甘やかし系魔女アウラさんと過ごした1年〜美人魔女に癒された社畜は、異世界で自分の趣味を探します〜

@noemi9

第0話 魔女の日常

窓から吹いてくる風が、ひらひらと白いカーテンを揺らしている。まだ朝だというのに、ギラギラと照りつける真夏の太陽の光が、揺れたカーテンの隙間から差し込んでくる。


木造の暖かなぬくもりある室内には、白いテーブルと椅子が向き合って置かれている。壁際には大きなベッドが1つ、棚にはたくさんの書物が入れられ、整然と並べられていた。


窓の近くに置かれたアールの木は、太陽の光をいっぱいに浴びて、青々と揺れている。


朝日というには、あまりに眩しい光を感じ、アウラはパチリと目を覚ました。


身体を起こして、大きく伸びをする。ベットから降りようとすると、足元に、大きく茶色いもふもふとした塊が丸くなっていた。


アウラは、巨大な毛玉を踏まないよう、注意して立ち上がると、窓を大きく開けた。夏の光を受ける長い黒髪は艶やかで、コバルトブルーの瞳はキラキラと輝く。


よしっと気合いを入れ、着替えるためにクローゼットのドアを開けた。今日は仕事もなく、特にするべきこともない。


久しぶりに、ゆっくりと読書をするのも良さそうだ。途中になっている編み物の続きをするのもありだ。そういえば、そろそろ庭の野菜が収穫できそうだから、それを使って料理をするのもいいかもしれない。


今日の予定を考えながら、涼しげな白いワンピースに着替え、アウラは1階に降りた。


1階にはリビングとキッチンがある。キッチンの隣には、大きめのダイニングテーブルと椅子が4脚置いてあった。そこから少し離れたリビングには、ローテーブルと3人掛けのソファーがある。


キッチンに向かうと、保存してあったパンを切ってオーブンに入れた。昨日残しておいた野菜スープの鍋に火をつけ、その隣でお湯を沸かす。


食器棚には、お気に入りの食器が並んでおり、その中から丸い木皿と大きめのスープカップを取り出した。


温めたパンとチーズをお皿に乗せ、カップにスープを入れる。ティーポットに茶葉と熱湯を注ぎ入れて、蒸らすために少しだけ置いておく。


朝食をテーブルに持って行こうとしたところで、足元をもふっとした何かが当たった。


いつの間にやってきたのか、先ほどの茶色い生物が、アウラの足に擦り寄ってきたのだ。


「おはよう、カイ。今日もご飯ぴったりね。」


そう言って笑い、柔らかな毛で覆われた頭をわしゃわしゃと撫でた。


グランドットという希少な種類の動物ーまるでカピバラのような見た目と大きさで、毛はもふもふしているーで、食事の時間以外は基本寝ていることが多い。


雑食で食欲旺盛なカイには、大きめに切ったパンと野菜を用意してやり、自分の食事をテーブルに運んだ。


「豊かな恵に感謝を。」


手を組みながらそう呟くと、アウラは食事を始めた。


一晩経ったスープは、野菜の味が染み出しており、温めたパンもサクサクで、チーズとの相性は抜群である。


机の上に届けられていた新聞を眺めながら、それらをゆっくりと味わう。最後に締めの紅茶を嗜むのが、アウラの日常である。


ーーさて、天気も良いし、今日は庭の野菜を収穫してしまおうかしら。ついでに、伸び放題になっているハーブたちも刈り取ってしまわなきゃね。


「今日のおやつはハーブティーと、ハーブクッキーね。」


そう呟くと、足元でもさもさと野菜を食べていたカイの耳が、ピクピクと反応した。


ふふふと楽しげに笑ったアウラは、食器を片付けると、早速庭の手入れをする準備を始めた。


キッチンの隣にある戸棚から、麦わら帽子を取り出して頭にかぶり、汚れてもいいよう、エプロンをつける。野菜を収穫するために必要な、ハサミや手袋などが入っている、藁で編まれたバスケットバックを持てば、準備完了だ。


玄関の扉を開けると、むわっとした生ぬるい空気がアウラの身体を吹き抜けていった。


家の前に広がる畑の右側には、夏の盛りで鮮やかに色づいた野菜たちが瑞々しく実っている。


左側には、ハーブや魔草がすくすくと育っていた。数日目を離しただけなのに、すでにアウラの背の高さまで成長しているものもある。


家の真隣には大きな木が2本立っており、片方には小さな緑色の実がポツポツと実っていた。


ーーまずは野菜を収穫してしまおうかしら。


野菜畑に向かおうと足を進めた刹那、周りの空気がざわりと揺れた。


思わず、家の隣にある森の方を見るが、特に変わったところは何もない。


遠くの物も見通すかのような、透き通った青い目で、アウラはただ、森をじっと見つめていた。


ーー何か、起こるのかしら…。


森を見つめたままのアウラの身体を、真夏の日差しがジリジリと焦がしていくのであった。

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