきか。
「そうね、面倒な事になる前に戻ってきてもらう方が良いかも・・・」
「誰が面倒だと?」
「や、人気がありすぎるのも困るって話・・・うぇぇ!流也さま?!」
「ふん、まぁそれはその通りだな・・・お前達のような例外もいるが」
どうやら呼び戻すまでもなく帰ってきたらしい。
流也さまの背後には、彼の魅力に釣られて来たお客さんと思われる女の子達が4名。
思ったよりも少な・・・いや、教室の外からこちらを覗く視線がたくさん・・・どうやら彼はしっかり連れてきたようだ。
「流也さま、ごきげんよう・・・お邪魔しております」
「二階堂・・・いや、綾乃お嬢様、本日はご来店ありがとうございます」
フフフ・・・ドレスアップした綾乃様の破壊力の前では、さしもの流也さまも魅了されたか。
はっとした表情を浮かべたと同時に、流也さまは佇まいを正し跪いてしまった・・・それはそれで様になっているあたりはさすがのイケメン。
跪く執事服の流也さまとドレス姿の綾乃様・・・それはまるで中世の絵画のようで・・・
「ちょっと流也さま!私達はいつまでこうしていれば良いんですの?」
せっかくの雰囲気をぶち壊すように大きな声を上げたのは、流也さまが連れて来た4人組・・・その中でも、とりわけ気の強そうな少女が眉間にしわを寄せて抗議の声を放っている。
「そんなコスプレ女達なんて放っておいて、早く私達を案内なさってくださいまし」
む・・・
いやいや接客の邪魔をしたのはこっちなんだし、それくらいは我慢しなきゃ・・・
「ああ、これは失礼致しました。お嬢様方には当店で一番のお席にご案内致しますので、どうかお許しください」
「まぁ、一番ですって!」
「さすがは流也さま、女性を見る目も一流のようですわ」
「青子さん、赤子さん、あまり騒いでは他のお客様に迷惑でしてよ・・・さぁ流也さま、お願いしますわ」
「ではこちらへどうぞ」
尊大なお嬢様と適当な名前の取り巻き、まるで本来の私たち・・・もとい、まるで悪役令嬢みたいな一団は流也さまに案内されて端っこの方の席へ。
あの席なら周囲への被害も少なく済みそうだ、さすがは流也さま。
しかし・・・
「流也さま、紅茶のお代わりをいただけませんこと?」
「流也さま、お勧めのデザートはあるかしら?」
「流也さま、肩が凝りましたわ」
その後も何かにつけて流也さまを呼びつける彼女達のせいで、なかなか綾乃様と流也さまが話す時間を作れない。
そうこうしている間に・・・
「そろそろ出ないと、吹奏楽部のコンサートの時間になってしまうわ」
「あ・・・」
無情にも時間切れ・・・
せっかくチケットを取ってもらったコンサートに遅れるわけにはいかない。
くぅぅ・・・おのれ、謎の悪役令嬢達。
ゲームでは見た事もない子達だから攻略とは全く関係ないんだろうけど、私達なんかよりもずっと悪役してるよ。
泣く泣く教室を後にした私達は、学園内にあるコンサートホールへ向かうのだった。
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