第五傷 痛み、痛みを集めるために 第50話
二限目が終わった頃、学校に救急車が入って来た。何事かと生徒たちは窓の外を除きに集まる。零は所存無さげに窓の外に興味を示さず、自分の席に座っていた。
きいろが自殺してから日が浅いが、クラスメイトの切り替えは早かった。
友人たちは心を痛め、休むことがあったが、毅然とした態度で振る舞うようにしている努力を感じる。他はきいろの存在を忘れたかのように平然としていた。
還太朗は一限目の途中に零が教室が教室に戻ってきたのを確認して、胸を撫で下ろした。
「なあ、保健室の先生が倒れたらしいぜ」
「マジ? 誰だっけ?」
「その先生って最近、悪いウワサがあるじゃん。詳しくは知らんけど」
「誰かに恨まれてるってことか」
「でも、倒れるって言ってもベットの上で気絶してたらしい」
「お前よく知ってんな。それなら、事件性はないな」
「な、一人芝居かもな」
あっという間に情報は広がり、クラス中を取り巻いた。学校というコミュニティは恐ろしい。そして、三限目が始まり、風に吹かれたようにさっぱりと話題は移り変わった。
――よかった、俺たちに火の粉が掛からなくて。
「鬼塚ー、次移動教室だぞ」
安心していたところ、還太朗とよくつるんでいる友人が還太朗の肩に肘を乗せた。還太朗は机に突っ伏していたところだ。むくりと冬眠から明けたクマのように起き上がる。
「俺、寝るから配布物があったら、もらっておいてくれ」
還太朗は端から板書したノートには興味がない。
「おれ、アサイー牛乳な」
「……なら行くわ。今、金欠なんだよ」
「それ年中言ってんな」
「うっせえ」
思わず友人を睨んでしまう。還太朗の眼光にビビりちらした友人は、ビクッと身を引いた。
――やり過ぎたか。
「家庭の事情ってやつだ」
友人の肩をポンと叩き、場を和ませようとした。
教科書等をまるで一つも持たずに、ポケットに手を入れて教室を出ようとしたとき、零に視線を配った。零は動こうとしない。
――このまま目立たずいてくれ。
ふと零と目があった。零が口パクで「ケータイ」と言った。
――ああ、携帯見ろってことか。
還太朗は周りにバレないように頷きもせず、零を流し見て、教室を出た。
「はーい、教科書とか余分なモノはしまえー」
四限が始まり、還太朗は携帯を開いた。一様、バレないように机の下で隠れてみるという配慮をする。一様。
連絡が来るとわかっているので、マナーモードに切り替える。
≪脳震盪で済んだと思う
≪そうか。残って何をしていたんだ 還)
≪アイツが撮った写真を消してた 〇)
――写真……ハメ撮り? 胸糞悪いな。
≪アイツ、そんなことしてたのか 還)
≪うん。ご丁寧にパソコンにまで保存してあった。わたしたちの関係がバレたらマズいから 〇)
≪そうか。よくやった 還)
≪問題は記憶をちゃんと消せてるか、だよね。還ちゃんのこと憶えてたらどうしよう 還)
≪俺が保健室に出入りすることを誰が信じるか? 還)
≪そうだね 〇)
≪それより体調はどうだ 還)
≪だいぶ楽になったよ。頭痛もマシになった 〇)
≪よかった。今日の晩飯は何がいい 還)
≪オムライス‼ 〇)
零の返事が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
が、小テスト中だったため、クラス中の視線が還太朗に注がれた。そもそも還太朗がこのように笑うのも物珍しいことだ。担当教科の先生がわかりやすく咳ばらいをした。還太朗への忠告だろう。
――やっべえ。
流石の還太朗もバツが悪くなり、携帯をしまった。
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